青山森人の東チモールだより…郷に入っても郷に従えない
- 2022年 1月 15日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
騒音で年末年始を祝う
東チモールの2021年~2022年の年末年始は、わたしにとっては打ち上げ花火のやかましさが印象的でした。一年前は日本にいたのでわかりませんが、2019年~2020年の年末年始の記憶をたどる限りでは、この度の年末年始は打ち上げ花火の音がより一層やかましかったように思えます。この場合の打ち上げ花火とは個人個人が店で買って個人個人が遊ぶ中国製の花火のことです。
この中国製の花火の音は爆竹のような騒音がします。近くで鳴ると思わず顔をしかめて肩をしぼめてしまいます。自分が子どものころに遊んだ日本製の打ち上げ花火はもうちょっと柔らかい音だったのではなかったかと思うのですが……。
花火の音よりもある意味で問題なのは大音響の音楽です。近所の家から発せられる大音響の音楽は、東チモールが侵略軍から解放された当初から、年末年始や結婚式などの祝い事のあるなしにかかわらず、連日のように発せられる頭痛の種でした。大音響の音楽はもはや音楽ではなく騒音以外の何物でもありません。
2000年の前半、わたしがビラベルデに下宿していたころ、近所の家から発せられる連日の大音響(大騒音)に閉口したものです。2006年の「危機」勃発以降、ベコラに移り住り始めたころも、近所の家から連日のように発せられる大音響は頭痛の種でした。しかしベコラの場合、近所の騒音問題は少しづつですが緩和されてきました。ビラベルデの場合はそうではなくむしろ悪化していると、わたしの下宿先だった家族の一員のエウゼビオ君は顔をしかめます。最近のこと、ある夜、エウゼビオ君はあまりにもうるさいので警察に電話して苦情をいったところ、騒音を取り締まる法律がないのでどうしようもないといわれたそうです。
2021年12月30日の夜9時頃、わたしはエウゼビオ君と電話で話そうとしましたが、かれの声は微かに聞こえるか否かの状態でした。近所のいつもの家から爆音が発せられ、お手上げ状態の様子でした。ベコラのわたしの周辺は、たしかにうるさいことはうるさかったのですが、祝い事で騒いでいる範疇での騒音で、許容範囲に入ります。
新型コロナウィルスを気にしない一般庶民
2022年1月1日、新年を迎えた首都デリ(Dili、ディリ)のベコラのこの一角の様子をわたしは見たわけですが、驚きました。新年の挨拶に集まる人たちはほとんど新型コロナウィルス感染防止対策に無頓着なのです。マスクもしない、距離もとらない、普通に握手をして、ほっぺたをくっつけあって挨拶をします。感染が怖くないのか?と人にきくと、新型コロナウィルスはもうここにはないから、みんな気にしていない、と返ってきます。
ニュースのTV映像を見ると政府の要人や関係者はマスクをして社会的距離もとっていますが、庶民はというと、一般的に、とくに日常の生活のなかでは、マスクの使用率は極めて低く、人と人との適切な距離を保とうとしません。感染防止対策に気を遣わなくても大丈夫といった感じです。庶民の足である小型バスも普通に運行しており、その中は風通しが良いとはいえ乗客はマスクをしないで狭い車中に詰め寄って座っています。
わたしもマスクをしてちょっと外に出ると握手されそうになりますが、わたしはまだ海外から来たばかりだし……と肘と肘をくっつける挨拶に変えてもらいます。相手には失礼かもしれませんが、人命にかかわる事態になる可能性があるのでこればっかりは、郷に入っては郷に従え、というわけにはいかないことをお許し願いたいと思います。
近所の人たちが新年の挨拶にやって来る。
握手はするわ、頬をくっつけ合うわ、抱き合うわ、マスクはしないわ、距離はとらないわ、コロナ禍前の光景と変わりない。大丈夫だろうか?
2022年1月1日、ベコラにて。ⒸAoyama Morito.
一大ショッピングセンンター「チモールプラザ」は大賑わい。映画館も再開し、『スパイダーマン』(正面看板 左)の最新作も上映されている。これを観た人によれば、館内は満杯であったという。大丈夫だろうか、本当に?
2022年1月9日、チモールプラザの駐車場にて。ⒸAoyama Morito.
各店々の入り口に水の入ったバケツあるいはタンクそして液体石鹼が置かれ、手洗い所が仮設されている。しかしそこで手洗いしている人をわたしはまだ見たことがない。この仮設手洗い場で手を洗うとたいていの場合、水はその場に垂れ流しとなる。これでは水のたまり場をつくってしまい、デング熱の原因である蚊を呼び寄せるという矛盾に陥ってしまう。しかしまぁ、連日のように雨が降るので関係ないか……。
2022年1月5日、ホテルチモール内にあるチモールテレコムの裏口にて。ⒸAoyama Morito.
医療現場を逼迫させているのはコロナでなくデング熱
先月(2021年12月)の感染状況を見ると、新規感染者が出なかった日が21日もあり、12月19~29日の11日間は新規感染者ゼロ人が連続しました。その他は一人か二人が出る程度で、12月30日に4人出たことが突出しているように見えるくらいです。これでは一般の東チモール人が日常的に新型コロナウィルスの感染予防対策に気を遣わないのは当然かもしれません。
ところがいま東チモールの医療は逼迫しているのです。逼迫させているはデング熱です。新型コロナウィルスの感染は抑えられていますが、デング熱の感染が今年に入って拡大しています。デング熱対策のために非常事態宣言を発令してもよいくらいです。
1月5日、首都の国立病院はデング熱患者を受け入れる態勢が飽和状態となってしまいました。仕方ないので、医療装置を必要としない中等症の患者をベラクルスという地区にある診療所に移す措置がとられました。ベラクルスの診療所へは国立病院以外の病院からも患者が移されています。TVニュースの映像を見ると、国立病院は入院患者とその家族でごった返している様子です。もしここに新型コロナウィルスが侵入したらと思うとゾッとします。
1月10日、デング熱の患者288人が記録されました。内訳は、デリ地方に191人、マナトゥトゥ地方に17人、エルメラ地方に8人などで、ほとんどが首都のあるデリ地方に集中しています。同日、288人のうち5人も亡くなりました。そのうちの4人がエルメラ地方の5歳以下の子どもです(『タトリ』、2022年1月11日より)。
新型コロナウィルスが人から人へと感染するのにたいし、デング熱は蚊を媒介とします。蚊を減らすことが重要な対策となります。ところが首都デリの町はゴミで溢れている蚊天国です。ゴミ収集場所のゴミの山が崩れて歩道さらに車道の一部を覆うという目を覆いたくなる光景はあちらこちらで見られます。そしていまは雨季、連日のように2時間程度の短い時間ながらも強く降る雨はゴミを町中に流し広め、蚊の発生を助長します。保健省は国民に向けて地域の清掃を強く呼び掛けています。
新型コロナウィルスの今年に入ってからの新規感染者ですが、1日・2日・4日・5日そして8日がゼロ人、3日が3人、6日が2人、7日が11人、9日が1人、10日が2人、となっています。
1月7日の11人という数字がちょっと気になります。二桁を記録したのは去年10月22日(10人)以来の出来事です。世界の感染状況を見れば、東チモールにオミクロン株の感染が拡がったとしても不思議はありません。マレーシアから東チモールへ飛ぶ旅客機は世界中から人を乗せてきます。水際作戦である空港における簡易抗原検査で果たしてオミクロン株を防ぎきれるでしょうか。東チモールの子どもたちにとって天敵であるデング熱に新型コロナウィルスがオミクロン株という“援軍を派遣”させないように東チモールは警戒を強化しなければなりません。
青山森人の東チモールだより 第449号(2022年01月13日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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