青山森人の東チモールだより…またも頭をもたげる名誉毀損罪
- 2020年 6月 28日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
- 首相兼内務大臣:タウル=マタン=ルアク (P)
- 副首相兼社会連帯包括大臣:アルマンダ=ベルタ (K)
- 副首相兼計画調整大臣:ジョゼ=マリア=ドス=レイス (F)
- 首相兼内務大臣:タウル=マタン=ルアク (P)
- 副首相兼社会連帯包括大臣:アルマンダ=ベルタ (K)
- 副首相兼計画調整大臣:ジョゼ=マリア=ドス=レイス (F)
- 内閣長官:フィデリス=マガリャエンス(P)
- 国会担当大臣兼社会通信大臣: フランシスコ=マルチンス=ダ=コスタ=ペレイラ(F)
- 経済調整担当大臣:ジョアキン=アマラル(F)
- 財務大臣:フェルナンド=ハンジャン(F)
- 外務協力大臣:アダルギザ=マンゴ(F)
- 法務大臣:マヌエル=カルセレス=ダ=コスタ (P)
- 教育青年スポーツ大臣:アルミンド=マイア
- 高等教育科学文化大臣:ロンギニョス=ドス=サントス (P)
- 公共事業大臣:サルバドール=ソアレス=ドス=レイス=ピレス (P)
- 運輸通信大臣:ジョゼ=アゴスチーニョ=ダ=シルバ (K)
- 農水大臣:ペドロ=ドス=レイス(K)
- 石油鉱物資源大臣:ビクトール=ダ=コンセイサン=ソアレス
- 防衛大臣:フィロメノ=ダ=パイシャン=デ=ジェスス
- 観光商工業大臣:ジョゼ=ルーカス=ド=カルモ=ダ=シルバ
- 行政大臣:ミゲル=ペレイラ=デ=カルバーリョ(F)
- 保健大臣:オデテ=マリア=フレイタス=ベロ(F)
- 民族解放戦士担当大臣:ジュリオ=サルメント=ダ=コスタ=メタ=マリ(民主党)
- 財務副大臣: サラ=ロボ=ブリテス
- 外務協力副大臣:ジュリアン=ダ=シルバ (K)
- 行政副大臣:リノ=デ=ジェスス=トレザン
- 保健副大臣:ボニファシオ=マウコリ=ドス=レイス
- 教育青年スポーツ副大臣:アントニオ=グテレス
- 社会連帯包括副大臣:シグニ=ベルディアル (P)
- 公共事業副大臣:ニコラウ=リノ=フレイタス=ベロ
- 法務副大臣:エドムンド=カエタノ (K)
- 観光商工業副大臣:ドミンゴス=ロペス=アントゥネス (F)
- 共同体文化観光副大臣:イナシア=ダ=コンセイサン=テイシェイラ
- 農水副大臣:アビリオ=シャビエール=デ=アラウジョ
- 内務副大臣:アントニオ=アルミンド (K)
- 職業雇用創出庁長官:アラリコ=ド=ロザリオ (K)
- 協同庁長官: エリザリオ=フェレイラ(F)
- 環境庁長官:デメトリオ=ド=アマラル=デ=カルバーリョ (P)
- 社会通信庁長官:メリシオ=ジュベナル=ドス=レイス=アカラ
- 土地所有庁長官:マリオ=シメネス
- 青年スポーツ庁長官:アブラン=サルダーニャ
- 芸術文化庁長官:テオフィロ=カルダス
- 平等包括庁長官:マリア=ジョゼ=ダ=フォンセカ=モンテイロ=デ=ジェスス
- 元民族解放戦士担当庁長官:ギル=ダ=コスタ=モンテイロ=オアン=ソル
- 市民保護庁長官:ジョアキン=ジョゼ=グズマン=ドス=レイス=マルチンス (K)
- 水産庁長官:エリディオ=デ=アラウジョ
生活支援金の給付
東チモールでは4月25日から新型コロナウィルスの新たな感染者は出ておらず、5月15日からは感染治療患者もゼロの状態が続いており、死者数もゼロです。最近の検査数などの数字は以下の通り。
-日付———①——–②——–③——-④——–⑤—–
6月 20日–1944人—89人—-24人—1881人—28人*
6月 21日–2118人—198人—-24人—1896人—28人
6月 22日–2118人—198人—-24人—1896人—28人
6月23日–2160人—152人—24人—-1984人—28人
6月24日–2221人—133人—24人—2064人—28人
6月25日–2281人—149人—24人—2108人—28人
6月26日–2336人—199人—24人—2113人—28人
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①検査を受けた人、②検査結果待ちの人、③結果が陽性だった人、④結果が陰性、⑤回復した人
(保健省の資料より、②以外は3月6日からの累計)
(*) 24人が陽性確認から、4人が感染可能性からの回復。
東チモールは感染予防対策として非常事態宣言の処置がとられています。人と物資の移動が制限されるため政府は生活支援金として月収500ドル未満の世帯に100ドルを支給することにしたのが4月です。対象世帯のリスト作成に手間取り、支給作業は遅れに遅れて6月9日からようやく開始されました。現在すでに3度目の非常事態宣言下にあるので、過去2度の非常事態宣言分として支給額は200ドルとなります。
6月9日から開始された給付対象世帯数は29万8119ですが、これには飛び地・RAEOA(オイクシ/アンベノ特別行政地域)は含まれていません。RAEOAの生活支援金の作業はこれから着手されるようです。
この生活支援金の給付作業は、5月29日に閣僚8名の宣誓就任式が行われて新たな船出をした第八次立憲政府の能力の試金石であろうと思われます。つまり、この生活支援金の給付作業は社会連帯包括省の管轄であり、その大臣はKHUNTO(チモール国民統一強化)のアルマンダ=ベルタ=ドス=サントス党首で先の就任式で副首相になった人物であることから象徴的な意味としてこの生活支援金の給付作業は新生・第八次立憲政府の能力のいかほどを窺い知るには格好の材料といえます。
当初の計画では6月9日に始まって二日ほどで終わる予定でしたが、13日の時点で支給を終了した地方自治体もあれば支給率50%に満たないところもあり、全体的に支給作業の歩みはのろいようです。17日の時点で給付金を受け取った世帯数は23万1000です(『テンポチモール』、2020年6月18日)。9日間で支給率は八割弱に達したことをよくやっていると見るか否と見るかは難しいところです。
報道によれば、この生活支援金の支給事業は不公平を生み出しているようです。例えば500ドル以上の月収がある世帯が受給者リストに載ったり、登録したのに受給者リストに名前が載っていなかったりという不備が多数発生し、あるいは支給作業員はこの作業で一日40ドルをもらう一方、同じ新型コロナウィルス対策に従事している国防軍兵士の一日の特別手当は25ドル、警察官のそれは15ドルと差が開きすぎると野党CNRT(東チモール再建国民会議)の議員に指摘されています。さらに『テンポチモール』、2020年6月22日)はこの事業をとおして社会連帯包括省と関係会社が懐を温めている疑惑を報じています。給付作業の歩みの遅さ、不手際、そして特定の会社が利益を得ているのではないかという疑惑……なんだか日本と似ています。
東チモールでは受給者の銀行口座に給付金を振り込むという方式を採れず(行政がまだそこまで進んでいない)、現金を各支給会場に運び、係員の手から受給者の手へと現金が直接手渡される方式となっています。6月9日のニュース映像を見ると、支給開始を“記念”するように副首相であるアルマンダ=ベルタ社会連帯包括大臣がマスクを着用せずに住民に現金を手渡していました。そしてその会場では受給者たちがびっしりと接近状態で長蛇の列つくり、感染予防対策の基本である社会的距離は保たれていません。生活が苦しい住民が給付金を早く受け取りたいという心理がはたらき感染の危険を冒すという行動は日本でもありました。日本では給付金を早くもらいたくてマイナンバーの登録をするため役所に住民が押し掛けました。これもまた似た者同士です。
なぜこんな時期にこの法律が
日本と似ているといえば、新型コロナウィルスでたいへんなこの時期になぜこんなことを……と思わせる怪しげなことが東チモールでも出てきています。6月5日、マヌエル=カルセレス法務大臣が名誉毀損法の修正草案を各団体に提出し、名誉毀損法を議論する“キックオフ”にしたいと言い出したのです。これまで1年の禁固刑だったのが、この草案では“被害者”が公人であるか、名誉棄損に使われた手段が報道か“ソーシャルメディア”であるかなどによって2~3年の禁固刑に科せられる内容を含んでいます。
法務大臣は名誉棄損法は人を罰するためでなく教育するためのものだと発言しましたが、「教育するため」とは「思い知らせるため」という意味にもとることができ、上から目線の攻撃的な姿勢を感じます。
「ノーベル平和賞」受賞者のジョゼ=ラモス=オルタ元大統領はこの草案は優先されるべき課題ではないと反対を表明しました。人権団体やジャーナリスト団体からも反対の声が一斉に上がっています。多大な犠牲を払って獲得した自由をなぜ自らなぜ縛る必要があるのかという想いはいまなお新鮮です。刑事罰として名誉毀損罪を適用されるとまずもって記者たちを畏縮させてしまい、民主主義の首を絞めつけてしまいます。SNSによる誹謗中傷で個人または団体が被害をうけることを避けるため何らかの制度的措置は必要であるとしても、民主主義の根幹をなす報道・表現の自由を畏縮させてはなりません。
メリシオ=アカラ社会通信庁長官は、憲法で保証されている報道・表現の自由を損ねる政治的意図はない、草案は提出されたばかりで閣議にまだ提出されていない、拒否するにはまだ早いと述べ、タウル=マタン=ルアク首相は、報道・表現の自由と名誉棄損は別ものだ、幅広い議論が必要だと述べています。これはこれで正論ですが、報道・表現の自由とSNSによる誹謗中傷がごっちゃ煮にされる可能性は否定できません。
過去、名誉毀損罪がジャーナリストに適用されようとするたびに非難の声が国の内外から沸き起こりました。記憶に新しいのは、2016~2017年、当時のルイ=マリア=デ=アラウジョ首相が『チモールポスト』紙のオキ記者とマルチンス編集者の誤報記事にたいし名誉を棄損されたとして刑事訴訟を起こした件です。首相は国内外の人権団体やジャーナリスト団体から起訴を取り下げるように求められましたが聞き入れず、検察側はオキ記者に1年の禁錮刑、マルチンス氏に1年の禁錮刑または2年の執行猶予を求刑するまで裁判が進みました。このとき当時のタウル=マタン=ルアク大統領は名誉棄損の刑事訴訟に反対、報道・表現の自由を擁護する立場で、オキ記者に直接会って激励していました。結局、首相は判決日直前になって裁判所に二人を禁固刑に処しないでほしいと求める内容の書簡を送り二人は無罪となりました(東チモールだより 第333・347・352号などを参照のこと)。
そのタウル=マタン=ルアク大統領がPLP(大衆解放党)を立ち上げ首相になって安定した政権運営がようやくできるようになった今、報道・表現の自由を脅かす法改正の草案を世に出すとは理解に苦しみます。タウル=マタン=ルアク参謀長と共に自由のために闘った戦士たちはなにを想っているのでしょうか。
二年目にして第八次立憲政府が完成
6月24日、5月29日に続く二回目の閣僚宣誓就任式が行われました。7名の大臣と9名の副大臣そして5名の長官が就任しました。これで既存の閣僚を併せて第八次立憲政府の人員の就任が完了したことになります。首相と副首相2名を含め総勢43名で構成される大所帯の政府をタウル=マタン=ルアク首相が率いることになりました。新生・第八次立憲政府の人員とその所属政党(F=フレテリン[東チモール独立革命戦線]、P=PLP、K=KHUNTO、記載がないのは民間人)は以下のようになります(『インデペンデンテ』、電子版2020年6月23日などを参考)。
2018年6月22日にCNRT・PLP・KHUNTOの三党連立で発足した第八次立憲政府は二年の歳月を経てようやく人員配置が完了したと思ったら、フレテリン・PLP・KHUNTOの三党連立に変わっていたという奇妙な合従連衡の劇が展開されたわけです。新型コロナウィルスの影響でそれでなくとも苦しい生活を強いられる庶民にとって面白くもおかしくもない政治劇です。
青山森人の東チモールだより 第420号(2020年06日26日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9888:20200608〕
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