ミャンマー/「影の政府」CRPH、少数民族組織との連携・同盟構築へ――内戦的様相のなか、連邦民主憲章に基づき暫定統一政府まもなく発足
- 2021年 4月 16日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
軍事政権は、9日に中部バゴー(ヤンゴンから約90キロ、ペグー王朝の旧王都)で80人以上の市民を殺害。擲弾筒など戦場の重火器を使用して残虐さの規模を拡大させている。「政治犯支援協会」によると、2月1日のクーデタ以降、4月11日までに706人の市民が犠牲になったという。残虐行為をエスカレートさせる国軍への反発は少数民族武装組織にも広がり、辺境の支配地域の各所で武力衝突が起きている。3月27日、カレン民族同盟(KNU)の軍事部門の第5旅団、カレン民族解放軍(KNLA)が、ミャンマー南東部カレン州の軍事政権の前哨基地を攻撃、占領した。国軍は直ちにカレン人居住区を空爆、村人1000名ほどがタイ国境に逃れた。タイ側は軍事政権との友好関係上、難民を受け入れない意向。
国軍に多くの死傷者。国軍から鹵獲した武器を展示するKNU。 イラワジ紙
同じくイラワジ紙によれば、4/13ミャンマー北部カチン州のモマウク郡区の戦略的要衝をめぐるカチン独立軍(KIA)と国軍間の激しい争奪戦で、国軍軽歩兵大隊No.387の大隊司令官を含む100名近く兵士がKIAによって殺害され、部隊はほぼ全滅した。KIAは軍事政権の承認を拒否したあと、国軍が平和な抗議活動を行なう市民を虐殺するなら報復すると警告し、この三週間国軍との間で戦闘を継続していた。
それに先立つ4/10三軍同胞団同盟は、シャン州北部のラショウ郡区にある警察の前哨基地を攻撃し、少なくとも14人の警官が殺害された。さらに4/12の夜、マンダレー地域にあるミャンマーのルビー産地モコック周辺で、タアン民族解放軍(TNLA)と国軍が戦ったという報告も入っている。反クーデタ運動に連動して活発化する少数民族武装組織であるが、ただ最も強力な兵力を擁するといわれるワ州連合軍UWSA―旧ビルマ共産党の流れで、中国が全面的支援―らは、国軍との友好関係を維持すると表明している。
強力な火力を有する最強のワ州連合軍 イラワジ紙
さらにミャンマー史に特筆すべき動きが始まっている。イラワジ紙によれば、4月初め、15年前軍事政権のクローニーによって没収されたカチン州の土地(フーコン盆地―虎の生息地であり、援蔣ルートであるレド公路をめぐる激戦で旧日本軍菊部隊全滅の地)を、地元の農民が取り戻した。ユザナ社は、2006年来この地域で合計30万エーカー以上の土地を農民から没収し、キャッサバ栽培していた。4/1にカチン独立軍(KIA)が、でんぷんと砂糖精製工場を攻撃し、ユザナ社をカチン州から追放。このあと9か村の農民が、4/9までに土地を取り返し、耕作始めたという。新自由主義的なアグリビジネスのモデルと言われたプロジェクトであったが、あえなく頓挫した。
国軍から逃走した尉官級の将校の証言では、国軍内では民間人へ殺傷行為に嫌気をさしているものが増えているという。しかし軍官舎内に住む家族のことを思うと、自分だけ簡単に逃げるわけにはいかないと思いとどまるという。※それにしても、国軍が少数民族武装組織との戦闘でこれほど連続して敗北したのは初めてではないか。それだけ国軍将兵の士気が落ちている証拠ではなかろうか。上級将校の腐敗、上級と下級の天と地ほどの待遇の差、外界からの徹底した情報遮断、杜撰な作戦指揮、不十分な補給。捕虜になった国軍兵士はもう何日も食事がとれていないと自白したという。何たる既視感、何かもう、かつての日本軍のありさまを見ているようである。しかし補給の話は、欧米を中心とする経済制裁が実は国軍に相当なダメージを与えていることの顕れかもしれない。
※国連安保理で軍事政権に反旗を翻したミャンマー国連大使チョーモートゥン氏は、自らの行為によってミャンマーに残してきた家族や親類縁者がどのようにむごい仕打ちを受けるのか十分知っていてそうしたのである。これは並みの勇気ではなかろう。
4/3激戦地サガイン管区首都モニワにて。とにかくひるまない。 FBから
もうひとつ、ミャンマー中央部の反クーデタ・市民的不服従運動の高揚に呼応して、少数民族武装組織が活発化した背景には、「影の政府CRPH」(西側メディアでは、軍事政権に対する「並行政府」と呼んだりもする)が中心になり、4/1臨時政府綱領ともいうべき「連邦民主憲章」を公表、これを政治的な軸として一挙に反政府勢力と少数民族組織との連携が進み、本格的な同盟関係の構築へと向かったからである。そしていよいよ近日中に臨時政府の旗揚げをするという。
以下「連邦民主憲章」を簡単に紹介しつつ、その政治的な意義や問題点を考えてみよう。(ただし英語版「憲章」はツイッターよりピックアップしたものなので、正規のテキストとは言いがたいので要注意)
<経過と憲章概要>
4/5「影の政府」CRPHのスポースクマンは、「ミャンマー連邦国家Federal Union」構想に基づいて、臨時政府である国民統一政府NUGの樹立を近々に告げると発表した。すでに3月末CRPHは「2008年憲法」の無効を宣言し、「連邦民主憲章」を発表している。既報の通り、憲章はCRPHだけで起草されたわけではない。 それは、11月選挙で選出された議員と政党及び諸政党、少数民族諸組織、CDM(市民的不服従運動)指導者、および女性と若者を代表する市民社会組織の少なくとも4つのグループによって合議され承認されたのである。また新政府を支える大衆的組織として国民統一協議会(NUCC)も結成された。NUGはNUCCと協議して、連邦民主憲章に概説されている政治的ロードマップを実施するとしている。
憲章第三章に記されている「政治的ロードマップ(行程表)」は、以下8項目からなっている。
①議会代表者委員会CRPHを立ち上げる
②政党政派、市民社会組織、少数民族武装組織らは、相互にパートナーとなって政治協定や行動プログラムについて協議し、実効あるものとする
③「連邦民主憲章」を策定し、承認する
④憲章にしたがって「臨時国民統一政府(Interim National Unity Government)」を樹立する
⑤独裁の根絶と2008年憲法の廃棄、連邦民主国家の建設のための戦略を策定する
⑥新憲法の策定と制定のための「憲法国民会議(Constitutional Convention)」を招集する
⑦国民会議により新憲法草案に対する国民投票を実施する
⑧新たに制定された憲法にしたがって、立法・行政・司法の三権を確立し、立憲政治を遂行する
現時点では③までの行程が終了し、④の臨時政府の樹立が次なる目標となる。
端的に言って、当憲章はNLDら仏教徒ビルマ族組織と少数民族組織との政治同盟を確立するための文書と言える。憲章の結語で述べられているように、憲章の主旨はアウンサン将軍の遺したパンロン協定とその精神を復活させることである。つまり政治的自治権、自由、平等、多様性、集団指導といったビジョンは、多数派ビルマ族と少数民族との政治統合のための不可欠の契機をなし、晴れて近代的な国民国家の創設を共同で担う決意を表している。そのうえで少数民族への配慮から、少数民族組織の支配する地域において、かれらに独自の州憲法を制定する権利を認めており、全体としては非常に分権色の強い憲章になっている。自然資源(豊富な資源は、ほとんど少数民族地域にある)の開発権や開発利益に対する地方政府の強い権限は、のちのち問題になるかもしれない。
少数民族だけでなく、マイノリティへの配慮はいたるところにみられる。「基本的人権および少数民族の諸権利」の24条には「連邦国家に生まれた少数民族でないとしても、連邦国家の市民権(公民権)を認められたすべての市民は、市民としての基本的な人権を授けられる」と記されているが、これはロヒンギャの国籍・公民権認知のための伏線かもしれない。26条にある、少数民族の文化、慣習、言語の保護・奨励は、ミャンマーにおける中央政府との交渉の歴史を考えれば、画期的なものであろう。
最後に、憲章に関して、危惧されることを二点あげておこう。
1.少数民族組織は憲章を歓迎し、臨時統一政府に加わることを承認している。しかし彼らが危惧するのは、もしスーチー氏らが戦列に復帰した場合、この憲章には同意しないのではないかということである。そもそもカレン民族同盟KNUはじめ強力な少数民族組織は、第一次スーチー政権の民族政策に対して強い批判の念を抱いていた。KNUの軍事部門の大幹部は、4月初め次のようにイラワジ紙とのインタビューで次のように答えている。
――彼女とNLDは国軍とうまくやっていくことだけを考えて、少数民族組織を無視するだけでなく、抑圧する政策すら採用した。しかしこのクーデタでスーチー氏は、国軍を変えることができると考えるのは間違っていたこと、そして国民和解の努力が失敗したことを理解しているかもしれない。
しかしどうであろうか。スーチー氏が憲章路線に同意しなかった場合、臨時政府が分裂する危険性は皆無とは言えないであろう。ただしそれは、スーチー氏が拘束から解放され、政治的な指導が可能な場合に限られるだろう。
2.憲章に「連邦軍」に関する記述が存在しない。文民政府の安全保障・国防をつかさどる軍隊についての規定がないことが、この憲章の最大欠陥になる可能性がある。これは将来どうするかの話ではなく、現下の闘争の在り方に関わってくる。少数民族組織の武力部門が「連邦軍」の柱を構成するのであれば、Z世代の若い抗議者勢力が求めているように、内陸部の市街地や農村部での闘いに武器を導入することもありえるだろう。しかしこれは国連特使が強い警告を発したように、本格的な内戦を引き寄せる危険性がある。すでに若い人のうち辺境地帯で軍事訓練を受けて、内陸部に戻ってきているものがいるという。残虐な国軍に対し武器を取って闘うのは、抵抗権の法理からいって許されないとはいえない。
このジレンマを解くのは、国際社会の強力な介入によって国軍の暴力を抑え込むことだが、これもまた今のところ可能性は小さい。ただ数日前中国は臨時政府CRPHに接触してきたという。中国も国軍一辺倒であれば、既得権(原油・ガスパイプラインなど)を危険にさらす可能性があることを考えている。バイデン政権が中国包囲網を構築することだけに頭が行っているのでなかなか難しいであろうが、米中共同歩調で国軍の暴走に歯止めをかけることは可能ではないのか。
※とりあえず我々が市民運動レベルで協力できることはある。多大な犠牲を払いながら続けられている抵抗運動の支援の一環として、クラウドファウンディングによる資金集めと送金が行われている。詳しくはご自分でお調べいただきたいが、「ミャンマー緊急支援チーム21#JUST Myanmar 21」が、その活動を行なっている。
中部ミャンマー・サガイン管区アマラプラにて、治安部隊との市街戦 Mizzima
このジェスチャーは、「私たちを代表して革命で戦っているヤンゴンを含むミャンマーの
少数民族武装組織とZ世代の防衛青年」を称えるものという。 Mizzima
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10739:210416〕
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