《札幌からデモの報告とアピール》 ナクバを生き続けるパレスチナ人―イスラエル抗議とメディアへの訴え
- 2021年 5月 31日
- 評論・紹介・意見
- 松元保昭
今回の発端は、東エルサレムのシェイク・ジャッラーフ48家族立ち退き命令、イスラエル右翼のヘイトスピーチ、抗議に連帯したダマスカス・ゲート数百人を襲ったイスラエル治安部隊の暴力、ハラム・アッシャリーフのアルアクサ・モスク内での治安部隊の銃撃、という一連の抵抗運動への弾圧・懲罰に対して、10日のエルサレム・デイ(1967年に占領したイスラエルが名付けたエルサレムの日)にハマースがロケット弾を発射したことに始まりました。
21日早朝の「停戦合意」なるもので11日間の「戦闘」は終了しましたが、はたして「終わった」のでしょうか?
73年前の1948年、ユダヤ極右シオニスト組織が虐殺・強姦・家屋破壊などの見せしめと脅迫で80万人ものパレスチナ人を追放し難民にした(ナクバ)。その後、人口31%のユダヤ人が6割もの土地を奪い、イスラエル国家を「建設」したシオニストたちは2年後不在者財産法をつくって「帰還権」を与え追放されたパレスチナ人の土地や家屋を欧米からのユダヤ人に売却した。ところが追放され逃れたパレスチナ人には「帰還権」は今もない(国連決議194の不履行)。今回のシェイク・ジャッラーフの家族も現イスラエル領のハイファやヤーファから逃れてきた人々だ。たとえ自分の土地であっても、宗教的・考古学的「理由」をもちだして最高裁でもパレスチナ人の訴えは退けられる。抵抗すると今回のような懲罰=空爆・虐殺が繰り返される。だから、パレスチナ人はいまもナクバ(大破局)という民族浄化を生き続けていることになる。
同じ東エルサレムのシルワーンでは、1970年代から今に至るまでこうした土地強奪が繰り返されパレスチナ内に巨大入植地が各地につくられてきた。イスラエルと結ぶ幹線道路、分離壁、水源にいたるまで土地を奪われてきたあげく日常的な軍事支配によって管理されているのがパレスチナだ。「大エルサレム計画」「エルサレム首都」「聖地(神殿の丘)管理権奪取」という「ユダヤ化」拡大の野望をもつイスラエルは、こうして東エルサレムの土地を奪い続けている。73年もの軍事占領下、こんなに長い植民地支配を許容しているのが、アメリカ、EU、国連という「国際社会」だ。
この間、「暴力の応酬」「報復の連鎖」を叫び続けてきた世界中のメディアは、「停戦合意」を歓迎した。バイデン大統領はネタニヤフの決断を「称賛」した。イスラエルには「自衛権」があると支持する米国政府は、パレスチナ人の自衛権=抵抗権については何も語らない。メディアはハマースを「テロ組織」と強調するが、もともとガザのパレスチナ人民が自らの抵抗のために民主的に選んだ組織だ。勝手に「テロ組織」と名指したのはイスラエルと米欧政府だ。「暴力・衝突・報復」と言ってハマースをやり玉にあげることで、イスラエルの懲罰・弾圧を覆い隠す。パレスチナ人が日々被っているヘイトクライム、家屋破壊、土地強奪、アパルトヘイトへの抵抗をかき消す、これが世界中のメディアの常套手段だ。これが「自由と民主主義」を標榜する西側米欧日のダブルスタンダード効果というものだ。
問題の根は、パレスチナ人に対する日常的な差別(例えば、イスラエルや入植地の少年がパレスチナ人の家に石を投げても逮捕されないが、パレスチナの子どもが石を投げると逮捕され殴られときに殺される)、挑発、脅迫、抑圧、弾圧、集団懲罰の構造的暴力と軍事占領支配だ。対立はまったく非対称であって、国家と国家の戦争ではない。背景もその根も報道しないで「暴力の応酬」「報復の連鎖」を連呼するのは、問題を覆い隠すイスラエルに共犯していると疑われても仕方がない。こういうときにこそ、ジャーナリズムの真価を発揮してほしいものだ。
さらに安倍・菅自公政権は、ことあるごとに「インド太平洋構想」を喧伝している。じつは日本が、インドからさらにイスラエル、NATOへと結んで中国・ロシア包囲網つまり米欧覇権の先兵になろうという魂胆だ。尖閣問題をテコに先島諸島の軍事化をすすめ一日10億円の軍事演習を強行し「敵基地攻撃能力」を高めようと軍事力優先の国づくりにすっかり舵を切っている。原発に失敗しコロナに襲われた財界も軍事を渇望し、政権を糺す学術会議を亡き者にしようとしている。憲法前文の「公正と信義、決意と誓い」は風前の灯だ。
私たちが考えなければならないのは、いまも「アラブ人をガス室に、火の中に」とか「アラブ人を駆除」とかいうナチまがいの戦争・植民国家イスラエルを免責・温存・容認してきたのは誰なのか、73年前の民族浄化を裁かなかった、裁けなかった、「米国」「国際社会」「国連」を、さらに自らを裁こうとしなかった「イスラエル国家」を考えることだ。
同時に、「裁かれない加害」は日本国そのものの問題でもある。土地強奪・家屋破壊・強制移住はかつてアイヌ民族が体験したことである。いまだに謝罪はない。「捨て石」となった20万人の血潮は沖縄の地に染みつき、「無期限貸与」(昭和天皇)の米軍基地は76年間も居座り続け本土の「国民」は知らんフーナ。朝鮮半島の36年間の植民地化にはまっとうな謝罪・補償はなく「分断」を嬉々として逆利用してきた日本、イスラエル建国の年1948年の朝鮮学校閉鎖令はいまも朝鮮学校差別につながる。自ら正義を実現できない国家・民族は何をしでかすかわからない…。
(2008年、2012年、2014年、そして今回虐殺されたパレスチナ人、とくにその半数の女性と子どもを追悼しつつ、こんなことを考えながら20名でメモリアル・サイレント・マーチをやりました。)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10951:210531〕
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