【ご一読を】経済安保推進法案を懸念する声明&井原聰さんの陳述要旨
- 2022年 4月 3日
- 評論・紹介・意見
- 杉原浩司武器取引反対ネットワーク:NAJAT
https://kosugihara.exblog.jp/241410464/
経済の軍事化、学術の軍事化、企業秘密漏洩への厳罰化など問題だらけの「経
済安保法案」は、衆議院内閣委員会で審議が進み、3月31日に参考人質疑が行
われました。唯一反対の立場を示された井原聰さん(東北大学名誉教授)の陳
述要旨を後半に掲載しましたので、ぜひご一読ください。
質疑後、市民や自治体議員の有志が立ち上げた「経済安保法案を懸念するキャ
ンペーン」で立憲民主党の関係議員の事務所を訪れ、声明を提出しました。
こちらもぜひお読みください。
法案は4月6日の委員会採決が合意されてしまいました。立憲民主党は修正案を
提出しますが、それが否決された場合の対応は小川淳也政調会長に一任されて
います。危険な政府案に賛成することのないように働きかける必要があります。
経済安保法案、6日に採決へ 衆院内閣委、与野党合意(4月1日、毎日)
https://mainichi.jp/articles/20220401/k00/00m/010/133000c
立民、経済安保で修正案(4月1日、時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022040101206&g=pol
※なお、法案から第九十条が削除されたことが判明しました。重大な後退です。
「第九十条 この法律の施行にあたっては、我が国が締結した条約その他の国
際約束の誠実な履行を妨げることがないよう留意しなければならない」
この部分は参考人質疑で井原聰さんが指摘されたユネスコの「科学及び科学
研究者に関する勧告」(2017年11月13日 第39回ユネスコ総会採択)との関係
で意図的に削除したのではないかと考えられます。許しがたいことです。
【ウェブセミナー】
4/4「青木理が斬る 経済安保法案の深層~町工場対公安警察」
https://kosugihara.exblog.jp/241403098/
<YouTube> https://youtu.be/0sL0dMvNtYY
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◆経済を軍事化し、企業秘密漏洩を厳罰化する経済安保推進法案を懸念する声明
https://kosugihara.exblog.jp/241408233/
1 法案の内容
本年2月25日、経済安保法案が閣議決定され、国会に提案された。法案は、
①特定重要物資の安定的な供給(サプライチェーン)の強化、②外部からの攻
撃に備えた基幹インフラ役務の重要設備の導入・維持管理等の委託の事前審査、
③先端的な特定重要技術の研究開発の官民協力、④原子力や高度な武器に関す
る技術の特許出願非公開の4本柱で構成される。
この法案は、国家安全保障を名目として、多くの事項を政省令などに委任し
ているため、規制内容そのものが明確でない。そのため、企業活動と学術研究
の自由を制約し、市民監視の強化につながるものだ。
2 法案の問題点を先取りした大川原化工機事件
国家安全保障局(NSS)が、2020年4月に「経済班」を組織し、経済安保法案
の危険性を先取りしたような刑事事件がすでに発生している。「大川原化工機」
事件である。乾燥機の中国・韓国への輸出が生物兵器に転用可能な機器を不正
に輸出したとして、同社社長ら3名が逮捕され、1年近くも勾留され、第1回公
判前に検察官が起訴を取り消すという異例の事態となった。2022年3月号の
『世界』に掲載された青木理氏の「町工場VS公安警察」には、警察の思惑によ
って、経済産業省も軍事転用可能とは考えていなかった技術が、公安警察の見
込み捜査によって不正輸出にでっち上げられていった過程が克明にまとめられ
ている。
3 企業活動が軍事に従属し、企業秘密が拡大し、秘密漏洩が厳罰化される
法案の問題点の第一は、経済安保法案によって企業活動が軍事に従属し、企
業の活力をそぎ落としてしまう危険性があることである。経済安保法案は、
「国家」(第1条等22ヶ所)を前面に押し立て、官民の関係を対等な関係から
主従関係へ移行させるものであり、企業の活力をそぎ落とし、経済の発展その
ものを大きく阻害する危険性がある。
第二の問題点は、企業秘密の範囲が不当に拡大されることである。前記の4
本柱のうち、①、③及び④については、民間人に対しても、「事務に関して知
り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない」として、罰則付きで守秘義務
を課すものとなっている。
しかし、この「秘密」は、特定秘密保護法の「特定秘密」に限定されるもの
ではなく、本来は経済活動の自由に属する「特定重要物資」、「特定重要技術」、
「特許出願情報」を保有する者を対象として「事務に関して知り得た秘密」と
だけ規定されるのみで、「秘密」の範囲が不当に拡大されるおそれがある。し
かも、国会に設けられた情報監視審査会の監視対象にすらならず、秘密の範囲
の拡大を防止する歯止めがない。
第三の問題点は、秘密漏洩・盗用に係る処罰条項によって、特定重要物資の
安定的な供給の強化については、取扱業者に対して、生産、輸入、保管状況等
について国が調査する権限を持つとされるため、企業活動に対する過度な介入
・統制を招きかねない。既に大川原化工機事件で明らかになっているように、
経済活動の自由(憲法22条1項)等が著しく制約されるおそれがある。
先端的な特定重要技術の研究開発の官民協力については、基本指針に基づき、
「特定重要技術」の研究開発等に対し政府が支援を行い、官民パートナーシッ
プと称する「協議会」によって、軍事技術につながる特定重要技術の研究開発
を政府が一元的に管理・統制するシステムとなるおそれがあり、憲法9条に抵
触し、科学技術研究の自由を侵害し、憲法23条にすら違反する可能性がある。
原子力や高度な武器に関する技術の特許出願非公開については、政令で定め
られる技術分野(核技術、先進武器技術等)に属する発明が記載されている特
許出願について、出願公開等の手続を留保し、必要な情報保全措置を講じた技
術や情報の流出を防止しようとするものであり、規制の対象は政令に白紙委任
されている。広範な規制となるおそれがあり、研究者の学術研究の自由や特許
権が侵害される可能性がある。
4 結論
我々は、国家安全保障を名目として「秘密」の範囲を無限定に広げる経済安
保法案について、企業活動の自由、学術研究の自由等を侵害するおそれが強い
ことを強く懸念し、その慎重審議のうえ、抜本的に見直すよう求める。
2022年3月31日 経済安保法案を懸念するキャンペーン
[連絡先]
090-6185-4407(杉原)
03-3341-3133(東京共同法律事務所・海渡)
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◆3月31日の参考人質疑での井原聰さんの陳述 (要旨:文責 杉原)
法案の具体的内容は政省令、業法等で示され、国会での議論に内容がない。
民主的手続きの面から工夫をしてほしい。
特定重要物資の安定供給などで「有事に備えよ」とされているが、有事とは
何かが語られず、国家安全保障戦略等との関わりも分からないまま議論が進ん
でいることに不安を感じる。
DARPA(米国防高等研究計画局)に似せた組織までつくろうという議論が進
んでいる。米国の経済安全保障の肝は防衛問題だが、防衛上、軍事上の優位性、
不可欠性をどう強化するのかは法案から読み取れない。
法案は特定重要技術の研究開発のために総理や関係大臣まで加わる大げさな
「協議会」を組織するとされているが、なぜ必要か不明だ。また、防衛省が伴
走支援すれば、防衛研究・軍事研究推進にならないか。現在進行中の安全保障
技術研究推進制度で「軍事研究ではない」と説明してきたことを撤回しなけれ
ばならないのではないか。
協議会メンバーには守秘義務と罰則を課しているが、協議会からの離脱が自
由なのか否かも大きな問題になる。ユネスコの「科学及び科学研究者に関する
勧告」は、良心に基づき身を引く権利や、自由な意見表明を行う権利と責任を
有するとしている。しかし、罰則によりこうした権利を放棄しなければならな
くなる。
野依良治さんが委員長を務めた建議文書は、「学術研究に従事する者が、自
らの内在的動機に基づき行う研究は尊重されるべきであり、これにより全体と
しての研究の多様性が確保される」と提起している。研究の多様性こそ研究力
の基盤だ。伴走支援して社会実装を迫る研究の進め方は若者を窒息させるもの
であり、戒められるべきだ。
国大協の調査によれば、国立大学の40歳未満の若手研究者の60%がパートタ
イマーだ。常勤の若手研究者の母数を増やすことが喫緊の課題だ。
法案が位置づけるシンクタンクによる「調査研究」が、AI(人工知能)で監
視するようなものなら、研究者が国家により監視されかねない。
特許制度は、単に知財の問題ではなく、学術研究体制や産業や文化の一部だ。
秘密保全の指定について事前審査を行うのだろうが、それを忌避できる環境が
つくられるのか、「特定重要技術」が軍民両用の場合、その特許が保全指定さ
れ産業化できない不利益を十全に補償されるのか、損失額の査定を支払う側の
国が行うことで公正さが保たれるのか、大きな問題が含まれている。
公開を原則とする特許制度に軍事機密を持ち込むことが矛盾だ。
大学発ベンチャービジネスがたくさん生まれ始め、特に宇宙、海洋、量子、
電磁気、サイバー、センサー分野の先端分野での活動が盛んだが、秘密特許や
特定重要技術としての囲い込みが、この分野の成長を鈍化させることを危惧す
る。
以上、多くの問題を「特定重要技術」と秘密特許の問題に見出すことができ
る。抜本的な見直しを求める。
さらに詳しく↓
◆参考人質疑での井原聰さんの意見書全文
<軍学共同反対連絡会ニュースレター65号 P2~6>
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11912:220403〕
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