バッハという「異民族支配者」の忌まわしさ
- 2021年 7月 20日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎
(2021年7月19日)
昔学生時代に復帰前の沖縄に1か月余の滞在をしたことがある。そのとき、特別なニュアンスで「異民族支配」という言葉を何度も聞かされた。「日の丸」が、復帰運動のシンボルだった時代の話である。
ナショナリズムとは、思想でもイデオロギーでもない。おそらくは信仰に近い感情的な精神現象であろう。私自身は、そのナショナリズムの呪縛から比較的自由な立場にあると思っていたが、当時の沖縄の人が口にする「異民族支配」という言葉の忌まわしさには共感せざるを得なかった。
異民族支配においては、支配権力の正統性の根拠が被治者の同意や支持に無関係に成立している。だから支配者は被治者の利益に無関心でいられる。被治者多数の批判の声がなかなかに支配者の耳に届かない。そこから、「異民族支配」という言葉の忌まわしさが生まれる。
私の古い記憶の地層の底にある、その忌まわしさを今思い出している。IOC会長トーマス・バッハの言動に接して、である。そして、バッハをのさばらせている我が国の首相や都知事の不甲斐なさに接して、でもある。こいつ、本当に嫌な奴だ、こいつら本当に情けない奴らだ、と思わざるを得ない。
既に、オリンピックのイメージは泥にまみれ、IOCの権威も地に落ちた。バッハという人物を知らないうちはなんの批判もなかったが、この「ぼったくり男爵」の独善ぶり、高慢さがよく分かってきた。それにしても、なにゆえにこんなときに愚かな五輪の強行かと、腹が立ってならない。この人の発言の度に、「異民族支配」の忌まわしさが甦る。
「(緊急事態宣言は)東京オリンピックとは関係ない」(4月21日)、「我々はいくつかの犠牲を払わなければならない」(5月22日)、「国内の感染状況が改善した場合は観客を入れての開催を」(7月14日)、そして「日本の方は大会が始まれば歓迎してくれると思う。アスリートを温かく歓迎し、応援してください」(7月18日)というノーテンキな軽忽さ。日本国民の怒りの空気の読めなさは、天性の傲慢の故なのか、それとも生来の遅鈍のゆえなのだろうか。
昨日(7月18日)の報道では、バッハは記者団に「安全な五輪開催に自信」と述べたという。そして、話題になったのは、「五輪関係者の感染は0・1%」という安全・安心の根拠だ。
国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は17日、東京で行われた理事会後に記者会見を開き、23日に開幕する東京オリンピック(五輪)が安全・安心に実施できるとあらためて自信を示した。マスク姿で会場に現れたバッハ会長は、根拠として大会組織委員会からの報告データを持ち出した。
「7月1日から16日までに入国した選手や関係者は約1万5千人で、新型コロナウイルス感染が確認されたのは15人。0・1%と低い確率だ。これを見れば対策は整っているし、機能している」
この「1万5千人の母集団からの感染者15人、率にして0・1%」は、決して低い数値ではない。むしろ、既に許容されざるリスクが顕在化した危険な値なのだ。おそらくは、組織委員会の担当者はこの数値の高さに困惑したに違いない。が、ものの分からない異民族支配者は、この数値を安全・安心の根拠とした。
政府の分科会は、感染状況の深刻度の最も分かり易い指標として、「直近1週間の人口10万人あたりの感染者数」を設定して、毎日国民に報告している。
バッハが最近1週間の感染者数を発表してくれれば、比較は容易なのだがそうはさせてくれない。我々は大本営発表の数値しか与えられていないが、結論としての0・1%は、10万人当たりとすると100人である。これは本格的な選手団来日以前の感染者数(率)として驚くべき数値なのだ。
分科会指標を、「7月1日から16日までに入国した選手や関係者約1万5千人のうち、新型コロナウイルス感染が確認されたのは15人」に当てはめてみよう。「7月1日から16日までに、毎日傾斜的に増加して入国した選手や関係者数の累計が1万5千人だから、この間の平均人数を7500人と仮定する。「7月1日から16日まで」を、ほぼ2週間とすれば、7500人の母集団から、一週間では7.5人の感染者を出したことになる。これを10万人当たりに換算すれば、
7.5人×10万人÷0.75万人=100人となる。
周知のとおり、この数値が「25人以上」になると、感染状況が最も深刻な「ステージ4」となる。また、「15人以上」が感染者が急増している段階である「ステージ3」に相当することになる。
16日を2週間としたことに対する批判を容れて修正すれば、
100人÷16日×14日=88人
となって大差はない。
昨日(7月18日)の都道府県別でのこの指標でのレベル4に達しているのは1都2県。最高値は、東京都の53.7人である。来日オリンピック関係者群は、その倍近い濃密な感染者集団なのだ。
なお、バブル方式とは、バブルの内側は徹底してクリーンであることを当然の前提として、バブルの外部からのバブル内部へのウィルス侵入を防いで、バブル内部のクリーンを保持しようとするコンセプトに基づくものである。ところが、既にバブルの内側が外よりも遙かに深刻な汚染状態にあることが明らかになったのである。既に、内外を遮蔽するバブルの存在は、まったく意味をなさない。選手村は、巨大なダイヤモンド・プリンセス号となっているのだ。
しかも、今後、この感染状況はさらに急激に深刻化することが予想されている。バッハによる異民族支配のリスクが、さらに顕在化しつつあるのだ。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.7.19より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=17232
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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