ゼロコロナ信仰が生む人権侵害
- 2021年 12月 15日
- 評論・紹介・意見
- オミクロンコロナ人権盛田常夫鎖国
政府が打ち出した鎖国政策は撤回されたが、この問題を最初に指摘したのは、橋下徹などの右派の論客たちだった。これにたいして、日頃から、人権擁護や憲法擁護を唱える政党や論客が沈黙しているのは不可解である。
報道によればオミクロン株の出現で、岸田政権が即時の鎖国を宣言したことにたいして、国民の9割が賛成しているという。これを「意外」と考えるか、それとも「やはり」と考えるか。中国や北朝鮮であるまいし、国民のほとんどが人権侵害で憲法違反とも言える措置に賛同を示すのは気味が悪い。やはり日本人もまだ、アジアの専制国家並みの国民なのかと思ってしまう。「コロナさえ入ってこなければ、国家は何をしても構わない」のか。そういう短絡的な思考が、国や社会を間違った方向へ導いてきたのではないか。政府の強硬政策に反対する意見表明は、国賊的犯罪ではない。民主主義国家では当然のことである。そうでなければ、中国や北朝鮮を批判する資格はない。
この背景にあるには、多数の国民が「ゼロコロナ信仰」に取り憑かれているからである。強毒性(高致死率)のあるウィルスには絶滅対策は必要だが、弱毒性のウィルスを完全消滅させることが不可能なだけでなく、その必要性もない。ウィルスの毒性がさらに弱まるか、ワクチン接種で無害化することで、問題は解決される。鎖国で問題が解決されることはない。
問題は、政府がこのような明確な指針を出さずに、場当たり的にことを進めていることにある。だから、世論の動向で行き当たりばったりの措置をとることになる。他方、国民の中には感染自体を「恥」あるいは「罪」と見なすような偏見が醸成され、場合によっては「村八分」的な行動をとる人も出てくる。こうなると、人権侵害にも憲法違反にも鈍感になり、何が何でも感染を阻止することが、最良の措置だと考えるようになる。これでは中国や北朝鮮を笑えない。
奇妙なことに、鎖国宣言で日本人の帰国すら排除する措置にたいして、「憲法違反」を明言しているのは、橋下徹などのいわゆる右派の論客たちである。非常に真っ当な議論である。これにたいして、左派の論客や政党は沈黙を守っている。しかも、右派の論客たちは、こういう議論が国民の多くの賛同を得られないと理解しながら、持論を展開している。論客としての矜持を感じさせる。左派政党やその論客たちは、なぜこのような議論を展開できないのだろうか。明らかに、国民の多数の意向を忖度しているとしか考えられない。とくに野党は有権者からの批判を受けないように、初めから、国民の支持を得られない主張を控えている。与党も野党も同じ穴の狢ということだ。世論の動向で政策を決めるポピュリズムである。憲法を守れ、人権を守れと主張している政党が、鎖国を仕方がないと傍観するのは、ポピュリズムに侵されているからである。
オミクロン株といっても、その症状や重症度がほとんど分かっていないのに、即座に憲法違反の措置が宣言されるというのは可笑しい。しかも、右派の論客から疑念が呈せられると、これまた即座に措置を撤回するというのも、コロナ対策の基本方針の欠如を露呈している点で興味深い。まさに朝令暮改内閣である。
そもそも、COVID19は鎖国しなければならないようなウィルスなのか。感染すれば致死率がきわめて高いウィルス(エボラ熱)と違い、一定の予防措置を取っていれば重症化しない毒性が低い部類のウィルスである。オミクロン株のように、感染力が高まったウィルスは、人との共存のために、毒性を緩和させていることが考えられる。とくに症状がなければ、風邪と同程度に扱えるウィルスに変異したと考えられる。いずれにしても、急いで鎖国するような状況ではない。にもかかわらず、菅政権への国民批判を注視してきた岸田首相は、即座に強硬措置を打ち出すことで、国民の支持が得られると考えたのだろう。
一般国民は当座の問題が解決されれば良いという短絡的な思考で行動する。しかし、政治家や政府は短絡的思考で国の基本政策を決めてはならない。コロナ感染の終息シナリオを描き、将来を見据えながら、社会経済生活を可能な限り平常化するという明確な指針のもとに政策措置を実行する必要がある。ゼロコロナを目指すのではなく、コロナを無害化して、速やかに社会経済生活を平常化させる措置を的確かつ迅速に採ることが必要である。一律規制ではなく、ワクチン接種や健康状態に合わせて柔軟に対応し、最大限に社会経済生活の平常を取り戻すことを目標にすべきである。
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