核兵器禁止条約発効の歴史的な日に
- 2021年 1月 22日
- 評論・紹介・意見
- アメリカナショナリズム核廃絶澤藤統一郎
(2021年1月22日)
現地時間の1月20日正午、アメリカ合衆国での政権交代が行われた。本日(1月22日)の各紙朝刊は、いずれもバイデン新大統領の就任演説と、新政権の特色を押し出した大統領令署名を報じている。
その、新大統領の大統領令署名は、
パリ協定(Paris Agreement)への復帰
世界保健機関(WHO)からの脱退撤回
連邦政府の施設でのマスク着用義務化
「キーストーンXLパイプライン」の建設許可の撤回
イスラム教徒が多数を占める国々からの入国禁止の解除
メキシコとの国境の壁建設の中止
市民権を持たない住民を米国勢調査から除外する計画を撤回等々の
トランプ政権からの政策転換を打ち出す狙いによるものばかり。どれもこれも、トランプ流を否定して、オバマ期に「復帰」以上のものはない。これまでの極端に異常な「アメリカファースト」の国から、もとの「グローバリズム」の普通のアメリカに戻ったのだ。
普通のアメリカとは、異常なトランプ流の野蛮なアメリカよりはずっとマシだが、所詮は「グローバリズム」謳歌の経済大国であり、膨張主義的軍事大国でもある。
本日(1月22日)は、核兵器禁止条約発効の歴史的な意義をもった日である。が、バイデン新政権が、この条約にいささかの関心も寄せている風はない。トランプに尻尾を振って笑い者となった安倍晋三と同様、菅義偉もおそらくは新しいご主人の鼻息を窺うことになる。国民の願いよりは、軍事的宗主国の意向を忖度しようというのだ。
本日の参院本会議の代表質問で、菅義偉は改めて日本政府として「核禁条約に署名する考えはない」ことを明言した。「多くの非核兵器国からも支持を得られていない。現実的に核軍縮を進める道筋を追求する」と強調した。それでいて、「現実的に核軍縮を進める道筋」の何たるかを示すことはない。これが、被爆国日本の首相の正体なのだ。
この核禁条約には長文の前文がある。核兵器禁止の理念を語って格調が高い。その中に、次の一節がある。
核兵器の使用の被害者(被爆者)が受け又はこれらの者に対してもたらされた容認し難い苦しみ及び害並びに核兵器の実験により影響を受けた者の容認し難い苦しみに留意し,
「核兵器の使用の被害者(被爆者)が受けた容認し難い苦しみ」と言えば、広島・長崎の被爆者の被爆体験である。また、「核兵器の実験により影響を受けた者の容認し難い苦しみ」の筆頭には、第五福竜丸23人の被曝者を上げねばならない。とりわけ、久保山愛吉さんを思い浮かべなければならない。
さらに、前文の最後には、「…被爆者が行っている努力を認識して,」との一文がある。この核禁条約の成立には、日本のヒバクシャたちの筆舌に尽くしがたい苦悩と、反核運動との寄与があった。
本日、共同通信の伝えるところでは、オーストリアのシャレンベルク外相は、今日発効の核兵器禁止条約について「被爆者の闘いがなければ制定できなかった」と指摘、今年末にも同国で開催する締約国会議に被爆者を招待すると述べた。共同通信の単独会見に答えたもの。
これが、世界の良識である。これと比較し、ヒバクシャの母国日本の、この条約に対する冷淡さはいったいどういうことなのか。
国連加盟国は193か国、そのうち2017年核禁条約採択時の賛成国は122か国、昨年の国連総会での同条約推進決議に賛同国は130か国に及ぶ。現在、同条約の署名国は86か国で、そのうち批准国は51か国である。周知のとおり、50番目となったホンジュラスの批准から90日後の本日、核兵器禁止条約が発効となった。
世界の核兵器国保有国は9か国とされている。この9か国だけでなく、核保有大国の「核の傘」の下にある国の条約に対する反発は厳しい。日本もその例に漏れない。
しかし、本日からはこの条約がいう「あらゆる核兵器の使用から生ずる壊滅的で非人道的な結末を深く憂慮し,したがって,いかなる場合にも核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法として,核兵器を完全に廃絶することが必要である」という認識が国際的な法の理念となる。
被爆国である日本が、この条約に敵対を続けることは許されない。まずは130か国の同条約推進決議賛同国が批准に至る前に、そして核保有国が世界の趨勢に遅れて、孤立する以前に、批准しなければならない。そのような政府を作らなければならない。
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核兵器の禁止に関する条約
この条約の締約国は,
国際連合憲章の目的及び原則の実現に貢献することを決意し,
あらゆる核兵器の使用から生ずる壊滅的で非人道的な結末を深く憂慮し,したがって,いかなる場合にも核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法として,核兵器を完全に廃絶することが必要であることを認識し,
事故,誤算又は設計による核兵器の爆発から生じるものを含め,核兵器が継続して存在することがもたらす危険に留意し,また,これらの危険が全ての人類の安全に関わること及び全ての国があらゆる核兵器の使用を防止するための責任を共有することを強調し,核兵器の壊滅的な結末は,十分に対応することができず,国境を越え,人類の生存,環境,社会経済開発,世界経済,食糧安全保障並びに現在及び将来の世代の健康に重大な影響を及ぼし,及び電離放射線の結果によるものを含め女子に対し均衡を失した影響を与えることを認識し,
核軍備の縮小が倫理上必要不可欠であること並びに国家安全保障上及び集団安全保障上の利益の双方に資する最上位の国際的な公益である核兵器のない世界を達成し及び維持することの緊急性を認め,
核兵器の使用の被害者(被爆者)が受けた又はこれらの者に対してもたらされた容認し難い苦しみ及び害並びに核兵器の実験により影響を受けた者の容認し難い苦しみに留意し,
核兵器に関する活動が先住民にもたらす均衡を失した影響を認識し,
全ての国が,国際人道法及び国際人権法を含む適用可能な国際法を常に遵守する必要性を再確認し,
国際人道法の諸原則及び諸規則,特に武力紛争の当事者が戦闘の方法及び手段を選ぶ権利は無制限ではないという原則,区別の規則,無差別な攻撃の禁止,攻撃における均衡性及び予防措置に関する規則,その性質上過度の傷害又は無用の苦痛を与える武器の使用の禁止並びに自然環境の保護のための規則に立脚し,
あらゆる核兵器の使用は,武力紛争の際に適用される国際法の諸規則,特に国際人道法の諸原則及び諸規則に反することを考慮し,
あらゆる核兵器の使用は,人道の諸原則及び公共の良心にも反することを再確認し,
諸国が,国際連合憲章に従い,その国際関係において,武力による威嚇又は武力の行使を,いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも,また,国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎しまなければならないこと並びに国際の平和及び安全の確立及び維持が世界の人的及び経済的資源の軍備のための転用を最も少なくして促進されなければならないことを想起し,
また,1946年1月24日に採択された国際連合総会の最初の決議及び核兵器の廃絶を要請するその後の決議を想起し,
核軍備の縮小の進行が遅いこと,軍事及び安全保障上の概念,ドクトリン及び政策において核兵器への依存が継続していること並びに核兵器の生産,保守及び近代化のための計画に経済的及び人的資源が浪費されていることを憂慮し,
法的拘束力のある核兵器の禁止は,不可逆的な,検証可能なかつ透明性のある核兵器の廃棄を含め,核兵器のない世界を達成し及び維持するための重要な貢献となることを認識し,
また,その目的に向けて行動することを決意し,
厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備の縮小に向けての効果的な進展を図ることを決意し,
厳重かつ効果的な国際管理の下で全ての側面における核軍備の縮小をもたらす交渉を誠実に行い,終了する義務が存在することを再確認し,
また,核軍備の縮小及び不拡散に関する制度の基礎である核兵器の不拡散に関する条約の完全かつ効果的な実施が,国際の平和及び安全の促進において不可欠な役割を果たすことを再確認し,包括的核実験禁止条約及びその検証制度が核軍備の縮小及び不拡散に関する制度の中核的な要素として極めて重要であることを認識し,
関係地域の諸国の任意の取極に基づく国際的に認められた核兵器のない地域の設定は,世界的及び地域的な平和及び安全を促進し,核不拡散に関する制度を強化し,及び核軍備の縮小という目的の達成に資するとの確信を再確認し,
この条約のいかなる規定も,無差別に平和的目的のための原子力の研究,生産及び利用を発展させることについての締約国の奪い得ない権利に影響を及ぼすものと解してはならないことを強調し,
男女双方の平等,完全かつ効果的な参加が持続可能な平和及び安全の促進及び達成のための不可欠の要素であることを認識し,また,核軍備の縮小への女子の効果的な参加を支援し及び強化することを約束し,
また,全ての側面における平和及び軍備の縮小に関する教育並びに現在及び将来の世代に対する核兵器の危険及び結末についての意識を高めることの重要性を認識し,また,この条約の諸原則及び規範を普及させることを約束し,
核兵器の全面的な廃絶の要請に示された人道の諸原則の推進における公共の良心の役割を強調し,また,このために国際連合,国際赤十字・赤新月運動,その他国際的な及び地域的な機関,非政府機関,宗教指導者,議会の議員,学者並びに被爆者が行っている努力を認識して,
次のとおり協定した。
第1条 禁止
1 締約国は,いかなる場合にも,次のことを行わないことを約束する。
(a) 核兵器その他の核爆発装置を開発し,実験し,生産し,製造し,その他の方法によって取得し,占有し,又は貯蔵すること。
(b) 核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいずれかの者に対して直接又は間接に移譲すること。
(c) 核兵器その他の核爆発装置又はその管理を直接又は間接に受領すること。
(d) 核兵器その他の核爆発装置を使用し,又はこれを使用するとの威嚇を行うこと。
(e) この条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことにつき,いずれかの者に対して,援助し,奨励し又は勧誘すること。
(f) この条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことにつき,いずれかの者に対して,援助を求め,又は援助を受けること。
(g) 自国の領域内又は自国の管轄若しくは管理の下にあるいずれかの場所において,核兵器その他の核爆発装置を配置し,設置し,又は展開することを認めること。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.1.22より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16220
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〔opinion10493:210122〕
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