SJJA& WSJPO【西サハラ最新情報】377 サラー 西サハラ難民アスリート ⑧サラーの記録映画
- 2020年 7月 7日
- 評論・紹介・意見
- アマイダン・サラーサハラマラソンランナー平田伊都子西サハラ
「僕は、象徴みたいな扱いをされるのが好きじゃない」と、サラーは様々なインタビューで繰り返しています。 サラーの最新記録映画でもその言葉を聞き、額面通りに受け取れない戸惑いを感じました。 シャイなのか?気取りなのか?、、本意は何なのか?
これは、本人に聞くしかないと思いましたが、、止めました。 聞いても本当の事を言うかどうか分からないし、また、言われたら、それを受け入れるしかないからです。 サラーの真実は?彼の映像とインタビューで推測してください。
⑧サラーの記録映画
数々あるサラーの動画 :
Youtube(ユーチューブ)には、様々なサラーの動画がアップされている。動画は、西サハラ国旗を掲げてゴールを決めたサラー21才以後、つまり2004年以後に投稿されたものだ。それ以前のサラーはモロッコの支配下にあって、<喋ってはいけない罰>を科せられていた。
ユーチューバーが簡単に投稿できるようになったのは最近だから、動画がアップした年月日と撮影年月日は必ずしも一致しない。サラー本人の記憶も曖昧なものがあるし、、行きつ戻りつしながら、サラーのマラソン人生を追っかけている。
大部分のサラー・マラソン動画は一分足らずで、フランス地方都市のロードレースだ。無編集の撮りっぱなし映像で、説明のナレーションも字幕もない。「サラー頑張れ!」とアラビア語で叫ぶ現実音が入るので、フランスに住む西サハラ人がホームビデオカメラを回しているのだと推測できる。画面はブレブレだし、やたらカメラを振り回すから目が回ってしまうけど、ド素人映像はそれなりに新鮮だ。2012年2月に企画された<Tour des Remparta(フランス城塞都市ツアー)>では、2月5日にマルセイユで、2月12日にアビニオンで、サラーは11kmレースに参加し優勝している。一週間も経たないうちに走るのは体を痛めることになるが、サラーは賞金稼ぎは若いうちと決めていた。足を武器にした<ストリート・ファイター>は、フランスの地方都市で走りまくった。
サラーのパンツとシャツ姿に飽きてきた読者の皆様には、<2009年10月18日ロンドン>と記された動画をお勧めする。黒い背広姿で粋に決めたサラーに会えます。
ロンドンで催されたアルジェリア主催の<アルジェリアと西サハラ文化祭>に招かれたサラーが、アルジェリアTVのインタビューに応じている記録動画がそれだ。「西サハラ独立運動は、同志であり大先輩であるアルジェリアの援助と連帯がなければやっていけない。我々はアルジェリアに限りなく感謝している」と、サラーは正則アラビア語で、アルジェリア政府にゴマをすり、営業スマイルを振り撒いていた。血気盛んな青少年時代をモロッコ王から頭を押さえつけられて生き延びてきたサラーだ。処世術が身に沁みついている、老練な若手活動家でもある。
The Runner(走る人) :
「走る事は、僕にとって最優先の抵抗手段だ。それは、僕が持っているただ一つの武器だ」と、サラーは<The Runner(走る人)>というサラーの記録映画の中で語っている。
サラーを主人公にした長編記録映画<The Runner(走る人)>は、2010年の<サハラ・マラソン>でクランクインし、2年後の2013年に公開された。約2年間もかかったのは、<アラブの春>と呼ばれる<アラブの春嵐>の真っ只中にあったからだ。フランスで訓練するアラブ人のサラーの身辺には、いつも目に見えない危険がまとわりついていた。22才の弟アバチカが南仏アビニョンで暗殺されたのも、この頃だった。
映画の中で、「怖くないか?」と、聞かれたサラーは、「怖くなんかない、西サハラ人は恐れる事を知らない」と、答えている。そして、「僕は走っている時、スコアボードに西サハラの国名を載せる事しか考えていない。僕の頭には、いつも、モロッコ占領地の西サハラ被占領民と西サハラ砂漠の難民の姿がこびりついている、、」と、熱っぽく語る。「サラーは西サハラ人民の解放運動に関して饒舌に喋りたがるが、彼自身のことはあまり話したがらない」と、<The Runner(走る人)>を作ったエジプト系パレスチナ人のサイード・タジ・ファルーキは明かす。
しかし、ファルーキは、「サラーの生き様は、記録に値する。彼の細い、が、長年長距離ランナーとして訓練されてきた強靭な体と、砂漠の過酷な風土が創造した黄金の肌と彫りが深い顔立ちは、観客を魅了し、観客の心を忘れられた西サハラ紛争に向けてくれる」という初心を貫いた。そして、2年以上の歳月がかかっても、カメラを回し続けた。
「僕は、難民(亡命)という状況にお世話になりながら、利用しながら生きてきた」と、サラーは逆境にめげない処世術を語っている。が、ストーブに火を点けながら、「今月は一銭も収入がない」と、呟くサラーの姿もカメラは捉えている。
2013年、サラーの記録映画<The runner(走る人)>が、公開された。
<The Runner(走る人)>の予告編を紹介しておく。冒頭に、モロッコ占領地・西サハラで2010年に勃発した西サハラ・インテイファーダとそれを完全に壊滅したモロッコ占領治安部隊のニュース映像を流し、インタビューに答えるサラーのアップ、西サハラ難民キャンプを走るサラー、サラーの狭いアパート生活、そして山を走るサラーと、、上質な映像が重ねられている。。
ボレロ、ハビエル・バルデム、Fisahara(フィサハラ) :
演出家ファルーキの映像は、奇をてらわず分かりやすく、しかもどのカットを切り取ってもそのまま写真展に出せるような、見事なものだ。ファルーキはイギリスを活動拠点にする、フリー記録映像作家で、記録写真家で、著作家でもある。表現能力に卓越しているだけでなく、パレスチナ人という苦渋を背負わされた人生が彼を優しく強くしている。カメラの向こうの取材対象に、彼は全身全霊で対峙する。その真摯な取材姿勢が彼の作品に満ち溢れている。彼は、2003年に<タイプライタ‐を抱えたツーリスト>という名の、記録映画製作会社を創った。2005年には、タンジェ港からヨーロッパに密航しようとするモロッコ人を追う記録映画を作った。2013年にはサラーの<走る人>を、2016年にはアフガニスタン戦争の最前線記録映画を発表している。どの作品も感覚の良い映像と分かりやすいコメントで、声高に叫ばなくても人権とか社会正義とかの想いが伝わってくる。世の中には素晴らしい才能の持ち主がいるんですね!
ファルーキだけではない、素晴らしいパレスチナ映像作家は多々いる。その中でも最高傑作は、10分強の記録映画<無題>。思い出しても背筋がゾクゾクしてくる。音はラヴェルのボレロ、映像は目隠しをし足枷をし、動けなくした2,3人のパレスチナ青年の肘を数人のイスラエル兵が石で砕いているシーンを望遠で撮ったもの。「石を武器にするインテファーダに対する見せしめの刑だ」と、映像作家ムハンマド・アッサワールメは自宅でその作品を見せてくれた後、説明した。ショックだった。アッサワールメは稀有な編集技術とお洒落な感覚を持つ、天才的映像作家だ。
パレスチナの映像作家ファルーキがサラーの走りをサハラマラソンで撮っている頃、スペインの役者が西サハラ難民キャンプを取材していた。彼の名はハビエル・バルデム。2007年のアメリカ映画<ノーカントリー>では冷酷な殺人鬼を演じ、アカデミー助演男優賞 、
ゴールデングローブ 助演男優賞 、英国アカデミー 助演男優賞 、英国作家協会助演男優賞 、ニューヨーク映画批評家協会 助演男優賞 、全米映画俳優組合助演男優賞 と、その年の主要な賞を総なめした。2012年の<007スカイフォール>では極悪非道な敵役を不気味に演じている。が、その悪役が寝袋に潜っているところを、西サハラ難民の子供に起こされるシーンを見た人は少ない。2008年頃からハビエル・バルデムは西サハラ難民キャンプを訪れ、<Sons of the clouds – the last colony(雲の息子たち―最後の植民地)>という題の記録映画制作に着手していた。ヴァロ・ロンゴリアが演出を担当した。
ハビエル・バルデムは1969年にスペイン・カナリア諸島のラスパルマスで、祖父母の代から役者という芸能一家に生まれた。ラスパラマスはモロッコ占領地・西サハラから一番近いスペイン領土で、昔も今も西サハラ人とスペイン人の往来が盛んだ。ハビエル・バルデムの両親も西サハラ問題に深い関心をよせ、西サハラ連帯のデモには親子揃って参加してきた。
<雲の息子たちー最後の植民地(81分)>スペイン製記録映画は、2012年2月16日に公開され、2013年のゴヤ賞記録映画部門で受賞した。作品は西サハラ難民キャンプの生活やモロッコ占領地・西サハラの記録映像に加え、ハビエル・バルデム自身が黒の正装で国連に乗り込み、「私はNGO支援団体の回し者ではない。一個人として、西サハラと歴史的に関わりを持つスペイン人として、発言する。西サハラの人々を、これ以上待たせてはいけない。世の人々は責任をもって西サハラ問題を、早急に解決すべきだ」と、熱弁する真摯な姿を記録している。
西サハラ難民キャンプでは、毎年<Fisahara(フィサハラ)>と呼ばれる国際難民映画祭が、難民センター・ラボニから160キロメートル以上離れたダハラ難民キャンプで行われています。 2012年も5月の初めに開催され、難民映画祭グランプリの<白ラクダ賞>にハビエル・バルデムの<最後の植民地>が選ばれました。 その後ハビエル・バルデムは、難民映画学校に寄付をしたり機材を提供したり、援助を続けました。
映画出演の依頼が絶えないというという超悪役ハビエル・バルデムに、現在の西サハラ支援活動状況など、インタヴューしたいと思っています。
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*難民アスリート・サラーの最新ドキュメンタリーがYoutubeにアップしました。
https://youtu.be/jz7lFr2c_Jk スペイン語ですが、西サハラ難民キャンプが見られます。
*占領地からの脱出―「アリ 西サハラの難民と被占領民の物語」只今発売中です。
著者:平田伊都子、写真:川名生十、画像提供:李憲彦、川上リュウ、SPS、
造本:A5判横組みソフトカバー、4頁のカラー口絵、本文144頁
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、TEL:03-3814-3861
2020年2月3日 初版第一刷発行 定価 税抜き2,000円
*1月22日、「ニューズ・オプエド」で#1323<アフリカ最後の植民地>を放映しました。
YouTube オプエド平田伊都子 URL https://www.youtube.com/watch?v=citQy4EpU-I
Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)をご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名敏之 2020年7月7日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion9912:200707〕
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