無内容な答弁が続く、総理、「しっかり」してよ!
- 2022年 2月 21日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
・さっきから「しっかり」ばかり言っている総理の会見しっかりしろよな(千葉 山本信明)「読者歌壇」(荻原裕幸選)『現代短歌』2022年3月)
ご近所の山本さんの短歌である。重厚な作品も多い山本さんだが、「やったな」というより「やられたな」の思いだった。たぶん昨年12月21日の記者会見に取材したものだろう。私もこの「しっかり」を詠んでみたかったのだ。
2月17日、岸田首相の2か月ぶりの記者会見、何も変わってはいなかった。短歌はできなかったが、やはり、どうしても調べておきたかった。首相官邸のホームページには、会見の文字起こしが収録されている。改めて読んでみよう。数え間違いはあるかもしれないが、この「しっかり」がなんと19回!は確認できた。さすがに冒頭発言は、読み違いや読み飛ばしがないように「しっかり」原稿を読んでいたようで、「しっかり」は登場しなかった。ところが、質疑になると、俄然、頻発してくるのである。たとえば、以下のような具合である。ただの言葉の上げ足とりではなく、岸田首相の発言の無内容を象徴しているようではないか。それに、記者会見をNHKの夜の7時のニュースにぶつけ、ジャックし、NHKは国営放送と化す。
・コロナの感染法上の2類・5類の引下げの問題
「引き続き厚生労働省の審議会等において、政府としてもしっかりと専門家の意見も聴きながら議論は続けていきたいと考えています。」
・ワクチンの3回目接種について
「更なる接種の加速化に向けてしっかり努力をしていきたいと思っています」
(他の記者からの再度の質問)
「是非希望する入所者の方等への接種はしっかり進めていくべく全力で取り組んでいきたいと考えております」
「安全性、さらに有効性についてしっかり説明しなければいけないということで、SNSももちろんですし、様々なメディアを通じてその有効性、あるいは安全性についてしっかり説明をさせていただいている」
・水際対策について
「検疫体制等をしっかりにらみながら、この数字につきましてもどうあるべきなのか、しっかり検討は続けていきたい」
・最悪の事態を想定しての対策について
「昨年の夏の状況をしっかり振り返って、十分な医療提供体制をしっかり用意」「一つ一つももちろん大事でありますが、こうした「全体像」をしっかり用意することによって」「この「全体像」をしっかりと説明することによって、国民の皆さんに少しでも安心を感じていただけるように、努力を続けていくことが大事であると思います」
・原油高はじめ物価高が国民に与える影響について
「大きな問題意識をしっかりと持ちながら、今後これに何を加えるべきなのか、何を改良すべきなのか、これはしっかり議論を続けていきたいと思います。具体的な状況をしっかり見つめながら、具体的な対策、用意してまいります」
・米軍基地のコロナ感染状況/ゲノム解析について
「日米でしっかり協議して」「医療提供体制をしっかり充実させること、これが地元、県民の皆さんの命や健康を守る上で重要であるという観点から、そちらの充実にまずはしっかりと努めていかなければならないと思っています」
折しも、今朝の朝日新聞で、プチ鹿島が、衆院予算委員会の首相答弁を分析していた(「首相は<後回しの人> 野党はどんどん突っ込んで」『朝日新聞』2022年2月19日)。首相が答弁でよく使うのが「認識しております」「謙虚に受け止めます」「引き続き考えていきたい」だという。一見「聞く力」を発揮しているようだが、ただ受け止めているだけで、「後回し」にしているに過ぎない、と厳しい。鹿島は「時事芸人」と自称しているそうだが、新聞14紙を読み込んでいるとかで、報道番組の並のコメンテイターよりよほど見識があるかもしれない。かつて、レギュラーで出演していたテレビ番組があったのだが、いまは、文春オンラインでの連載が面白い。
17日の記者会見でも、上記のゴシックの「しっかり」とセットでも見られる「努力」「全力」の文言も、ほかの何か所かにも登場する。「後回し」というのか、ただの「言うだけ努力」の人ではないのか。記者たちの質問ももちろんだが、予算委員会の野党の質問すら「受け止め」や「見通し」を尋ねることが大半だから、「しっかりと努めます」の答弁で流されてしまうのだ。 現場の実態、データやファクトに基づいて、政府の不備を質す具体的な対案の実現を迫る質問を展開してほしい。しっかりしてほしいのは、記者や野党の方もなのである。
初出:「内野光子のブログ」2022.2.19より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11776:220221〕
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