安倍晋三元首相殺害事件をめぐって マスメディア、言論人、政治家は軌道修正せよ
- 2022年 7月 20日
- 評論・紹介・意見
- アベ小川 洋統一教会
マスメディアの軽率な反応-政治テロではなかった
いまごろ、多くのマスメディアや一部の言論人は、ばつのわるい思いをしているはずだ。安倍氏が選挙応援演説中に襲撃される事件が伝わると、彼らは「言論封殺は許されない」、「民主主義を守れ」と、いきり立つように声をあげた。安倍氏の政治姿勢に反感を募らせた人物による、政治的な事件と反射的に考えたからだ。
ところがその後、警察から容疑者の動機について「ある宗教団体によって家庭崩壊させられ、その教団と安倍氏の間には強い繋がりがあると考え、その恨みから銃撃に及んだ」という情報が出てきた。さらには、「韓国在住の教団最高幹部や日本の代表者の殺害を考えたが、いずれも難しく、自分が住む街に安倍氏が選挙応援に来ることを知って、安倍氏を狙うことにした」と、容疑者が供述していることも明らかになった。
本人の犯行声明などはなく、警察発表だけでは不十分だが、容疑者に名指しされた旧・統一教会(以下、統一教会)が間もなく記者会見を開き、母親が信者であることを認めた。容疑者の動機は、政治的なものではなく、教団に対する私怨によるものであることが、ほぼ確実になったのである。
金まみれの教団と政治家
統一教会は世界各地で活動しており、欧米でも多くのトラブルを起こし、反社会的、犯罪的な「カルト教団」と広く認識されている。国内でも金銭的な被害などが多く発生しており、賠償を要求する訴訟も起こされている。と同時に、教会は財力にものを言わせ、世界各地の有力政治家から、大会行事などに「祝福メッセージ」を取り付け、権威付けをして活動環境をつくることに努めてきた。
ジョージ・H.W.ブッシュ元大統領がメッセージを寄せた際には、約8万ドル(現在のレートで約1,100万円)が支払われた(2022/7/12 “Washington Post”。なお報道があってからブッシュ氏は相当額を慈善活動に寄付した)。21年秋の教団行事には、トランプ前大統領と安倍元首相がビデオメッセージを寄せているが、相当額の謝金が支払われたはずである。原資はもちろん山上容疑者の母親のような信者の「布施」などだったはずだ。
安倍氏など保守政治家の多くが統一教会と持ちつ持たれつの関係にあったことは半ば公然の秘密だったが、警察としては有力政治家との関係を誇示するような教団は、容易に手を出しにくい対象だっただろう。
警護体制がなぜ緩かったのか-ひとつの仮説
元首相の殺害事件であり、当然、警護上の問題も論じられている。一発目の銃声が響いた時点でも、安倍氏周辺の警備関係者の動きには緊迫感が欠如していたと指摘され、全体的にどことなく緊張感に欠ける雰囲気があったようだ。その理由について、多少の推理を交えた考察をさせてもらいたい。
元首相は当初、長野県に応援演説に赴く予定だった。しかし、直前に発行された週刊誌が、自民党候補者の不倫などのスキャンダルを報じたため、自民党本部は安倍氏を含む幹部の派遣を中止した。安倍氏が予定を変えて向かったのは、事件現場となった奈良市の大和西大寺駅前である。なぜ大和西大寺駅前が選ばれたのか。
大和西大寺駅前が選ばれた理由を推理する
元首相の来訪を周知する時間のなかった奈良県自民党役員は、聴衆がほとんど集まらないという事態を避けたかったはずだ。自民党が党員を中心として動員をかけるとすれば、奈良駅前が選ばれるはずだろう。自民党奈良県支部の建物は近鉄奈良駅とJR奈良駅とほぼ等距離の場所にある。しかし、実際には近鉄橿原線の大和西大寺駅前が選ばれた。支部からは5㎞ほど離れている。
1日当たりの乗降客数をみると、事件現場となった大和西大寺駅が4.7万人に対して近鉄奈良駅は6.5万人である(リクルート調べ)。当日の午後は、12時半から京都市の繁華街での演説会が予定されていた。いずれの場所からも電車でも車でも約50分みればよく、11時40分ころに現地を離れれば間に合う。
ここからは下衆の勘繰りになる。グーグルマップで「統一教会」を検索すると、「世界平和統一家庭連合 奈良家庭教会」が、事件現場から直線距離で300メートル足らずにあることがわかる。以前から自民党議員を中心に多くの議員たちが統一教会との関係を半ば公然と持つようになり、選挙活動の協力も得ていたという。教会と接点のある自民党関係者が、自民党の地方組織を動かすより確実に一定数の動員が見込める教団に「聴衆」の動員を依頼したのではないか。
事件当時の現場周辺の写真をみると、平日の昼前にもかかわらず一定数の「聴衆」がいる。聴衆の多くは、自民党と関係の深い宗教団体に動員されている人たち(サクラ)だ、という情報が警備陣に伝わっていたとすれば、現場には弛緩した気分が流れていたはずである。「中日スポーツ」紙には、会場周辺で山上容疑者にIDを求めた警察官が彼の運転免許証をチェックしている写真が掲載されている。手製銃が入っていたはずのバッグをチェックしていれば惨事は防げた。
今後の課題
第一に、メディアや言論人の軌道修正である。事件発生後、容疑者の動機が明らかになった時点で、政治テロ事件と即断したメディアや言論人は、軌道修正するべきだった。しかし、テレビ局は特別番組を組み、安倍氏の事績などを延々と流し続け、政治理念に殉じた偉大な政治家だったという印象を与える番組を流し続けた。
そうではなく、安倍氏は、その反社会的性格でも知られていたカルト教団の広告塔となっており-少なくとも容疑者にはそう思われていたし、そう思われてもやむえない事実があり-それ故に襲われたのである。であれば、マスメディアや言論人たちは、その政治家とカルト教団の関係という闇の世界に踏み込んでいかねばならないはずだ。
恥をさらす「国葬」-政治家たちの責任
第二に、政治家たちの責任である。参院選直後にも疑惑が報じられている。当選した自民党の井上義行氏が、統一教会の全面的支援を受けていたと報道された。選挙期間中、統一教会の「責任者出発式」集会に出席し、幹部から信徒であると紹介され、激励を受けていたというのである。
井上氏は高校を出て旧国鉄に就職し、民営化の人員整理に伴い総理府勤務になった。その後、安倍晋三氏などの秘書となり、さらに自身が政治家の道を目指していた。統一教会は信者を国会議員に秘書として無償で提供し、影響力の拡大を図っていたといわれ、もともと信者だった井上氏が教会からの指示で自民党に接近した可能性もある。彼の忠誠心は隣国に住む教団代表者に向けられているはずだ。自民党はどう対処するつもりだろうか。
安倍氏自身が教団とどの程度深い関係にあったかは不明であるが、祖父の代の岸信介氏以来の付き合いがあったことは明らかになっている。相当に密接な関係があったと考えざるをえない。安倍氏に近い政治家たちも統一教会と強い関係を結んでいた。政治家たちは、まずは統一教会との関係を清算し、国民に疑われることのないよう努めることが最優先の課題であるはずだ。
岸田内閣は今秋、国葬を行う方針を示した。しかし、自民党と統一教会との関係や、安倍氏襲撃事件の経緯からすれば、葬儀は自民党と統一教会の合同葬が適当だろう。安倍氏の葬儀に税金が使われる筋合いはない。国葬とすれば国内外から要人が多く会葬することになろう。その時、殺害された経緯が話題となれば互いに気まずい思いをすることになり、日本という国の異様さを印象付けてしまうことになりかねない。国益にも反する行事は行うべきではない。
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