【直前案内】7月4日(土)世界資本主義フォーラム・北原徹「段階論と戦後アメリカ資本主義」
- 2020年 6月 28日
- スタディルーム
- 北原 徹
- 主催 世界資本主義フォーラム
- 日時 2020年7月4日(土) 午後1時30分~5時 (受付開始 1時)
- 会場 本郷会館 東京都文京区2-21-7 電話 03-3817-6618
- オンライン参加
- 報告 北原徹(立教大学名誉教授)
- テーマ 段階論と戦後アメリカ資本主義
- 参考文献 参考文献:
- [本郷会館で参加]申し込み
- [オンラインで参加]申し込み 7月3日までに 矢沢 yazawa@msg.biglobe.ne.jpまで
- 参加費500円(オンラインの方は、あと払い)
- 問合せ・連絡先 矢沢 yazawa@msg.biglobe.ne. jp 携帯090-6035-4686
●新金融資本主義とは?
・新金融資本主義の2本の柱:機関投資家・金融市場の圧力によるコーポレートガバナンスにおける株主価値経営と金融機関・金融市場の動きが実体経済を振り回すこと
・経営者資本主義→新金融資本主義:
コーポレートガバナンス面:経営者主導のステークホールダー・キャピタリズム→シェアホールダー・キャピタリズム
金融と実体経済:金融は実体経済のサポート役→金融が独自の運動をし、実体経済を振り回す。
●経営者資本主義段階の構造
・基軸産業は第2次産業革命関連の産業であり、重化学工業を基盤とする耐久消費財産業
・第2次産業革命関連産業は裾野が広く、生産財・消費財を含めて幅広い新製品を生み出す能力が大きい。
・成長が期待できる経済環境の中で企業は投資を積極化させ、生産性は1960年代まで長期に亘り高水準(図表6)
・株式保有の分散の下で専門的技能を持った大企業経営者(企業ステーツマン)主導のコーポレートガバナンス(ステークホールダー・キャピタリズム)
・高い生産性上昇は、労働者の同権化とステークホールダー・キャピタリズムの下で賃金上昇をもたらし(生産性基準原理)、需要拡大につながり、高成長循環を形成(図表3)
・資本蓄積・景気循環は、景気過熱時のインフレ昂進を防止する金融引締政策で下方転換(インフレ循環)。
・国家の政策は成長と雇用・福祉を重視し、高成長循環を支える。
・金融は実体経済と並行的に拡大し(図表13)、金融は実体経済のサポート役
・1970年代には第2次産業革命の効果は減衰し、生産性上昇の推進力を失い、労使の協調は困難化し、スタグフレーションに陥る(図表3, 6)
●新金融資本主義段階の構造
・1970年代の経済状況悪化への対応、社会主義の弱体化・崩壊:イデオロギー面の新自由主義、政策面の規制緩和路線
・積立方式の年金の資産蓄積(図表20, 21)、年金の株式保有比率上昇(図表7)と芳しくない企業経営状況を背景とする大口株主=年金の敵対的企業買収支援や経営への圧力強化(「株主叛乱」)→株主価値経営への転換(シェアホールダー・キャピタリズム)
・株主価値経営、産業構造流動化の下での所得格差の拡大:1980-90年代は労働所得面で格差拡大、2000年代は資産所得面から所得格差拡大、図表10, 11
・基軸産業面での第2次産業革命関連産業に代わるICT産業:
実体経済面の力不足:裾野が狭い(雇用・付加価値)図表7、生産性上昇効果も1990年代-2000年代初頭をピークに減衰,図表6、投資面でも第2次産業革命関連産業に比べかなり小さい図表24、ベンチャー性(新自由主義との親和性)
株式面からの金融拡大要因:1990年代のネットバブル、ポストリーマン期のGAFAM主導の株価高騰
・金融の拡大・肥大化:
1980年代から実体経済に比べて金融拡大(債務・資産価値・金融部門拡大、図表12, 13):構造的拡大要因は債務拡大と資産価値増大
・金融の論理の前面化:金融の論理(内容・形態を問わない価値増殖自体G-G’の追求)が金融機関行動面・資金運用面・コーポレートガバナンス面で前面化
・金融の拡大・肥大化の要因:積立方式の年金制度の確立・資産蓄積(←平均寿命・退職後余命の長期化)図表20, 21、金利の傾向的低下(→債務拡大、資産価値増大)図表22、金融の自由化・規制緩和(→金融機関のアグレッシブな行動)、金融技術革新・イノベーション、ICT産業の成長性・高収益性(→株価高騰)
企業の金余り:経済成熟化に伴う投資先不足による企業の余剰資金増大・金融投資拡大が金融肥大化の要因と議論されることがある。米国企業の企業金融の状況を見ると、企業の余剰資金増大は実物投資低迷が始まった1980年代からではなく、2000年代に入ってから。企業の余剰資金は金融投資に向けられるのではなく、配当・自社株買い(株主還元)に向けられる。図表23(→株価高騰)
・金利低下の要因:企業の実物投資低迷,図表4, 5(←第2次産業革命関連産業の成熟、ICT産業の投資の小ささ、サービス経済化、図表24)→需要不足・経済停滞傾向→雇用確保のための政策金利引下げ→市場金利・長期金利低下
海外からの資金流入(1980年代半ば以降顕著)
・米国企業投資低迷の原因は海外直接投資拡大か?
海外直接投資による国内固定資本投資への影響を考える場合、米国企業による対外直接投資によるマイナスの影響と海外から米国への直接投資(対内直接投資)によるプラスの影響の両面を見る必要がある。両者の影響の大きさを直接に把握することは難しいので、米国企業による対外直接投資と海外から米国への直接投資の大きさを比べる(図表25)。対外投資の対内投資に対する超過分が、国内固定資本純投資率が傾向的に低下する1980年代以降(図表4, 5)において拡大していくという傾向は見られない。1980年代以降の固定資本投資低迷の大きな原因として、海外直接投資の拡大を挙げることはできないと考えられる。
・金融拡大の下での金融変動の拡大:金融の変動(債務変動・資産価格変動、金融機関活動のアグレッシブさと変動、図表14, 15, 16, 17, 18)とその拡大が実体経済の変動を引き起こす(金融循環)。景気は1980年代以降インフレ率ではなく、信用拡大と共に変動(インフレ循環→金融循環、図表19)
バブルの発生・膨張・崩壊が実体経済を振り回す。金融は本来的に将来先取り的であるため変動しやすい。拡大・肥大化した金融はこうした金融の変動を大きくする基盤・背景となっている。
●ポストリーマン期の新しい動き
・低成長・低生産性上昇←第3次産業革命(ICT技術)の効果減衰
AI開発進展・広範な実用化による第3次産業革命の再活性化・生産性向上が期待できるか?
否定的:AIはプロセス・イノベーション的性格が強く、プロダクト・イノベーション的性格が弱い。プロダクト・イノベーション→需要を喚起する新製品創出を通じて経済拡大的、 プロセス・イノベーション→中抜き・労働節約的で経済縮小的
コロナパンデミックはICT産業の活動領域拡大の可能性を示す?
・コーポレートガバナンスにおけるステークホールダー・キャピタリズムへの動き
・機関投資家の中での年金の比重低下・投信の比重増大→コーポレートガバナンスへの影響は?
・金融規制強化による金融機関行動の抑制
・金融拡大・肥大化の構成要素である債務拡大が勢いを失う
・金利低下の限界、高齢化進展・年金資産取り崩し→資産価格上昇鈍化・下落圧力、図表26, 27
・全体としてどういう構造変化が生じているのか?
支配的資本である金融資本の影響力低下?
イデオロギー面での変化の方向が重要?
・支配的資本の定義:「その段階の(国内の、世界の)経済の動向を支配的に主導している資本」(山口重克)ないしは「(その段階の)支配的な資本主義のロジック」(河村哲二)を主導している資本
・資本の定義:自己増殖する価値の運動体
ここで定義された資本の主体・担い手は通常は企業である。しかし、新金融資本主義段階の支配的資本を金融資本と考える場合、機関投資家・ファンド等を考慮する必要があり、資本の主体・担い手を企業に限定することは適切ではない。
・運用資本:運用業務を直接に担っている運用業者(企業のことも、複数・単数の個人のこともある)とそこに資金運用を委託しているAsset owner(団体・個人の資産保有者)との両者を総合したものとしての資本
・馬場宏二氏は、企業とは「自己増殖する価値の運動体」である資本の組織体である(『経済学古典探索』p.210)と規定しているが、現状では、上記のAsset ownerと運用業者とを総合したもの(運用資本)も、企業だけでなく資本の組織体・担い手と考えてよいのでは?
・こうしたことから、支配的資本は、経営者資本主義段階では経営者支配大企業資本であり、金融資本主義段階では金融資本(運用資本・金融機関資本)である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
7月4日北原徹「段階論と戦後アメリカ資本主義」・世界資本主義フォーラムのご案内
http://www.city.bunkyo.lg.jp/gmap/detail.php?id=10136
アクセス 地下鉄本郷三丁目から徒歩5分 (下の案内図参照)
◆東京メトロ丸ノ内線「本郷三丁目」より徒歩5分。
*丸ノ内線「本郷3丁目」駅からの行き方:「春日通り方面」出口から出て左へ。大横町通りに出たら右折し、100メートル行くと三菱UFJ銀行のATMがあります。ここを左折すると三河稲荷神社。その隣です。
◆都営大江戸線「本郷三丁目」3番出口より徒歩6分
*オンライン参加も併用
会場は、コロナ対策で定員が半減し、11名となっています。
ZOOMによるオンラインでの参加も可[ただし、技術的な制約があり、スムーズにいかない場合は、ご容赦ください]。
略歴:1976年一橋大学大学院経済学研究科博士課程中退、高知大学、東京学芸大学で教鞭を執り、1999年から2005年まで立教大学経済学部教授、現在立教大学名誉教授
専攻分野:金融論、証券経済論
――1980年代以降の金融経済の肥大化と変調と世界資本主義
戦後アメリカ経済の変遷を、1970年代までの経営者資本主義段階、1980年代以降の新金融資本主義段階として段階論的観点から整理・考察する。さらに、リーマン・ショック以降の経済の動きを新金融資本主義からの変化として取り上げる。
北原徹「ポスト・リーマンの米国金融と金融肥大化の終焉」『立教経済学研究』71巻2号2017年10月
北原徹「ポスト・リーマンの米国経済」『立教経済学研究』72巻2号2018年10月
いづれも立教大学のレポジトリーからPDFをダウンロードできます。
安岡まで メール:yasuokafamily-1229@memoad.jpまたは 電話 090-9828-2342
―――――――――――――――――――――――――――――――――
2020年8月以降の世界資本主義フォーラムの予定
■8月29日(土) 青山雫「世界恐慌とパクス・アメリカーナへの移行」
■9月26日(土) 河村哲二「アメリカ戦時経済とパクス・アメリカーナの成立」
■10月 矢沢国光「資本主義国家の成立(2) 「東方問題」と第一次大戦」
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study1127:200628〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。