台頭する韓国、台湾の電子機器産業 ー 「日本製」はなぜ消えたか
- 2011年 6月 4日
- 時代をみる
- 浅川 修史電子機器産業
日本の電子部品企業が景況のベンチマークとして注視するのは、パナソニック、ソニー、シャープ、NEC、東芝、日立ではない。韓国のサムスン、LG電子と台湾企業である。特に台湾企業は、機動的に生産を動かすので、格別なベンチマークの対象になっている。台湾は韓国のような世界的に通用するブランド企業はないが、半導体、液晶パネルの生産では韓国としのぎを削る規模になっている。特にEMSと呼ばれる電子機器の受託生産では世界トップレベルである。日本が電子機器生産で圧倒的優位を誇る時代は終わっている。
1895年から1945年まで日本は台湾を統治した。台湾社会は内省人と外省人に2分される。後者は1949年の中国革命以後、本土から台湾に逃げてきた人々の子孫である。内省人は50年間も日本語教育を受けて、日本の文化に染まり、日本人と似た意識構造を持つようになった。
台湾人を類型化すると、「英語、日本語、中国語を話すことができ、中国人のバイタリティと日本人的緻密さを兼ね備える世界最強のビジネスパーソン」とやや過大に評価されている。
台湾を代表するEMS企業が鴻海精密工業である。自社ブランドの生産はしないが、アップル社のiPhone、iPad、デル社、HP社のパソコン、ソニー、任天堂のゲーム機、ノキア社の携帯電話、ソニーの液晶テレビなどを生産している。皆さんが使用されているパソコンのキーボードはほぼ100%台湾の会社が中国で製造したものと思っていいだろう。鴻海精密工業も90%は中国で生産する。深セン、成都に主要な工場がある。系列のフォックスコン社が所有する工場群である。鴻海精密工業に2007年の従業員は55万人とされるが、アップル社のiPhone、iPadの生産が急拡大していることから、成都工場だけで数十万人規模の従業員を新規に採用する計画というから、驚くばかりだ。
アップル社が開発、設計し台湾のEMS企業が生産するアップル社のiPhone、iPadだが、目に見えない重要部品は日本製が使用されている。韓国、台湾、中国の電子機器産業が技術、デザイン、部品、製造装置でまだ日本に依存していることは事実だ。ただ、かつてのように日本の電子機器メーカーが開発、設計から部品製造、組み立てまで行う垂直統合の時代は終わっている。
パソコンなどに使用されるHDD。日立は世界3位のHDD部門を世界首位の米国ウェスタン・デジタル(WD)社に売却することを決定した。日立のHDD部門は2003年にIBMのHDD事業を買収することで拡大したが、悪戦苦闘の末、8年程度で手放すことになった。
これで、世界のHDDは米国のWD社とシーゲート社の二社寡占体制になる。
日立は過去10年間ほど、パソコン、半導体、民生用電子機器など景気変動が激しく設備投資の負担の大きい部門を次々に手放していった。電力機器、部品、鉄道車両、建設機械、メインフレーム、ソフトウェアなどインフラ部門に経営資源を集中して生き残る戦略だ。
Made in 亀山。日本製を強調し、消費者の好感度を上げることで液晶テレビの国内シェアを上げてきたシャープもついにMade in 亀山の液晶テレビをギブアップする。液晶テレビが価格下落で赤字になっていることが理由である。亀山工場の設備を改造して、スマートフォンやタブレットPC向けの中小型液晶パネル生産に転換する。同時に台湾の鴻海精密工業や中国南京から液晶パネルを調達する方針だ。
ある日本の電子部品企業の知人が語る。「震災で日本のサプライチェーン(部品調達網)が寸断され、自動車、電子機器が減産になっている。だが、日本で年間40、50万台の自動車が減産になっても、それ以上に中国の生産変動が与える影響のほうが大きい」。
1990年ころまで、世界の追随を許さなかった日本の電子機器産業がなぜここまで凋落したのか。円高。日米半導体協定など米国の封じ込め政策。韓国、台湾、中国の台頭。日本の経営者の戦略ミス。外国への技術流出。いろいろ原因がある。研究する価値はある。
(唐突だが)ヘーゲルが語るように「ミネルヴァの梟は陽が落ちて飛び立つ」のだから。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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