ヒトラー・ムソリーニ、そしてヒロヒト。その評価が社会の深層を映し出している。
- 2022年 4月 26日
- 評論・紹介・意見
- ロシア戦争と平和歴史認識澤藤統一郎
(2022年4月25日)
似合いというものがある。あるいは釣り合いというべきか。鶴には亀、梅に鶯、富士には月見草。翁には嫗、ロミオにはジュリエット、そして、ヒトラーにはヒロヒトである。ウクライナ政府の公式ツイッター上の動画で、せっかくヒトラー・ムソリーニと並べられていた昭和天皇(裕仁)の顔写真が、自民党経由の外務省の要請で削除されたという。おやおや、なんという不粋な。お似合いの仲を裂かれて、ヒトラーもヒロヒトも、泉下でさぞ無念の思いではなかろうか。
ウクライナ政府が、「ファシズムとナチズムは1945年に敗北した」という字幕と共にこの3名の顔写真の動画を掲載したのは、4月1日のことだという。もちろん、プーチン並みの戦争犯罪者としての非難の意を込めてのことである。
戦前の日・独・伊枢軸3国が侵略国家であり、反人権・反民主主義の全体主義だったことも、その各国の象徴たる人物がヒトラー、ムソリーニ、そして紛れもなくヒロヒトであったことも、世界に共通の常識である。その全体主義好戦国家の敗北は世界的に見れば慶事であった。このキャプションも、プーチン非難にピッタリのお似合い3人組写真掲載も、怒る筋合いはなく、謝るべきことでもない。
但し、ウクライナ政府には、ちょっとした誤解があったようだ。ドイツやイタリアと同様に、日本も全体主義の過去を清算した民主主義社会になっていると思い込んでいたのではないか。実はそうではなかったことに今ごろ気が付いて、愕然としているのだろうと思う。え~、日本ってまだ戦前と同じなのか?。
もしかしたら、ウクライナ政府の実務担当者は、ヒロヒトが戦後も天皇として生き延びたことを知らなかったのではないか。また、戦前は神であった天皇が戦後公式には人間となったが、洗脳から逃れられない多くの民衆からいまだに神同然の信仰対象となっていることも。戦前は臣民であった国民が戦後公式には主権者となったが、実は多くの民衆がいまだに臣民根性そのままであることも。さらには、枢軸時代の国旗や国歌だった「日の丸・君が代」を、日本だけが旧態依然として後生大事に護持していることなども。
ヒトラー・ムソリーニの思想を清算し克服してきた今のドイツやイタリアは、ヒトラーを批判してもムソリーニを非難しても、なんの問題も起こらない。両国ともに、世界の常識が通じる国になっているからである。ところが、日本はそうなっていない。天皇をヒトラーと並べれば、キリスト教徒がイエス・キリストを侮蔑されたごとくに、イスラム教徒がマホメットを誹謗されたごとくに、ヒステリックに喚くのだ。神聖な天皇教の教祖を、戦争犯罪人として扱ったなどとして。ヒロヒトの評価によって、日本社会の深層が炙り出される。
このヒステリックな抗議を受けて、ウクライナ政府は昨日、ツイッターに投稿した動画から昭和天皇裕仁の顔写真を削除し、謝罪した。やれやれというところだが、謝罪の言葉は難しい。ウクライナは世界の常識に従っただけ、なにも間違っていないからだ。「誤りを犯したことを心からおわびします。友好的な日本の方々を怒らせるつもりはありませんでした」とだけ述べたという。これが精一杯だろう。「怒らせるつもりはありませんでした」のあとに、「どうして皆さんが怒るのか、理解も納得もできてませんけれど…」という余韻が残る。
ナザレンコ・アンドリーという在日のウクライナ人の幾つかのツィッターが目にとまつた。4月24日付の以下のものが、その典型。正常な神経ではない。
「ウクライナ公式垢(ママ)は、本当に言葉が出ない程失礼なことをやらかした。「日本の教科書だって同じ歴史観」では済まされない。必ず責任者を特定して、直接抗議し、正しい歴史認識を教える。一般的なウクライナ人との感覚はズレがひどすごる。二度と広報に関わるべきではない。売国奴レベル。」
「正しい歴史認識」「売国奴」という言葉づかいは右翼のもの。右翼を代表するこの人物に聞いてみたい。「正しい歴史認識を教える」っていったい何を教えようというのか。まさか、昭和天皇(裕仁)に近隣諸国への侵略の意図も責任もないということではあるまい。それは、「正しい歴史認識」ではなく、「歴史修正主義」というのだから。
それ以外にも、幾つかのツィッターにお目にかかった。
ふざけるのもいい加減にしろ。ヒトラーと一緒にするな!
昭和天皇とアドルフ・ヒトラーを一緒にするな。日本にとってひどい侮辱だ。
(この種のツィートが少なくない。これは、深刻な社会心理学的研究テーマであろう)
金輪際ウクライナは応援しない!
支援を即、止めろ。そして支援した金も全て返してもらえ。
ウクライナを支援する気持ちがまったく失せた。謝罪がなければ、応援しない。
(結局は、ウクライナに対する日本の支援は反ロシアの感情だけからのもので、侵略戦争の被害救援という動機ではないようなのだ)
ゼレンスキーのパールハーバー演説で怒りの声をあげないからこうなるんだよ!
ゼレンスキーのパールハーバー発言を許すからこういうことになる!
(結局、ナショナリズムの呪縛から逃れられず、好戦的日本についての反省のない人々の妄言なのだ)
改めて思う。全ては、戦前の天皇制プロバガンダによるマインドコントロールを脱し切れていないことからの椿事なのだ。天皇制恐るべし、である。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.4.25より許可を得て転載 http://article9.jp/wordpress/?p=19029
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11978:220426〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。