「人間に襲い掛かったウイルス」 新型コロナウイルス禍の2020年を送る
- 2020年 12月 31日
- 時代をみる
- 2020岩垂 弘新型コロナウィルス
コロナ禍に始まり、コロナ禍で終わる。2020年の世界と日本は、まさに、しつこい新型コロナウイルスにほんろうされ、混乱の日々だった。しかも、年末になっても新型コロナウイルス感染拡大は世界でも日本でも収まらず、人々は不安と危惧と恐怖の中で身を固くしながら新年を迎える。
こうしたコロナ禍をめぐって、この1年間、日本でも、学者、研究者、ジャーナリストらによってさまざまな論議が展開されてきた。私は、その一部を垣間見たに過ぎないが、中には、今回の世界的なコロナ災厄は何によってもたらされたのか、こうした事態に対し私たちはこれからどう対処すべきなのか、といった視点からの発言もあった。いわば、コロナ禍に対処するための大局的立場からの根源的な問題提起であり、傾聴に値する発言であったと思う。
でも、最近の新聞、テレビなどのメディアは、日ごと拡大する新型コロナウイルス感染を防御するための対症療法的な報道に走るばかりで、コロナ禍問題の本質を突いた番組はほとんど見当たらない。
コロナ禍がまだ続き、場合によっては今よりは深刻な事態も予想されるということであれば、私たちは引き続き、コロナ禍についての大局的かつ根源的な発言なり提言には耳を傾ける必要があるのではないか。そうした思いから、今年最も印象に残った発言を紹介しておきたい。
山際寿一・京都大学総長「コロナ禍は人間が生態系を開発で破壊したため」
私が紹介するのは、6月29日付の「しんぶん 赤旗」に載った霊長類学・人類学者で京都大学総長(当時)の山際寿一さんの発言である。「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が、世界や日本のどんな問題を明らかにしたのか。人類はコロナ禍から何を学ぶことができるか」をテーマとする企画記事のインタビューへの回答だ。その冒頭で、山際さんはこう述べている。
「新型コロナウイルスの感染拡大が明らかにしたことは、地球の環境破壊を抑えないと、気候変動の問題だけでなく、感染症のまん延をもたらし、経済、社会に大きな被害をもたらすということです」
「地球には、細菌やウイルスというという人間の目に見えないものが存在しています。例えば、熱帯雨林のような最も生物多様性が高いところでは、たくさんの動物がウイルスや細菌に感染してずっと共生していました。動物たちは保菌者だけど症状は出ない状態でした。ところが、人間がジャングルなどの開発を進めたことで、人間と接触が少なかった動物が人間や家畜と接触するようになった。そのことによって、ウイルスが突然変異し姿を変えて人間に襲い掛かってくることが近年頻繁におこっています。SARS、MERSや新型インフルエンザなどです。人間がこれまで安定していた生態系を開発によって破壊を進めたために起きています」
「問題は利潤追求の資本主義の原則にある」
続けて、山際さんはこう断言する。
「問題は、利潤をあくまで追求し、利潤を将来の投資に向けるという資本主義の原則です。資本主義はそのための自然破壊をためらわないのです。資本主義は、自然が“文句”を言わないために、自然を『搾取』してもいいと考えます。……コロナ禍のもとで、誰もが資本主義は限界だと感じているのではないでしょうか」
これに先立つ5月23日、山際さんはNHKのBS1スペシャルで放送された『コロナ新時代への提言~変容する人間・社会・倫理~』に歴史学者の飯島渉、哲学者の国分功一郎の両氏とともに出演、同趣旨の発言をしている。
この2カ所での山際さんの発言に私は大いに共鳴し、感銘を受けた。そして、思った。「コロナ問題の本質を明らかにしているように思える。コロナ問題を考える時は、こうした視点からの考察を忘れてはいけないな」と。
社会学者・大澤真幸さんも同様な発言
ところで、山際さんと同じような発言をした学者が他にもいて私の気を引いたことも付け加えておきたい。それは、社会学者の大澤真幸さんだ。
大澤さんは、4月8日日付の朝日新聞・オピニオンのページのインタビューで、こう答えている。
「ウイルス自体は文明の外からやってきた脅威ですが、それがここまで広がったのは、『グローバル資本主義』という社会システムが抱える負の側面、リスクが顕在化したからだと考えています」
「未知の感染症は野生動物が主な宿主です。世界中の原生林が伐採され、都市化された結果、野生動物との接触機会が増え、病原体をうつされるリスクも高まった。英国の環境学者ケイト・ジョーンズは『野生動物から人間への病気の感染は、人類の経済成長の隠れたコストだ』と指摘しています」
ともあれ、新型コロナウイルスの感染が1日も早く収束し、平常の生活が戻るよう神に祈りたい。
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