ミャンマー、革命は英雄をつくる
- 2022年 1月 17日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
以下の文章は、地元の英語ネット・メディア「イラワジ」(1/13号)が、特集掲載したインタビュー記事「ミャンマーの反軍革命は必ず成功する」の翻訳である。新聞に掲載された時事問題に関する論説は、著作権者に無断で転載可能とされているので、ほぼ全文紹介させていただくことにした。ミャンマーの反体制運動の新しい波(ヌーベル・バーグ)が生み出しつつある指導者像の一端を、われわれが知る手がかりとして提示する次第である。
<市民革命の新しい指導者―テイザーサン氏へのインタヴュー>
33歳の医師であり図書館司書であるテイザーサン氏は、軍事政権の最重要指名手配者の一人であり、何カ月も追われている。4月には扇動罪で逮捕状が出され、逮捕につながる情報には1千万チャットの報奨金が懸けられた。しかし地下に潜伏しながら、テイザーサン氏は祖国から軍部独裁を排除するという使命を遂行し続けている。
2・1クーデタから3日後、テイザーサン氏はミャンマー第2の都市マンダレーで最初の反クーデタ行動を主導し、アウンサンスーチー氏らの釈放を要求した。当時、他の多くの人々はまだ街頭に出ることをためらっていた。・・・彼の決起は、その後の数日間、数週間と続く大規模な抗議行動のきっかけとなった。これほどの国民的な抵抗は予想しなかったと軍事政権は、のちに認めている。
2月3日朝、マンダレー医科大学前でテザーサン氏を先頭に約20人がマンダレー初の反体制デモを行った。イラワジ
テイザーサン氏は、反体制活動を組織・指導した功績により、韓国の民主化のきっかけとなった1987年の蜂起にちなんで命名された「6月民主蜂起賞」を受賞した。クーデタ前は、テイザーサン氏は慈善診療所でボランティア医師として働き、マンダレーで友人たちと無料図書館を開設し、また市民社会団体のための研修も開催していた。クーデタによって、彼は軍事政権に決然と抵抗する活動家へと変身を遂げた。
政権軍はデモの際に何度も彼を逮捕しようとし、また彼のマンダレーの自宅やサガイン地方の生まれ故郷の村を襲撃し破壊している。マンダレーの自宅襲撃の際には、国軍は娘のおもちゃから写真、蔵書まですべて押収した。彼はもう11カ月も潜伏しているため、両親、妻、娘に会っていない。
「革命に関わった人はみな、多かれ少なかれ同じ目に遭うだろう。命さえ捧げた人もいれば、獄中や失踪した人もいる。ストライキを起こした公務員は解雇された」と、テイザーサン氏は述べている。
現在、彼は抗議活動を組織し、軍事支配に対する闘いを続けるよう市民たちを励ましている。彼はまた、並行する国民統一政府(NUG)の政策指導のための反体制連合である国民統一協議会(NUCC)にも参加しており、連邦民主連合創設のための土台作りの努力を主導している。
テイザーサン氏は、革命の前途に楽観的である。公務員は政権のために働くことを拒否し、軍とつながる企業やサービスの製品を人々はボイコットし、税金を払うことを拒否する市民的不服従運動から、武装抵抗や粘り強い路上抗議行動まで、人々の革命は前進し、強くあり続けているからだとしている。
2021年2月、ヤンゴンの中心街で行われた反クーデタ集会の様子。 イラワジ
◆クーデタから3日後に軍政への抗議行動を開始されましたね。1年前と今とでは、状況はどう違うのでしょうか?
――私を含め、人々は2月初旬から街頭に立ち、軍部のクーデタを受け入れないことを示しました。そのときと違うのは、「革命は必ず勝つ」という信念が強くなり、クーデタが失敗したことがこれ以上ないほど確実になっていることです。この1年で、あらゆる階層の人々が軍事政権を全面的に否定していることが証明されました。彼らはさまざまな方法でそれを実証し、それを続けています。テロリストの軍事政権は、われわれの国民を統治することはできないし、われわれをコントロールすることもできない。
◆政権側は、暴力的な弾圧、逮捕、拷問、殺害で反対運動を抑えようとしてきました。しかし、民衆の抵抗は依然強力です。なぜでしょう。
――なぜなら、この革命は非常に強力で、まっとうで意義のあるものだからです。人々はこの革命を、70年以上にわたって国に災厄をもたらしてきたテロリスト軍部を根絶やしにするための最後の戦いと考えています。私たちや前の世代が経験したのと同じ苦しみを、次の世代に経験させたくはないのです。この国は最終的にそこから完全に解放されるべきなのです。だからこそ、私たちはこの最後の戦いで命を犠牲にすることさえ価値があると信じているのです。政権が殺人兵器を使い、残忍な弾圧を行い、拷問や暴力を振るおうとも、私たちはこの革命から決して手を緩めたり後退したりはしません。彼らが私たちを抑圧すればするほど、私たちはそれだけより多く決起することになります。
医師としての教育を受け、ミャンマーにおける教育や知識社会の推進に尽力。 イラワジ
◆あなたは革命の進展に満足されていますか?
――満足しています。非常に満足のいくものだと言えるでしょう。なぜなら、私たちの国民は、世界で最も残酷で、抑圧的な独裁者に、自分たちの力だけで立ち向かっているのですから。彼らは、力づくで行政機構を動かそうとしましたが、それでも失敗しています。私たちには、国民を代表する国民統一政府(NUG)と連邦議会代表委員会(CPRH)があり、国民統一協議会(NUCC)も国民の支持を得て国民統合の象徴として結成されたのです。ミャンマー史上、今が最も国民が団結した時です。他方、テロ政権は海外で孤立しています。私たちは、このテロリストの軍事政権を打ち負かす努力を続けるだけでいいのです。
◆今年のミャンマーに期待することは?
―――私たちは、2022年に重要な歴史的節目、転換点に到達することを期待し、信じています。それは、私たちが民衆の力を信じているからです。テロリスト軍団による政権奪取が失敗したクーデタであることは、民衆が証明しています。今年は、彼らの支配を終わらせるための革命の転換点となるでしょうし、私も革命のために最大限の努力をするつもりです。
◆勝利を手にするために、人々に伝えたいことは何ですか?
――私の第一の優先事項は、すべての国民です。なるほど勝利には時間がかかるし、私たちは大きな犠牲を払わなければなりませんでした。しかし何があっても、この1年間に見せたような不撓不屈の鉄の精神で、この革命のためにできることは何でもしてほしいと思います。そして、NUG、CRPH、NUCCなどの組織がもっと団結してバランスをとり、革命においてもっと主導していくことが重要です。また、(少数)民族地域を基盤とする指導者や抵抗勢力には、革命のステップアップを促したい。民衆がカギを握っている。民衆が気を緩めず、今年も革命に参加し続ければ、2022年に私たちが望む結果が得られるでしょう。
2021年12月、少数民族の領内で訓練を行う、いわゆる人民防衛軍のゲリラ戦闘員たちSTRINGER / REUTERS
◆政権は、新しい選挙の実施や選挙制度の改革、一部の政党との協議を口にしています。それについてのあなたのご意見は?
――ああ、そうなっても、何も特別なことはないんですね。国民は、政権の会議にどの政党や個人が出席するのか、またその背景や本性はなにかを、もう知っているのですから。テロ軍団は独裁を拡大するためにいろいろな手を打ってくるでしょうが、国民はそんなことでけして騙されません。
◆国際社会へは何を伝えたいでしょう。
――私は常々、人民革命の鍵は人民だと言っています。国際社会は、テロ政権はミャンマー国民の代表ではないことをよく理解する必要があります。彼らは単なる戦争犯罪者でしかありません。この軍事政権を正当な政府として認める理由はありません。国際社会は、真実と正義を確立し、人道に対する罪の責任を追及し、軍事政権にふさわしい処罰をもたらすことにも力を貸すべきです。私たちの側からみると、目標に到達するまで前進を続けることを、国際社会はバックアップすることができます。私は、国際社会が革命を支援するために最大限の努力をすることを強く求めたいと思います。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11676:220117〕
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