原発を作らせなかった人たち
- 2020年 11月 6日
- 評論・紹介・意見
- スガ原発小原 紘
韓国通信NO653
10月30日の参院本会議で日本共産党の小池晃書記局長が代表質問に立った。そのなかで耳を疑う話を聞いた。官房長官だった菅義偉氏が辺野古基地建設中止を訴える翁長雄志知事に向かって、「私は戦後生まれなので、沖縄の歴史はわからない」と言い放ったというのだ。
発言の一部を取り上げて批判するのは慎むべきだが、「戦後生まれなので昔のことはわからない 」という趣旨の菅発言には看過できないものを感じた。
幼稚すぎと言ったら一流大学出の彼に失礼かもしれない。「冗談もほどほどにしろ」というべきか。それにしても「ボク生まれてなかったもん」と答える小中学生並みのレベルの話だ。子どもには笑って済ませても、一国の総理が「戦後生まれ」だから、よくわからないでは話にならない。まともに答える気のない人間にはムダかもしれないが、歴史は何故学ぶ必要があるのか。誰か教えてあげて欲しい。
<「通信」初のお目見えの菅首相/「彼は秘密警察の長官タイプですね」
山口二郎氏談(週刊金曜日NO1302)>
<過去の歴史は学びの宝庫だ>
人間不信に陥っている人におすすめしたい映画がある。自然を愛し、金銭欲に負けず、仲間を信じた人たち。三十数年前の出来事。電力会社と権力者たちの説得から良心を守り、故郷を守ったごく普通の人たちの話。
わが国の原発の歴史の中で住民の反対運動によって計画を断念させた場所が34か所もあったことを知った。「通信」で岩手県の田野畑村、新潟県巻町の反対運動を紹介したことはあるが、これほど多いとは正直なところ驚く。
映画は福島原発事故後、原発を作らせなかった四国と近畿の二つの町を訪れ、住民たちにあらためて原発を語ってもらうという異色のドキュメンタリーである。「シロウオ~原発立地を断念させた町」 監督 かさこ 制作/脚本 矢間修二郎
去る29日、市内の「さよなら原発」の仲間に誘われて、早朝、といっても9時半からの映画鑑賞会は眠気を醒ますのに十分刺激に溢れたものだった。
シロウオとシラウオは違う魚。シラウオは素揚げにして食べるが、シロウオは踊り食い、生きたまま食べることができる。ドキュメンタリーの舞台はシロウオがたくさん獲れる徳島県阿南市椿町蒲生田と紀伊水道を挟んだ和歌山県日高町だ。
タイ、ハマチ、イシダイ、イカ、タコとシロウオの漁獲と牧畜、野菜作りの風景が広がる。満ち足りた漁民たちの表情からは故郷の海と土に対する感謝と喜びがあふれる。登場する人たちは原発から故郷と生活を守り抜いた誇り高き人たちだ。
「原発は必ず事故を起こす」
「金をもらっても、いっときのこと。生活は守れない」
彼らは原発のことを学び、都会に作らず過疎地に原発をつくる意味を考えた。危険だ、誰もがそう思った。本格的な運動は1976年から始まり、漁民を中心とした町ぐるみの反対運動は、ご多分に漏れず買収工作、切り崩しにあいながら、行政を動かし白紙撤回させた。チェルノブィリ原発事故(1986)、福島原発事故(2011)よりはるか以前の1979年のことだ。
インタビューでは福島原発事故に同情を寄せながらも自分たちの運動を誇らしく、「福島のようにならなくてよかった」と口々に語る。補償金と補助金を山と積まれて原発を受け入れた人たちと彼らがまるで別人種のように見えてくるのが不思議だ。
結論から言えば「立派」としか言いようがないが、生活と命を守る運動は昼夜を分かたず住民ぐるみの苦しい運動だったことが伝わる。
映画は豊かな海と漁民たちの日々の生活を映し出す。映画製作は2013年。
運動を振り返る。
「四国電力は町民に対立を生みだしたが負けなかった」と語る椿町町民の会の代表。
「子どもたちに豊かな海が残せた」と胸を張る漁師。
蒲生田原発の反対運動のさなか、対岸の和歌山県日高町に関西電力の原発建設計画が持ち上がった。美しい海と漁場はどちらの原発が稼働しても守れない。蒲生田住民の訴えに呼応して日高町の反対運動も盛り上がり、1990年、こちらも白紙撤回。
日高町の女性たちの中心となった95歳の元教員鈴木静江さんが「かつてお上のいうことを信じたばかりに戦争でつらい目にあった。それが私の原発反対の原動力になった」と静かに語る、民宿を経営するおかみさんが平和な日常生活を語る姿が印象に残った。映画には京大助教だった小出裕章さんが「友情出演」している。彼は原発学者として反対運動を支援し続けた。
<希望の人たちと、懲りない人たち>
菅新政権は「脱炭素」を政権の目玉としたが、狙いは原発推進である。「原発は環境にやさしい」「経済性に優れている」「汚染水は安全」などとウソと俗論を持ち出して、原発案件の処理を急ぐ。本当に懲りない人たちだ。「疲れ」を感じている人には是非この証言ドキュメンタリーを見てほしい。信頼と尊敬に値する人たちの存在に、希望と勇気がもらえる。
1982年に岩手県の田野畑原発計画を女性たちと力をあわせて見事撤回させた岩見ヒサさんを思い出す。開拓看護婦、助産婦として活躍した彼女は、カネより命、田野畑の自然を愛し、仲間とともに原発計画を撤回させた。『吾が住み処ここより外になし』 <2010/5萌文社発行 定価1050円>も人生を豊かにする書としておすすめしたい。
https://www.kasako.com/eiga1.html 映画『シロウオ』のホームページもご覧ください。
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〔opinion10261:201106〕
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