学術会議会員任命拒否問題《個人情報開示請求》《行政文書開示請求》は審査請求段階に
- 2021年 8月 22日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎
(2021年8月21日)
菅義偉が首相に就任したのは、昨年(2020年)の9月16日。同月28日には、内閣府から日本学術会議の事務局に、新会員任命対象者の名簿が送付されている。学術会議が推薦した105名から6人を除外した99名だけを搭載した名簿。これが、10月1日に天下の大事件として知られるところとなる。「学術会議任命拒否事件」こそは、菅義偉首相の初仕事であり、菅義偉は学問の自由・自治の侵害者として後世にその悪名を残すことになった。
菅義偉政権が強引に日本学術会議の人事に介入した。端的に言えば、政権に対する批判勢力を切ったのだ。狙いは大きくは二つあったろう。一つは、恫喝である。政権に対する批判を許さないとする居丈高な姿勢の表明である。そして、もう一つは政府機構に埋め込まれた学術専門家集団のチェック機能の放逐である。専制支配復活への一歩にほかならない。民主主義を大切に思う者にとって、けっして傍観も、座視も許されない。
岡田正則・早稲田大学大学院教授ら任命を拒否された6人は、本年4月26日内閣府と内閣官房に「自己情報開示請求」を求めた。個人情報保護法を根拠に、各々の任命拒否に関わるすべての行政文書の開示を得て、その上で行政の違法の有無を正確に判断しようということである。また、同時に法律家1162名が、行政情報公開法を根拠に、主権者たる国民の立場から、同様の文書開示を求めた。
開示対象とされた文書の主要なものは、《2020年に日本学術会議が推薦した会員候補者のうち一部の者を任命しなかった根拠ないし理由がわかる一切の文書》として、特定されている。
この請求の主要部分に関しては、内閣官房は情報を保有していないとして不開示を決定。内閣府は支障があるとして情報の有無を含めて応答を拒否した。開示された一部の文書も「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼす恐れがある」などの理由で黒塗りだった。まったく「任命拒否の理由や根拠」がわかる資料の開示にはなっていない。
こんな重大なことに説明責任を果たそうとしないムチャクチャな政府の姿勢である。任命拒否の当否は措くとしても、その理由を明らかにしてもらいたい、任命拒否に至る行政文書を開示してもらいたいという要求に対する、首相直轄機関のこの無責任極まる対応。これが、民主国家のやることか。
これだけの重大事である。決裁に至る過程での関係文書がないことは考えられない。しかも、任命拒否をめぐっては、加藤勝信官房長官が昨年11月、「杉田和博官房副長官(鑑定事務方トップ、元警備公安警察官僚)と内閣府でやりとりした記録を内閣府で管理している」と国会で答弁しているのだ。
この不開示決定にはとうてい納得できるはずもなく、昨日(8月20日)任命を拒否された6人も開示請求をした法律家481人も行政不服審査法に基づく審査請求を申し立てた。審査請求では、不開示の理由の説明がないことを違法として、不開示決定を取り消す旨の裁決を求めている。これから、首相が情報公開・個人情報保護審査会に諮問し、その答申を待つことになる。
任命拒否された6人のうち、提出後に都内で会見した岡田教授は、任命拒否は日本学術会議法の規定に反して行われたとしたうえ、「民主主義や法治国家の原則からしてはならないことを(首相は)した。しかもその根拠をまったく説明していない。今からでも是正する機会として今回、審査を請求した」「不開示は説明しない政治・行政の現状を端的に示している。是正しなければ社会に禍根を残す」と語っている。
また、任命拒否された1人の小澤隆一・東京慈恵会医科大学教授は「任命拒否を決めた際の政府内でのやりとりを記録した文書が、これまでほとんど示されていない。違法な決定がなされたことを示すと言わざるを得ない。このプロセスを明らかにすることは民主主義にとって重大な意味を持つ。審査で解明されることを期待する」と述べている。
繰り返すが、日本学術会議の推薦会員任命拒否の問題は、看過することのできない重大問題である。民主主義の土台を崩す暴挙と言って過言ではない。こんなあからさまな違法を放置しておいてはならない。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.8.21より許可を得て転載
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