ミャンマー危機、日本政府ますます軍事政権寄りに
- 2022年 1月 16日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
インドネシアやマレーシアなどアセアン諸国内での強い懸念を押して、フンセン・カンボジア首相は、ミャンマーへの訪問を強行した。アウンサンスーチー氏らと接触できる見込みのないまま、また5項目合意についてまったくの進展がないまま、クーデタの首謀者であるミンアウンライン議長のみと会談するのは、クーデタ政権の正当化・承認につながるとして、ミャンマー国民はもとより中国やロシアなどをのぞく国際社会はそろって反対していた。
ところがあろうことか、わが日本政府は、カンボジアの独裁者フンセン首相の独断専行をミャンマー危機打開に向けた有意義な動きとして受け入れたのである。1月11日、林芳正外相は、アセアン議長国となったカンボジアのプラクソコン副首相兼外相兼アセアン・ミャンマー特使と電話で会談し、フンセン首相のミャンマー訪問が少数民族諸組織との停戦延長や人道支援に成果をあげたものとして、これを評価し歓迎する旨を伝えたという。これには空いた口がふさがらない。言うにこと欠いて「停戦延長や人道支援に成果をあげた」などとは、虚辞極まれりというほかない。すべての少数民族組織との停戦延長をいいながら、いつものことであるが、12月以降国軍の少数民族居住地域への空爆や重砲撃は続いているのである。
12月のクリスマスイブには、カヤ―州住民35名が避難途中に国際NGOの職員2名ともども、襲撃され焼き殺される事件があったばかりである。直近でも、地元メディアFrontier Myanmar(1/14号)によれば、国軍への抵抗の激しいカヤ―州では、国軍の攻撃を逃れて州都ロイコーの人口の約3分の2(9万人のうち6万人)が財産を放棄して家を離れ、その多くが北のシャン州に向かったと見られるとしている。しかも国軍は、都市封鎖に近い状態にしてこれ以上の流出を抑制し、しかも生活物資を積んだトラックの入域を阻止しているという。兵糧攻めにして、そもそもの原因は反クーデタ武装勢力の抵抗にあるとして、民意の離反を狙っているのである。市内では国軍による 無人の家からの略奪も横行して、死の町と化している。
林外相のいう人道支援とは、コロナ対策の医療機器や衛生用具をフンセン首相が、手土産として空輸したことを指すのであろうが、笑止千万である。国連関係機関の見通しでは、人口の半数近くが貧困ラインに転落するとして、国際社会に緊急支援を訴えている現状を日本はどう考えているのか。昨年の総選挙での野党の敗北の結果、ますます日本政治の劣化が加速しているが、日本外交もそれを反映して条理と責任性に欠け、今だけ自分だけ利権だけの状況に陥っている。そもそも民主化運動などとは反りが合わないのであろう。フンセン首相発案の奇策――民間人である日本財団総帥の笹川陽平氏をASEAN議長国のミャンマーに関する特別顧問として迎え入れることも考えているらしいが、国家主権・国家の主体性にかかわる外交の重要案件に民間人をかませて、万が一の事態が起こっても責任回避をはかれるようにする、これは日本政府にとっても、渡りに船なのかもしれない。
いま抵抗勢力はどの国が何をどうするのかを注視している。日本政府の当初の二股外交も情勢が煮詰まるにつれて次第にほころびを見せ、日本政府の本音が親軍事政権にあることが次第に浮き彫りになってきている。まっとうな東南アジア政策を実現する意味でも、本年の野党勢力の立て直しと国政選挙での挽回は焦眉の急であろう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11673:220116〕
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