青山森人の東チモールだより…大統領選挙は決選投票へ
- 2022年 3月 27日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
大統領選挙の投票結果
3月16日に大統領選挙運動が終わり、頭を冷やす二日のあいだ、各候補が設置した選挙用の大看板や横断幕が撤去されました。そして3月19日の投票日を迎え、そして結果が出ました。控訴裁判所がその結果にお墨付きを与えるまでは法的な意味で正式とはいえませんが(控訴裁判所が結果にお墨付きを与えるのは4月1日)、上位二名の候補者であるジョゼ=ラモス=オルタ候補とルオロ候補が決選投票に駒を進めることになるでしょう。
「投票所」とポルトガル語で記されている。
投票所となったベコラ小学校にて。人はまばらであった。
2022年3月19日、ⒸAoyama Morito.
立候補者の順位と投票数と得票率を以下に示します。丸数字は立候補者番号です。なお、立候補者の名前は通称名を使用します。
1.⑭ジョゼ=ラモス=オルタ、 30万1481票、46.58%.
2.⑥フランシスコ=グテレス=ルオロ、 14万3408票、22.16%.
3.⑨アルマンダ=ベルタ=ドス=サントス、 5万6289票、8.70%.
4.⑧レレ=アナン=チムール、 4万8959票、7.57%.
5.⑯マリアノ=アサナミ=サビノ=ロペス、 4万7008票、7.26%.
6.⑤アナクレト=ベント=フェレイラ、 1万3059票、2.02%.
7.⑬マルチーニョ=グズマン、 8485票、1.31%.
8.②エルメス=ダ=ロザ=コレイア=バロス、 7958票、1.23%.
9.⑦ミレーナ=ピレス、 5335票、0.82%.
10.①イザベル=フェレイラ、 4165票、0.64%.
11.⑮フェリスベルト=アラウジョ=ドゥアルテ、 2615票、0.40%.
12.⑪コンスタンシオ=ピント、 2474票、0.38%.
13.④ロジェリオ=ロバト、 2028票、0.31%.
14.⑫ビルジリオ=ダ=シルバ=グテレス、 1685票、0.26%.
15.⑩アンテロ=ベンディト=ダ=シルバ、 1531票、0.24%.
16.③アンジェラ=フレイタス、 691票、0.11%.
(註)立候補者番号⑤の名前を「フェレイラ」、また立候補者番号⑩の名前を「ベンディト」と書くべきところを、前号の「東チモールだより」で「ペレイラ」そして「ベネディト」とそれぞれ書いてしまった。お詫びして訂正する。
有権者は85万9613人
遅ればせながらここで有権者数を見ておきます。東チモールでは17歳になれば投票権が得られます。今回の有権者総数は85万9613人(女:41万3899人、男:44万5714人)、国内の有権者は85万2500人(女:41万1808人、男:44万692人)、国外の有権者が7113人(女:2091人、男:5022人)です。
国外有権者の内訳は、オーストラリアに1487人(女:707人、男:780人)、韓国に1277人(女:54人、男:1223人)、ポルトガルに856人(女:399人、男:457人)、[イギリス]グレートブリテンに2229人(女:566人、男:1663人)そして[イギリス]北アイルランドに1264人(女:365人、男:899人)です。
独立(独立回復)後の大統領選挙の有権者数を振り返ってみると、2007年は52万2933人、2012年は62万6503人、2017年が74万3150人でした。2012年から2017年、そして2017年から2022年までのそれぞれの五年間で11~12万人の増加がみられました。次回2027年の大統領選挙では100万人に迫る有権者数になるかもしれません。
投票率は77.26%
今回の大統領選挙のために登録して投票権を得た17歳以上の東チモール人有権者85万9613人のうち投票したのは66万4106人です。したがって投票率は77.26%となります。
投じられた票のうち有効票数は64万7172票、有効にならなかった票(無効票・白票・棄権票など)が1万6934票です。
独立(独立回復)後の大統領選挙の投票率(一回目の投票)を振り返ってみると、2007年は81.69%、2012年は78.20%、2017年が71.16%となっており、過去最低を記録した前回の投票率から比べると大幅に上昇したといえますが、過去二番目の低率ということもできます。
投票所で投票できなかった人たち
投票率が過去二番目の低率という観点で選挙管理委員会の責任が指摘されています。3月19日の投票日、首都デリ(ディリ、Dili)に設けられたパラレル投票所(ポルトガル語表記centro de votação paralelo、テトゥン語表記sentru votasaun paralelu)において、有権者の名前が有権者名簿に載っていないために投票できない、投票する権利を失った、などと怒りと失望の抗議の声があがったのです。
「パラレル」とはこの場合、「平行」という意味ではなく「類似」という意味です。つまり「パラレル投票所」とは同じような機能を果たす投票所という意味で、有権者が本来ならば赴かなければならない投票所と同じ機能を果たすという意味です。端的にいえば、地方で登録した有権者はその地方に戻らなくても首都のパラレル投票所で投票できるということです。
東チモールでは大勢の地方住民が首都にやってきて暮しています。とくに若者・学生たちがそうです。地方で有権者登録をして地方住民のまま首都の親戚の家に住んでいる大勢の若者たちが、投票するために地方に戻るとなるとちょっとした民族の大移動となりかねません。若者たちには交通費など大きな負担がかかります。したがって地方に戻らなくても首都のパラレル投票所で投票できるというのは便利な仕組みです。
ところがこの便利な仕組みは投票前から懸念されていました。3月18日、無所属の立候補者7名が連名で、パラレル投票所の有権者名簿に名前がない有権者がいるという情報が寄せられているとして懸念を表明し、選挙管理員会に有権者名簿の更新を求めました。この懸念にかんして選挙管理委員会は有権者登録作業はもう終了したと取り合いませんでした。
かくして3月19日・投票日、パラレル投票所では投票をするために来た有権者たちのなかで、有権者名簿に名前がないので投票できないといわれた人たちが実際にでました。ニュースをみると十数名のこの人たちは身分証明書(「選挙カード」とも記されている)を振りかざして怒りと失望の抗議の声があげ、ちょっとした騒ぎになりました。ニュースのなかで、パラレル投票所を利用するための手続きをしなければならないなんて知らなかったと抗議する人もいれば、手続きをしたのに有権者名簿に名前がないと訴える人もいました。
パラレル投票所で投票するには、いま住んでいる首都の町の役所で手続きをしなければなりません。手続きにかんする広報活動が不十分だったという点で、そして手続きをしたにもかかわらず有権者名簿に名前がないという不手際で、選挙管理委員会が批判にさらされています。もし本当に選挙管理委員会の不手際で投票権を行使したくてもできなかった人がいたとしたら、これは大問題です。
パラレル投票所ではない投票所は整然と列をなし静かであった。
クルフン地区の投票所にて。
2022年3月19日、ⒸAoyama Morito.
投票時間が終わり衆人環視のもと票読み作業がされる。
ベコラ警察署のすぐ近くの投票所にて。
2022年3月19日、ⒸAoyama Morito.
決選投票前後の攻防と策略
決着はまだついていないとはいえ、一回目の投票結果を見る限りでは、ラモス=オルタを大統領に就かせて権力を再奪取しようとするシャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首の影響力がいまだ大健全!マリ=アルカテリが退く日が近いといわれることで醸し出すフレテリン(東チモール独立革命戦線)への期待感に勝ったということができましょう。
ラモス=オルタ候補はルオロ候補の二倍以上の票を得ました。過去の決選投票では、いずれも2位の候補者が1位のルオロ候補を上回って勝利しました。今回2位となったルオロ候補は、これまでの決選投票の歴史にあやかって1位の候補者を上回ることができるでしょうか。今回の場合、1位のラモス=オルタ候補は過半数に達するにはあと僅かに4%の上乗せをするだけでよいのです。例えば5位のアサナミ民主党党首の7%が加わればそれで勝負あり。2位となったルオロ候補が逆転するのは難しいとおもわれます。
決選投票に駒を進めた両陣営は現在、3位以下となった各候補者陣営から投票をもらおうと”多数派工作”をしていますが、ラモス=オルタ候補への支援を表明する陣営がニュースでよく報じられているその感じからしてラモス=オルタ候補の勝利は固い印象がします。しかし勝負はやってみないとわかりません。
3位のアルマンダ=ベルタKHUNTO(チモール国民統一強化)党首の票が与党仲間としてフレテリンのルオロ候補に流れ、4位のレレ=アナン=チムール将軍がフレテリン書記長のマリ=アルカテリが嫌いだとしても(3月21日、レレ将軍はタウル首相の訪問をうけたが、マリ=アルカテリの訪問はうけつけなかった)やはりフレテリンに忠誠心を示し、さらに民主党党首のアサナミ候補が国会解散を明言していることでラモス=オルタ候補への支援を躊躇すれば、案外、接戦になるかもしれません。
しかし現実はすでに決選投票後の政局を巡って諸政党は水面下で動いているようです。ラモス=オルタが大統領になっても、シャナナ=グズマンは大統領に国会を解散させないで、大統領が各政党との話し合いの結果をうけて新しい連立政権を樹立させようとしているのではないかという見方があるからです。
ラモス=オルタ候補は3月20日、支援者たちへ感謝の言葉を述べる記者会見を開きました。そのなかでラモス=オルタ候補は、もし大統領に選出されたら各政党や各指導者たちと対話をすると述べ、憲法違反をした大統領によって成立した政府を倒すため国会を解散するんだ!という選挙運動中の語調が変化しました。ラモス=オルタが大統領になっても国会解散はないかもしれないという見方がでても不思議ではありません。シャナナとしては権力を掌握すればよいのですから。
権力争奪戦を展開するのは政治家たちの務めでしょうが、指導者として国民の生活を守る義務を背負っていることを忘れないでほしいものです。
決選投票の選挙運動期間は4月2日~16日、投票日は4月19日、新大統領の就任式は独立(独立回復)20周年記念日にあたる5月20日です。
青山森人の東チモールだより 第455号(2022年03月26日)より
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11891:220327〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。