プーチン・ロシア政権の強権体質に見えてきたほころび
- 2022年 6月 1日
- 評論・紹介・意見
- ロシア戦争と平和澤藤統一郎
(2022年5月31日)
一昨日(5月29日)の東京新聞第4面に「ロシア地方議員 侵攻批判」「極東の沿岸『孤児増え、若者死ぬ』」という囲み記事。また、昨日(5月30日)の毎日に、内容をふくらませた続報。いずれも、現地紙の報道をニュースソースとしている。
小さな記事だが、これは注目に値するニュース。プーチン政権のウクライナ侵攻に、議会で公然たる批判の声が上がっているのだ。この批判の声には支持者のグループがある。当然に、氷山の一角と見なければならない。表面化せずに水面下に沈潜した批判のマグマは巨大なものでありうる。このただならぬ事態を政権は封じ込めることができるだろうか。
記事の大要は以下のとおりである。
「ロシア極東の沿海地方議会で27日、プーチン政権の『体制内野党』とやゆされてきた共産党のワシュケービッチ議員が、特別軍事作戦と称するウクライナ侵攻を批判する一幕があった。政界から非戦の訴えが上がるのは異例だが、議員らはその場で議場から退場させられた。独立系メディア『メドゥーザ』などが伝えた。
ワシュケービッチ氏は、議案審議中に突然、プーチン大統領に宛てたという声明を読み上げ『作戦をやめなければ、孤児が増える。国に貢献できたはずの若者たちが死んだり、障害を負ったりした。軍の即時撤退を要求する』と述べた。
同地方のコジェミャコ知事はこの発言に怒り、議会側との申し合わせの上、ワシュケービッチ氏と賛同の拍手をしたとみられる議員を退場させた。」
「沿海地方州(の議会)」が、固有名詞なのか普通名詞なのかよく分からない。しかし、とある地方議会で、「体制内野党と揶揄されてきた野党・共産党」の議員が公然と反戦・反プーチン演説をしたことだけはよく分かる。しかも、議員1人の行為ではない。「ANNニュース」は、「共産党の議員ら3人が連名で」と報道している。
毎日新聞は、「野党・共産党のワシュケービッチ議員は軍の即時撤収を呼びかけるプーチン大統領宛ての声明文を読み上げ、これに対し、政権与党『統一ロシア』に所属するコジェミャコ知事は『ナチズムと戦うロシア軍の名誉を傷つける。裏切り者だ』と非難。知事の要求に応じ、議会はワシュケービッチ氏と賛同した議員の発言権を奪う議案を可決した」と報じている。
プーチン政権を支える与党は、「統一ロシア」で、ロシア共産党はプーチン政権の『体制内野党』と揶揄されてきた少数野党なのだ。
ロシアは複数政党制で多数の政党があるというが、ロシア連邦議会ロシア連邦議会の国家院(下院)に議席をもつ主要政党は6党だという。
2021年9月、5年に一度の選挙の結果、定数450のうち、与党「統一ロシア」が324、野党「ロシア連邦共産党」57、「公正ロシア」27、「ロシア自由民主党」21という議席配分、これに「市民プラットフォーム」「政党エル・デー・ペー・エル」が続いている。イデオロギー的には、極左から極右まで、ロシア連邦共産党公正ロシア祖国統一ロシア市民プラットフォーム政党エル・デー・ペー・エルの順に並ぶとされるが、何が右で何が左か、さっぱり分からない。
いずれにせよ、ロシアにも議会があり、野党があるのだ。ロシア共産党はけっして取るに足りない存在ではない。2021年ロシア下院選挙では得票率21.7%だったという。地方議会の共産党3議員の反乱は、もしかしたら燎原の火となるかも知れない。
なお、このニュースを報じる毎日が、併せて「ロシア南部の軍事裁判所は従軍を拒否して除隊処分となった兵士らによる異議申し立てを棄却した。ロシア国内で軍事侵攻に賛同しない声や動きが相次いで露呈している」と記事にしている。 〈ウクライナへの従軍を拒否して除隊処分となる兵士ら〉がいるのだ。しかも、果敢に異議申し立てまでしている。それが、ニュースになって民衆の耳目を集めてもいるのだ。 ロシアのあちこちに、少しずつだが、破綻が見えてきているといえるだろう。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.5.31より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?m=202205
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12089:220601〕
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