侵略2か月、ロシアの民衆はプーチンの戦争を支持し続けるだろうか。
- 2022年 4月 25日
- 評論・紹介・意見
- ロシア戦争と平和澤藤統一郎
(2022年4月24日)
本日でロシアのウクライナ侵略開始から2か月となった。この2か月間、戦争というものの悲惨さ、愚かさを噛みしめ続けてきた。いま、停戦への光明はまったく見えていない。この理不尽は、いったいいつまで続くのだろうか。
憎しみ合い、殺し合い、奪い合い、破壊し合い、欺し合い、環境を汚染するのが戦争である。どうしてこんなことが起きるのか。どうしたら、この不幸の源を世界から駆逐することができるのだろうか。
この戦争は明らかにロシアの側から仕掛けられたものである。軍事大国ロシアの大義のない隣国への侵略戦争。ロシア国内の開戦批判世論が、侵略に踏み切った政権を揺さぶることになるだろう、私は期待も込めて当初はそう考えた。
ところが、これまでのところそうなっていない。ロシア国民の政権支持率は、開戦後大きく上昇したという。政府系の世論調査機関の調査だけでなく、独立系の世論調査機関レバダ・センターの調査結果も、3月の支持率は83%を記録し、2月の71%から12ポイントも上昇したという。
そもそも戦争とはナショナリズムを高揚させ、政権の求心力を高めるものだからなのか。あるいはプーチン政権が国内向けプロバガンダに成功しているということなのだろうか。
だが、大局を眺めればロシアの軍事的な思惑は大きく挫折している。当初はウクライナの首都占領を目指した進軍は思わぬ反撃を受けて撤退を余儀なくされ、兵力を東部への侵攻に集中させてはいるが作戦の進展は思うとおりにはなっていない。制空権を掌握できないことは、侵攻当初から指摘されてきた。黒海艦隊の旗艦『モスクワ』の沈没もあり、兵の士気は低いと報じられてもいる。さらには国際世論の厳しい批判は身にこたえているに違いなく、国際的な経済制裁もこれから効果を発揮してくるだろう。軍事費浪費の負担に財政がどこまでもつのかという問題もある。
そんな状況で迎えた開戦2か月目の報道の中に、「侵攻継続以外の選択肢なし=支持率の低下懸念―プーチン政権」という〈リビウ発時事配信〉記事に目がとまった。
ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」が22日、ロシア大統領府に近い複数の関係者の話として報じたところによると、政権内では数週間前から戦闘終結に関するシナリオが検討され始めた。しかし、プーチン氏の支持率低下を避ける「出口戦略」を見いだせず、停戦交渉のための世論づくりを放棄し「すべて成り行きに任せる」ことになった、という。
この報道だけではその真偽を判断しがたいが、こうした方針に至ったことについて、以下のようにプーチン政権の判断理由が述べられている。一言で言えば、ロシアの中産階級の間では侵攻を支持する割合が高く、中途半端な形での幕引きで不満が高まることを警戒したからだというのだ。
「メドゥーザが引用した、13~16日にモスクワ市民1000人を対象に行われた世論調査結果によると、「実質的に何でも買える」収入を得ている層では、「軍事作戦の継続に賛成」が62%で、「停戦交渉に賛成」の29%を大きく上回った。収入的にその一つ下の層でも、作戦継続賛成が54%で、交渉支持は37%。これが「食費も十分でない」層になると、停戦派が53%と作戦継続派(40%)を上回った。
社会学者グリゴリー・ユジン氏はメドゥーザに対し、「ロシアの中産階級のかなりの部分が治安・国防関係者と中堅の官吏」であり、「政権の直接的な受益者」だと分析。大統領府に近い関係者も、米欧が厳しい経済制裁を科し、食品を中心に国内の物価が上昇する中でも、こうした層はそこまで影響を受けていないと指摘した。」
つまり、戦争継続には低所得層の賛意が得られないのだが、停戦には高所得層の反発が強く、停戦に踏み切る決断はしがたいというのだ。しかし、このままでは、確実に国民生活への戦争の影響は深刻化することにならざるをえない。戦争継続反対の世論が、政権批判の世論となって、停戦せざるを得なくなるに違いない。私は、再び期待を込めて、そう思い始めている。プーチン政権の国民的な支持基盤は、けっして盤石ではなさそうなのだ。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.4.24より許可を得て転載 http://article9.jp/wordpress/?p=19023
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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