3月27日 国軍記念日にも見境のない殺戮―歯止めなき人道に反する蛮行に国際社会の懲罰を
- 2021年 3月 28日
- 評論・紹介・意見
- 野上俊明
昔たしかソ連軍のチェコ侵入の時だったであろう、「レーニンよ目を覚ませ、やつらは狂ったぞ!」という落首があった。ミャンマーもいまそれと同じ危機にある。「アウンサン将軍よ目を覚ませ、やつらは狂ったぞ!」―建国の英雄アウンサン将軍の祖業につながるかつての民族解放の軍隊が、いまや自国民の殺戮に狂奔している。しかもその解放事業を記念する当の日においてである。ミンアウンライン最高司令官は、式典でこう演説したという、「われわれは国民を守護することを欲し、民主主義をめざしている」と。もうほとんど「1984年」の世界ではないか。そこでは戦争の管理するのは「平和省」、逮捕・拷問を専門とするのは「愛情省」だったように、国軍の世界では、国民を撃ち殺すのが守護であり、独裁をめざすのが民主主義なのだ。またこうもいう、「国家の静けさと安全に害を及ぼす可能性のあるテロの行為は容認できない・・・われわれが望む民主主義は、人々が法を尊重せず、法をないがしろにすれば、規律のないものになるであろう」と(Frontier Myanmar) 盗人猛々(たけだけ)しいとはこのことであろう。クーデタで法の支配をぶち壊し混乱を引き起こした張本人が、民主主義や法と秩序を説教しているのである。ああ、木の葉が沈んで、つぶてが浮かぶ、ポジ・ネガの逆転した世界だ。
軍事政権は27日の国軍記念日の前夜、抗議行動を抑え込むべく、頭をねらって発砲すると、国軍系テレビ放送を通して警告した。公共放送を通じて殺害予告する国がどこにあろう!しかしその脅しに屈せず、ヤンゴンやマンダレー、ラショウ、チャイトー、モラミャインなど主要都市はじめ全国で抵抗運動が展開されたが、午前中までに50人が、一日で90人ほどが射殺されたと報道された。全国ではのべ400人以上の犠牲者が出た模様。南ミャンマーのダウェイでは、防犯カメラが国軍の蛮行を記録しSNSで発信された。人気のない通りを4人乗りの30ccバイクが通行中、突然複数の兵士がバイクを止めるまもなく発砲、3人は逃げたが1人に命中し死亡した模様。兵士たちは、平然と死体をピックアップ・トラックに載せ運び去った。この日、おそらく動くものは何でも撃てと命令されていたのであろう、もはや殺戮が目的としか言いようがない。国民を殺戮の恐怖で委縮させ、抵抗運動を鎮圧しようとしているのである。
トヨタのピックアップ・トラックは軍用車両として 後ろ手で連行される若者 Myanmar Now
首都ネーピードウで行われた国軍記念日のパレードには、中国やロシアなど8か国が代表を送ったという。国軍に武器を供与し、軍事訓練を施している中国とロシア、国連安保理でもミャンマーへの非難や制裁的措置を阻止すべく動いている。北朝鮮やミャンマー国軍という国際的なならず者の頼もしい味方となっている両国、かつては人類の解放者をもって自ら任じていた時代もあったのだ。
文字通り自由か、しからずんば死を、という覚悟をもって闘っているミャンマー国民を見殺しにするのは、国際社会の取り返しのつかない汚点であり恥である。まして東南アジアで稀に見る親日国の国民が、まなじりを決して国軍と対峙しているときなのである。
先日26日、「在日ミャンマー市民協会」と国際人権NGOの「ヒューマンライツ・ナウ」が、共同で外務省に質問状を提出した。その内容は、外交的な対応としてはクーデタによるスーチー氏らの拘束や市民への弾圧を非難しながらも、しかし国軍の行動を実際に抑制する効果のある経済制裁を行なっていないことの理由を糾し、経済制裁など実際の圧力となる措置を促すものであった。後日、外務省は政府として回答するとしているが、日本政府は内心では欧米の制裁方針とは一線を画し、「アジア的価値観」に基づいて国軍と関係を維持したいので、このままでは在日ミャンマー人が望むような答えが出てくるのは難しいであろう。その意味では我々日本人が自国政府に圧力をかけ、政策変更を強いる闘いが喫緊の要請となっている。経済制裁による圧力だけでは蛮行を阻止するには不十分だとの批判が渦巻いているなか、その経済制裁すら渋っているのが、我が国政府だというのを肝に銘じておきたい。
マンダレーでの抗議のデモ隊に住民が3本指で激励。デモ隊には女性が先頭にいる EPA
<暴露されつつある日本官民の国軍との結びつき>
ミャンマー経済で大きな比重を占める国軍系コングロマリットが、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス・リミテッド(MEHL)とミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)の二つである。軍政時代、その特権的地位を利用して収益性の高い経済分野である貿易、宝石採掘(ミャンマーの高品質ヒスイやルビー)、ホテル観光業、醸造業、銅などの資源採掘業、建設・不動産業、アグリビジネスなどに進出、外国企業との合弁事業も含め、おそらく免税特権も享受して高収益を上げ、それが国家財政とは別立てで国軍の軍備拡大や軍高官の蓄財に流れているとみられている。
2017年の国軍のロヒンギャ掃討作戦とジェノサイド疑惑を機に、国連のミャンマーに関する事実調査団(以下「調査団」)は、2019年8月5日、ミャンマー国軍の経済的利益についての報告書(”The economic interests of the Myanmar military”)を発表した。それによれば、MEHLとMECが国内外の企業活動から得る収入が、同軍がロヒンギャや少数民族に対する深刻な人権侵害を行う資金的支えとなっているので、国際社会に対し、国軍系コングロマリットとの関係を断つよう求めている。国際NGOである「メコン・ウオッチ」のまとめによれば、「14の外国企業がミャンマー国軍関連企業とジョイントベンチャーを組んでおり、少なくとも44の外国企業がその他の形でミャンマー国軍関連企業と商業関係を持っている。調査団は報告書の結論部分で、『ミャンマー国軍とその所有会社であるMEHLやMECが参加する外国企業の活動はすべて 、国際人権法や国際人道法の違反の一因となる、またはそれらの違反と関連づけられる危険性が高い』」そうである。
以下、同じく「メコン・ウオッチ」による。
――報告書の付録には、ミャンマー国軍とその活動に貢献する、またはそれらから利益を得ている国軍関係の企業やミャンマー国内外の企業の一覧が含まれている。このうち日本の企業または日本の企業の子会社などの記載があるのは次の四項目である。
●2017年8月にラカイン州北部でロヒンギャ住民に対して始まったミャンマー国軍の「掃討作戦」を支援するためにミャンマー国軍の求めに応じて寄付をした企業(付録IV)
キリンホールディングス(のちに、関係を断つと言明している―筆者)
東洋タイパワーミャンマー
●MEHLまたはMECのジョイントベンチャーパートナーである外国企業(付録V)
日本ミャンマー開発機構株式会社
キリンホールディングス
●MEHL及びMECと契約関係または商業関係にある外国企業(付録V)
JCB
日新運輸株式会社が所有するNisshin (Myanmar) Co Ltd
●ミャンマー国軍が軍事目的で軍民両用の物資や技術を調達または調達しようとした民間企業(付録VI)
アイコム株式会社
株式会社ニコン
●このほか、日本の官民が関与しているプロジェクトが2件暴露されている。25日のロイター電によれば、ミャンマーで総額300億円以上の不動産開発事業である「ヤンゴン市内都市開発(通称Y Complex事業)」を進める日本の官民連合が、ホテルやオフィスなど複合施設を建設する用地の賃料を支払い、それが最終的にミャンマー国防省に渡っていたことが分かり、日本政府も関係企業もそれを認めたという。三井住友銀行、みずほ銀行が、JBIC(国際協力銀行)との協調融資で、関係する官民は、東京建物株式会社、株式会社フジタ(ダイワハウス工業子会社)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)とある。
写真はヤンゴンのYコンプレックス建設現場(2021年2月 ロイター)
また、事業体からの内部告発で明らかになったのは、「バゴー橋建設事業」で、ヤンゴン市とティラワSEZを含むタンリン地区間を結ぶバゴー川に新しい橋梁を整備するもの。310.51億円の円借款が供与されるこの事業は、株式会社横河ブジッリと、三井住友建設との共同企業体(JV)が建設を受注。横河ブジッリは、ミャンマー経済公社(MEC)の子会社であるNo. 2 Myaung Daga SteelPlanと橋梁用の鉄骨の製造を行なっている。3月25日に米国や英国がMECを制裁対象に指定した後も、日本側が同事業を中断する気配がないことを指摘するとともに、この橋の3分の2の鉄骨を提供することで、MECは莫大な利益をあげることになる、と告発している(Myanmar Now)。
すでに3月4日、メコン・ウオッチをはじめとするNGO諸団体は、「日本の対ミャンマー公的資金における国軍ビジネスとの関連を早急に調査し、クーデターを起こした国軍の資金源を断つよう求めます」という要望書を日本政府へ提出している。そのなかで言及されている公的資金の出どころは、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)や海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)である。
国軍はヤンゴンの一等地に膨大な面積の軍有地を保持している。本来は国有財産であり、その土地の活用から生まれる収益は国庫に納められるべきものである。首都圏で大規模な事業を起こそうとすれば、軍有地が線引き内にかかる可能性は高い。下の写真のシュエダゴン・パゴダは、ヤンゴンの超一等地にあるが、向かって左方向には旧軍博物館など軍に関連する土地建物があるだけでなく、基地内には広大な未開発の野原が存在する。周りを塀や建物で遮蔽されているので、まず外国人には気づかれないが、東京ドームの十倍ほどもありそうな広さなのだ。ヤンゴンの土地が国軍や秘密警察によって所有されている現状では、国軍と関係を持たずに都市開発をするのは多くの場合困難といえる。だからこそ、民主化して軍有地を国有化し、公共用地として活用し、利益を国民に還元できるようにする必要があるのだ。経済開発先行でいくべきだと考える企業マンは多いが、そうすると国軍の権益を太らせ、ますます民主化が遠のくというミャンマー特有の負のスパイラルを無視することになる。
サイレント・ストライキの朝、ミャンマー仏教信仰の聖地、金箔で覆われたシュエダゴン・パゴダ
最後にひと言。ぜひ有志の皆さまには、外務省ホーム・ページの「ご意見・ご感想」欄に、国軍の暴挙への圧力を強め、国軍ビジネスへの官民の関係を断つように記し、送付していただきたい。国会内外で世論を盛り上げ、政府を動かす運動にコミットしてください。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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