出張で日本に帰ろうと思っても・・・ 「自主隔離」という強制のカベ
- 2021年 12月 13日
- 評論・紹介・意見
- オミクロン株盛田常夫隔離
ブダペスト市内は今冬、初めての冠雪となりました。幸い気温が高く、主要道路の雪は消えましたが、庭は雪景色です。
さて、コロナの新変異株オミクロンの出現報道から間もなく、日本政府は12月一杯の航路旅行客の新規予約停止を航空会社に「通告」しました。国土交通省からの「依頼」に逆らえるはずもなく、航空会社は予約の受付を停止しました。これによって、事実上、日本は「鎖国」政策をとったわけです。
外人客の入国禁止だけでなく、日本人の入国を事実上禁止するのは憲法違反という指摘を受け、慌てて岸田総理大臣は修正指示を出しましたが、政府の説明は腑に落ちません。国の基本政策にかかわる決定を「国土交通省航空局の勇み足だった」という説明は、どう考えても尋常ではありません。一つの省の一部局が憲法違反と指摘される規制を簡単に出せるのは、政治家も官僚も、「世論の批判を恐れるあまり、基本的人権にたいする配慮を怠っているからだ」と批判されても仕方がありません。
そもそも、新変異株と言っても、いったい感染力がどれほど強く、毒性(致死性)がどれほど強いのか、何も分かっていません。これまでの世界の感染病の歴史から明らかなことは、感染力と毒性は反比例の関係にあり、コロナ19の致死性はインフルエンザより高いものの、格段に高いわけではありません(前回のメイルの添付ファイルを参照)。にもかかわらず、日本ではコロナに感染すること自体が悪であるかのような世論が形成され、過剰な規制が導入されています。ウィルスを完全に死滅させることはできません。コロナは、エボラ熱のように、感染すればかなりの高い確率で死亡する感染病ではありません。ワクチン接種すれば、インフルエンザ並みの感染病に落ち着く感染症です。例年、インフルエンザの死者は、ハンガリーで1万人を超えますが、ここ2年はインフルエンザの死者はゼロと報告されています。コロナの死者の半分はインフルエンザでも犠牲になる人々だったと考えれば、コロナの致死率はインフルエンザのおよそ2倍程度だと想定されます。もちろん、生活環境や公衆衛生状態、健康状態によって、致死率が増幅されると考えられますが、エボラ熱のような感染症でないことははっきりしています。
政治家は「コロナ無策」を批判されるのを避けるために官僚機構にその対処の責任を押しつけ、他方で官僚機構は政治家の批判を受けないように、可能な限り厳しい規制を導入することで、批判されないように行動します。この二つの無責任が重なると、今回のような憲法違反とも言える政策措置がいとも簡単に導入されることになります。
11月初め、経済産業省は経済界からの要望を受け、出張での日本人の入国に限り、自主隔離期間を3日に短縮することを決めました(実質4泊5日)。私もこれを機会に、ここ2年の間に溜まった懸案事項の処理に日本へ行くことを決めました。本人の誓約書、接種証明書(出発72時間以内のPCRテストの陰性証明書要件はすべての入国者に必要)、受入れ会社の誓約書、行動予定表を出発3週間前に提出することが要求されました。経産省とのやりとりは1回の書類提出で終わりではなく、行動予定の詳細記述の追加要求の他に、書類提出後から2週間経って、空港での受入れ責任者の出迎え、隔離期間終了後の解釈者名簿の事前提出、会食者の10日間の健康調査、陽性の場合に備えた事前の保健所・病院との受入れ承諾が求められることになりました。今時、陽性の場合に備えて、何かを約束してくれる機関などどこにもありませんし、感染していないのに会食者の10日間の健康追跡調査を要求するのは過剰規制です。ところが、経産省の担当者に逆質問しようものなら、「いったいお宅の会社は何を考えているのか。無責任な行動を取ったら、会社名を公表します」と叱られるのが落ちです。
ワクチン接種者がふつうに入国する場合は10日の自主隔離になりますが、このような書類の提出は求められません。隔離期間を5日間短縮するために、旅行3週間前から多くの人の手を借りて、これだけの書類を提出する必要があるのです。官僚が考えそうなことですが、これでは短縮のメリットはほとんどありません。追加要求が次々に出てくるので、あまりに馬鹿馬鹿しくて、今回の出張旅行は取りやめにしました。
欧州の日系航空会社に問い合わせると、「複雑すぎるので、日系企業でこの制度を利用する会社は一つもありません」ということだった。事実、大手日系企業ですら、「手続きが面倒なので、通常の10日間自主隔離で帰国するように」と指示しているようです。
何のことはない、経産省は経済界の声を聞いた振りをして、実際には渡航できない「緩和」措置を発表したというだけのことです。官僚任せになっている日本では珍しくないことですが。
短期の出張で10日間も自主隔離するのは現実的ではありません。国によっては、再入国の際に1週間程度の隔離が強制されるところもあるので、何週間も自主隔離しているわけにはいきませんから、出張旅行はほぼ不可能です。2回あるいは3回の接種完了者で、3回のPCRテスト(出発前、到着時、短期間の自主隔離期間最終日)で陰性の場合は、短期間の自主隔離で行動規制を解除すべきです。感染していない人々を、何日間も「自主」という名目で「強制隔離」するのは人権侵害です。規制する側は、一律に規制した方が楽でしょうが、それはあまりに雑な扱いです。ワクチン接種を奨励するなら、それに見合う規制緩和を導入して、人権侵害にならないように配慮した政策が必要です。
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