青山森人の東チモールだより…「5月20日」前の駆け込み法案
- 2022年 5月 19日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
「5月20日」前の祝賀ムード
2~3日前の夕方、軽く雨が降りましたが、シャ~ッと音を立てる細い雨は、雨季の〝ゴツゴツ〟した雨とは明らかに違う雨でした。
インターネットでオーストラリア大陸上空の衛星写真を見ると、東チモールとオーストラリアとの間にあるチモール海には白い雲がかかっていないことがはっきりわかります。雨季にはチモール海は白い雲でまず覆われ、そしてその雲がチモール島に移動して雨を降らせるのです。曇の白さの濃淡で雨の強度が予測できます。濃い場合は大雨となります。
さて、20年目の「5月20日」が近づいてきました。路上で賑やかに売られる国旗が店や民家などにたてられるようになり、「5月20日」が間近であることを感じさせます。去年・一昨年と新型コロナウィルスの感染拡大という災禍のもと縮小せざるを得なかった独立(独立回復)記念行事ですが、今年は違います。海外から来賓客を招いて行なわれる大統領の就任式があり、非常事態宣言もロックダウンもない、そして各地で行われる祝賀行事も盛り上がるであろう、開かれた「5月20日」となることでしょう。
政府庁舎前の広場で風にはためく国旗。
風があるので陽射しは強いが湿気がそれほどでもなく、心地好い。
2022年5月12日、ⒸAoyama Morito.
ベコラの役所の塀に飾られた横断幕。
発展のため平和と安定を確かなものして独立回復20周年記念を祝いましょう、
とスポーツ団体が呼びかける。
2022年5月16日、ⒸAoyama Morito.
大型の補正予算が国会通過
5月9日からから審議が始まった約11億ドルという大型の補正予算案は、すぐさま5月11日に採決され、賛成36(連立与党)、反対22(CNRT[東チモール再建国民会議]とUDT[チモール民主同盟])、棄権5(民主党)、賛成多数で可決され国会を通過しました。それぞれ1票を持つの野党PUDD(民主開発統一党)とFM(改革戦線)は欠席しました。民主党は野党であっても国家予算案には賛成票を投じる傾向のある政党ですが、この大型補正予算案には賛成しませんでした。
国会を通った補正予算案は、5月13日、健康上の理由で1週間ほど滞在していたマレーシアから帰国したルオロ大統領に渡され(大統領府にはそれより前に届けられたであろう)、この補正予算を発布するのか、それとも拒否権を行使するのか、ルオロ大統領は判断を下すことになります。憲法上は20日以内に判断を下すことになっていますが、直ちに判断を下すことも可能で、自らの任期満了を迎える5月20日前に判断を下すことでしょう。
大統領に拒否を求める意見
このたびの補正予算は、約11億ドルという額のうち10億ドルが解放闘争の元戦士(ベテラーノ)のための基金にあてがわれるという、「ベテラーノ基金」のための補正予算です。市民団体「ともに歩む」は、「ベテラーノ基金」のために10億ドルもの拠出を緊急に発動する必要はなく、来年度の予算に組み込めばよいのであり、その間に十分に審議するのが望ましいとして大統領に拒否権を行使するように求めています。
十分な審議を尽くすことなく数の論理でアっという間に予算を決めてもらっては法律違反ではないとしても民主主義の崩壊につながると危惧するのは普通の感覚であり、国会が決めてしまったなら大統領に歯止めをかけてもらいたいと願うのは準大統領制を敷いているこの国の市民として当然のことでしょう(こう書いているうちに大政翼賛的な傾向が進む日本の国会の暴走に歯止めをかけるにはどうすれぼよいのか考え込んでしまう……)。
この補正予算をラモス=ホルタが大統領になる前に公布させたいという〝緊急性〟は、ラモス=ホルタ次期大統領が国会解散をする可能性があるので、政府にはあるとしても、それは権力抗争の内輪話であって、一般庶民にとって正当な緊急性がないならば政府が批判されても仕方ないことです。とりわけ「ベテラーノ問題」はこの国の根幹にかかわる問題であり、指導者たちの駆け引きで解決できる問題ではありません。東チモール人が心の傷を癒すためにも東チモール人の総力をあげて丁寧に取り組まなければならない問題です。タウル=マタン=ルアク首相が、10億ドルの「ベテラーノ基金」によって「ベテラーノ問題」による国庫への負担を軽減できるというのにはそれなりの机上の計算があってのことでしょうが、「ベテラーノ問題」がたんなるお金の問題ではなく根本的には心の問題であることを考えれば、首相の期待通りに事が運ぶとは思えません。いずれにしても〝緊急性〟の名のもとに民主的な手続きと透明性を吹っ飛ばすやり方は禍根を残すことになるでしょう。
眼に障がいのある人で構成される障がい者団体は、大勢の人びと、とりわけ障がいのある者が貧しく苦しんでいるなかでこの補正予算は必要ないし受け入れられない、大統領に適切な判断を下すよう求める、という声明を5月16日に出しました。政府が元戦士たちの問題に気をとられて障がいのある人たちのことを忘れることは断じて許されません。
大統領を束縛する法律か?
ラモス=ホルタが大統領になる前に、もう一つ、政府がやってしまいたいことがあるようです。
大統領責任に関する法案が5月16日、賛成35、反対24、で可決されました。この法案もまた近くルオロ大統領によって公布か拒否かの判断が下されることになりました。これは大統領が法を犯した場合、国会が控訴裁判所に働きかけ憲法に基づいて対処する法律ですが、わたしは新聞などの報道を読んでもこれまでと何がどう変わるのか具体的な内容がまだよくわかりません。最近の『ディアリオ』紙の社説(同じ社説を数日間載せている)ではこれを「大統領弾劾法」と呼び、なぜ与党三党がいま急いでこれを成立させようと躍起になっているのかよくわからないと論じています。
考えられるのは、大統領責任に関する法によって、もしラモス=ホルタ次期大統領が国会を解散させようとしたとき、この行為が憲法違反であると国会が判断したら、大統領の行為を最高裁判所に諮られやすくなるということです。
ラモス=ホルタ次期大統領に国会解散を躊躇させたいという与党三党の思惑があるとしたら、この駆け込み法案はちょっと露骨すぎるような気がします。記念すべき「5月20日」・独立(独立回復)20周年を迎える祝賀ムードのなかでやるべきことでしょうか。政治はもっと庶民の方に顔を向けるべきです。
青山森人の東チモールだより 第461号(2022年05月18日)より
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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