青山森人の東チモールだより…規律を保てない国会議員たち
- 2020年 7月 20日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
難しかった受給者リストの作成
東チモールは依然として、新型コロナウィルスの新規感染者ゼロ・感染患者ゼロ・死亡者ゼロの状態が続いています。最近の数字は以下の通りです。
—日付——–①——–②——-③– — —④– — –⑤—–
7月 10日–3203人—187人—24人—2992人—28人
7月 11日–3379人—291人—24人—3064人—28人
7月 12日–3429人—266人—24人—3139人—28人
7月 13日–3440人—190人—24人—3226人—28人
7月 14日–3472人—125人—24人—3323人—28人
7月 15日–3493人—-98人—24人—3371人—28人
7月 16日–3512人—-70人—24人—3418人—28人
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①検査を受けた人、②検査結果待ちの人、③結果が陽性だった人、
④結果が陰性、⑤回復した人
(保健省の資料より、②以外は3月6日からの累計)
(*) 24人が陽性確認から、4人が感染可能性から、それぞれ回復。
生活支援金(二ケ月分200ドル)の給付作業ですが、7月6日、東チモールの国営放送RTTL(東チモール・ラジオテレビ局)の夜のニュースに、事務方トップである社会連帯包括省のルイ=マヌエル=エクスポスト事務局長が出演し、説明をしました。エクスポスト氏によると、12地方の給付作業は終了し、28万1166世帯が給付を受け、飛び地・RAEOA(オイクシ/アンベノ特別行政地域)での給付作業が4日に始まったといい、12地方の支給作業では受給者リストのデータの誤りや二重支払いなど多くの問題が発生したことを認めました。問題発生の原因として非常事態宣言下での作業だったことから移動がままならずデータ収集がたいへんだったことをあげました。
苦情(受給者リストに載っていないので受給できないなど)が1万1841件、オイクシではいまのところ68件が発生したといいます。新型コロナウィル感染対策としての社会的距離はデリ(Dili、ディリ)地方自治体ではとられなかったが、その他の地方自治体ではとられたという報告を受けているともいいます。「受給されていない世帯数は?」との質問にたいしてエクスポスト事務局長は、いまはまだ判断できないと回答を避けました。「受け取っていない世帯はこれから受け取ることはできますか?」という質問には、世帯として登録されていればできるが、そうでなければできないと答えました。
また、支給員の日給が40ドルまたは60ドルであることについて(軍・警察や医療関係者の特別手当に比べて高額で不公平である、あるいは日給40ドルをもらい続けたいから支給員はわざと作業を長引かせるのではないかという疑惑が報じられた)、エクスポスト事務局長は基本日給は20ドルで地方へ派遣される人員へは交通費込みで40・60ドルが払われているのであり、基本日給20ドルに変わりはなく問題はないと疑惑を否定しました。
国会議員の小突き合い、裁判へ提訴
6月17日に起こった国会での小突き合いにかんして(前号の東チモールだより)のその後ですが、KHUNTO(チモール国民統一強化)のオリンダ=グテレス議員はCNRT(東チモール再建国民会議)のマリア=フェルナンダ=ライ議員とビルジナ=アナ=ベロ議員の二人を物理的な脅威を与えたとして告訴しました。
ニュース映像を見ると、つかつかとオリンダ=グテレス議員に歩いて迫ったのは「中国の海賊」とグテレス議員に呼ばれたマリア=フェルナンダ=ライ議員だけのように見えますが、少し遅れてやって来た女性議員がビルジナ=アナ=ベロ議員とおもわれます(映像からは顔がよく見えない)。ベロ議員は止めに入ったのではなくライ議員に加担したとグテレス議員はみなしたようです。CNRTの女性議員は裁判を受けて立つ構えです。もしこの裁判が始まれば、グテレス議員による差別発言が一つの焦点になることでしょう。
ところで最近、KHUNTO周辺は何かとざわついています。例えば、6月初めアンジェラ=フレイタスという小政党の党首が、副首相にもなったKHUNTOのアルマンダ=ベルタ党首は外国人であると発言したことにたいしKHUNTOは裁判に訴えると発表したり、血を飲むという誓いの儀式が話題になると、KHUNTOの創設者・ナイモリ氏が儀式についてカトリック教会の神父と議論をしてもよいと挑戦的な態度を示したり、警察官は政党や武闘集団の参加が禁じられているのにもかかわらずKHUNTOの宣誓式に警察官が参加している疑惑が噂されたり、いろいろと話題になっています。
二人の女性議員による小突き合いをめぐる裁判は、KHUNTO周辺のこうした雑音を遮断したうえで、喧嘩の原因となった公用語としてのポルトガル語に目をそらさないように望みます。ポルトガル語が公用語であることを、憲法がそう定めているからと思考停止にはならず、国会議員が国会でポルトガル語で発言すれば国民が理解できないのは本当か?ということについてまず事実確認をし、国会におけるポルトガル語の使用について政治家たちが冷静に議論するきっかけになってほしいものです。
指導者たちの最近の動向
6月の初めごろからでしょうか、野党という立場に腹をくくったのか、シャナナ=グズマンCNRT党首は生活困窮者への食料支援をしながら地域住民との交流を深める“全国行脚”を続けています。ニュース映像を見ると、地方の住民、とくに正装した高齢の女性たちががシャナナ=グズマン氏を嬉し泣きしながら迎えるニュースが最近頻繁に流れています。ニュースでは「CNRT党首」とはいわず、「国民指導者」「カリスマ指導者」という冠をつけてシャナナ=グズマン氏の活動を紹介しています。
東チモールに新型コロナウィルはなくなったとはいえ、シャナナ=グズマン氏は住民との交流会ではマスクをせず、自らを迎える住民と顔と顔をくっつけ合う超濃厚な接触をしていニュース映像を見ると、もしも万が一のことが起こったら瞬く間に新型コロナウィルスの餌食になってしまうとハラハラします。そしてまた感染者が出ていないということは、東チモールは新型コロナウィルスとの戦いに勝利しているのだと嬉しくもなります。
さて一方、与党となったフレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)のマリ=アルカテリ書記長の最近の動向ですが、マリ=アルカテリ書記長が初代の首相であった時(2002年 ~)チモール海の「バユウンダン」油田などの開発権を与える見返りにコノコフィリップス社から賄賂を受け取ったと示唆する発言をされたことにたいし事実無根だとして、7月7日、CNRTの議員と数名の個人そして報道機関を名誉棄損で提訴しました。これにたいしCNRTの議員は受けて立つ構えです。
チモール海の油田開発権をコノコフィリップス社と争っていたオセアニック開発社は2004年、コノコフィリップス社が開発権を得るためにマリ=アルカテリ首相に250万ドルの賄賂をおくったとしてアメリカで裁判を起こした過去があります。この訴えは2008年ヒューストン裁判所によって却下され、控訴されましたが2009年に再度却下されています。
賄賂はもらっていないと主張してきたマリ=アルカテリ書記長にたいしてCNRTは、濡れ衣を着せたオセアニック開発社を裁判に訴えてこの疑惑を晴らすべきだとこの件を蒸し返し始めたのです。新事実が出たというのならCNRTの主張も分からないでもありませんが、そうでなければ単に個人攻撃をしているように思われます。
7月7日、検察庁で訴えの手続きを済ましたマリ=アルカテリ書記長は、党の書記長や国の指導者としてではなく一市民として名誉と尊厳を取り戻すために、そして証拠もなく個人攻撃されないようにするために訴えを起こした、と語りました。フレテリンは、政権の座から遠のいたCNRTは権力喪失症にかかったと揶揄します。
罵り合う国会議員
7月14日、反汚職法を審議している国会で与党フレテリンと野党CNRTの双方の議員が立ち上がって罵り合い、物理的な接触には至らなかったものの、収拾がつかなくなり、やむを得ずこの日の審議は中断、別の日に改めて審議されることになりました。
「またも国会議員たち“罵り合う”」と見出しをつけた『テンポチモール』(2020年7月14日)の記事は、「国会は平穏と調和を保つのが難しくなり、議員たちの罵り合いはもはや伝統になってしまった」と嘆いています。同じ日の『テンポチモール』による別の記事には「“机抱きつき議員”がまたも国会でやらかした」という見出しをつけ、荒れた国会の様子を報じています。それによればフレテリンのデビッド=シメネス議員が、CNRTの多くの議員はシャナナ=グズマン党首の「わきの下に隠れている」と発言したところ(虎の威を借りる狐という意味か?)、CNRTの“机抱きつき議員”はシメネス議員に手で威嚇行為をとったというのです。“机抱きつき議員”とは、5月19日、国会議長解任の強行採決をめぐる攻防が乱闘騒ぎになったとき、国会議長の机に抱きついて強行採決を阻もうとした(それが机の破損につながった)CNRTの議員を指しています。
7月14日の荒れた国会を報じたニュースの映像を見ると、議事進行役である国会副議長の声を無視してデビッド=シメネス議員を含めた数名の国会議員が立ち上がって罵り合っています。とくにデビッド=シメネス議員は、高ぶる感情を制御する術を失ったかのように、そして国民を代表して国会の場にいることを忘れたかのように、相手を烈しく罵倒しています。
インドネシア軍による占領下時代、わたしは随分とデビッド=シメネス氏にお世話になったものです。そのデビッド=シメネス議員が理由は何であれ国会で相手を罵しり叫んでいる姿を間接的であっても見るに忍びありません。わたしの認識に間違いなければ、インドネシア当局に捕まった東チモール抵抗組織CNRT(チモール民族抵抗評議会、現在の政党CNRTとは異なる組織であるから要注意)の幹部のなかで、最高指導者シャナナ=グズマン氏を含め、侵略国による裁判で死刑判決をうけたのはデビッド=シメネス氏だけだったと思います。もちろん死刑は執行されず生き延びからこそ、デビッド=シメネス氏はいまこうして国会議員をやっていられるわけですが、最高指導者でさえも受けなかった死刑判決という“勲章”を得た誇り高き人間として、相手に何を言われようが、デビッド=シメネス氏は毅然とした態度をとってほしいと切に願います。
規律が乱れ秩序が保てない国会が多発しています。これは、根本原因が何も解決されていない「政治的袋小路」「政治危機」の新たな現象かもしれません。
青山森人の東チモールだより 第422号(2020年07日17日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9952:20200720〕
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