皇室のリスク管理―その2 悠仁親王の高校進学問題
- 2022年 3月 16日
- 評論・紹介・意見
- 小川 洋皇室
秋篠宮家の悠仁親王(以下、親王)の高校進学が議論を呼んでいる。昨年暮れから週刊誌が、親王はお茶の水女子大付属中から、試行的な「提携校進学制度」によって筑波大付属高校(以下、筑付)に進学するのでは、という報道を繰り返した。その論調は、極めて優秀な生徒にのみ入学が許される高校に不公正な方法で入ろうとしているのでは、というニュアンスだった。宮内庁は「思春期の子の進路について憶測に基づく報道は控えてほしい」と、メディアに釘を刺す文書を出すに至った。
批判的な声を気にしたのか、親王は一般入試の当日に登校して他の一般受験生とともに学科試験を受けた。会場前にはなぜか報道陣が待ち構え、その姿はTVにも流され、親王は一般入試による入学を目指しているのか、との観測も流れた。しかし数日後の合格発表の日、宮内庁は親王が提携校制度を利用して合格したと説明したのである。さらに一部では、筑付卒業後、やはり推薦制を利用して東京大学に進学する考えではとも観測されている(後注参照)。皇族といえども教育機会は開かれているべきだし、学問の自由も保障されるべきである。しかし今回の親王の進学に関しては、釈然としないものを感じている国民も少なくないようだ。その理由について多少の考察を加えたい。
国立大学付属学校とは何か
教育学部をもつ全ての国立大学に付属小中学校がある。教育実習の場であり、研究の場でもある。東大付属小中学校が双子や三つ子を多く受け入れ、研究データを得ていることは知られている。しかし高校は少なく、現在は以下の17校である。筑附、筑附駒場、筑附坂戸、東京学芸大、東京芸大、東工大科学技術、お茶の水女子大、愛知教育大、名古屋大、金沢大、京都教育大、大阪教育大、大阪教育大池田、大阪教育大平野、広島大、広島大福山、愛媛大である。
2,3の例外を除き、それぞれの地域で突出したエリート校となっている。しかし小中学校と異なり、これらの高校を存続させる理由は乏しく廃校にすべしという議論は以前からあった。また2004年の国立大学法人化以降、国立大学への政府予算は減額され、どの大学も財政難になっている。付属学校の運営費も厳しくなっているはずで、ほぼ例外なく校舎・施設の老朽化が進んでいる。
悠仁親王の進学をめぐる疑念
筑付への親王の進学を巡ってはいくつかの疑問が呈されているが、次の二点に絞られよう。第一に、老朽化が目立っていた校舎の本格的な改修工事が、親王の進学に合わせるように進められたことである。数年前から、なぜか寄付金が大幅に増え、改修工事費用が捻出できたらしい。宮家が表面に出ない方法で寄付金を提供しつつ、親王の受け入れを内々に求めたのではないかという疑いである。
第二に、提携校制度で進学するには成績優秀であることが条件であるが、親王は本当に優秀なのかという疑問である。合格発表に合わせたように、作文コンクールに入賞した親王の中学校時代の作品に何行にもわたって書籍から無断借用した箇所があると報じられた。作文は選考資料のひとつとして高校側にも提出されたはずであり、親王の提携校制度を利用する資格に疑問符を付ける形になった。
皇族と学歴
近代化の後発国であった日本では、学校教育は出自に関係なく社会的上昇=立身出世につながるルートとして発達してきた。多分に建前ではあったが、皇族と華族の一握りの特権階級を除き、学歴追求は全ての国民に階層移動の手段として平等に開かれていた。そこでは公平で公正な選抜が前提となる。日本の高校や大学の選抜では、評価に主観が入る余地のある面接や論文などの試験を避け、おもに知識量や認知能力を図る客観式テストが中心であったのは、そのためであり、それは現在も同様である。
その学校体系の頂点に置かれたのが東京帝大を初めとする帝国大学であり、学歴競争の最終勝者である卒業生たちは高級官僚に任用された。彼らは特権的身分には違いないが、形式的には、憲法上の主権者である天皇の使用人であった。したがって一部の宮家出身者が帝国大学に進学する例はあったが、将来の天皇や皇族がそのような学歴競争に参加することは想定されていなかった。
今回の問題は当事者の真意はともかく、親王が学歴競争に不公正な手段を用いて加わっている、と見なされる事態が生まれていることだ。宮内庁や秋篠宮家にはリスク管理が必要となっているのだが、まったく対応できていない。皇族の一部や宮内庁が、将来の天皇となる方は、いわゆる難関校、難関大学を卒業することによって国民からの尊崇の念を得られるとでも考えているとすれば、甚だしい思い違いと言わざるをえない。皇室には世俗的価値を超越した存在であることが求められているからだ。
スェーデン王室の例
スウェーデン王室に参考になる事例がある。次代女王となるヴィクトリア王女の配偶者ダニエル王子は庶民の出である。スポーツジムの経営者として成功していたが、王女が拒食症を患った時にパーソナル・トレーナーとしてケアしたことから交際が始まった。王女が親(王)に交際の許可を求めた際には、王は半年間ほど口も利かないほど立腹したという。国民の多くも、体育大卒の人物が女王の夫になることに否定的だった。
ダニエル氏は王室に相応しい人物になるべく厳しい努力が求められた。話し方のマナー・食事マナーなど洗練された立ち居振る舞い、服飾センス、複数言語の語学力、歴史や国際社会についての広汎な知識、芸術の鑑賞眼、王室の公務などである。7年間の努力の後、2010年、二人は結婚に漕ぎつけ、ダニエル氏も王族の一員として国民から好感を得ている。ここには、現代社会で王室や皇室が果たすべき役割のヒントが示されているだろう。
(後注)東大も2016年から推薦入試を導入している(現在の名称は「学校推薦型選抜」)。しかし筑付進学と決定的に異なるのは、東大では志願者に対して大学進学共通テスト(旧・入試センター試験)を一般入試と同様に課し、得点も同じレベルを要求している。つまり、この推薦入試は、高校在学中に数学オリンピック国際大会で入賞するというレベルの実績があり、かつ一般入試でも合格するだけの学力がある応募者に、二次試験を免除して入学を許可する制度である。
万が一にも、親王が高校進学時と同じように、高校在学中になんらかの実績をあげ、その内容が中学の作文と同じように疑問を持たれるものであったり、共通テストの成績に疑問を持たれたりしながら、東大への入学を認められるようなことがあれば、高校進学時とは比較にならないほど激しい反発を受けることになるだろう。
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