国葬は民主主義に反する制度である。やっぱりごめんだ、安倍晋三の国葬。
- 2022年 7月 20日
- 評論・紹介・意見
- 天皇制安倍政権澤藤統一郎
(2022年7月19日)
かつて、「国葬令」というものがあった。特定の個人の死を国家として悼む制度を法制化したものである。帝国議会の協賛を経ない勅令という法形式。1947年の日本国憲法施行にともなって失効した。
その全文(本文5か条)が以下のとおり。半角を使って、少し読みやすくしてみた。
勅令第三百二十四号
朕 樞密顧問ノ諮詢ヲ経テ国葬令ヲ裁可シ 茲ニ之ヲ公布セシム
嘉仁 裕仁 御璽 (当時、裕仁は摂政だった)
大正十五年十月二十一日 (1926年)
内閣総理大臣 若槻礼次郎(以下自署)
陸軍大臣 宇垣一成
海軍大臣 財部彪
外務大臣 男爵 幣原喜重郎
文部大臣 岡田良平
内務大臣 濱口雄幸
遞信大臣 安達謙蔵
司法大臣 江木翼
大蔵大臣 片岡直温
鉄道大臣 子爵 井上匡四郎
農林大臣 町田忠治
商工大臣 藤澤幾之輔
第一条 大喪儀ハ 国葬トス
第二条 皇太子皇太子妃 皇太孫皇太孫妃 及 攝政タル親王 内親王 王 女王ノ喪儀ハ 国葬トス
但シ 皇太子 皇太孫 七歳未満ノ殤ナルトキハ 此ノ限ニ在ラス
第三条 国家ニ偉勳アル者 薨去又ハ死亡シタルトキハ 特旨ニ依リ 国葬ヲ賜フコトアルヘシ
前項ノ特旨ハ 勅書ヲ以テシ 内閣總理大臣之ヲ公告ス
第四条 皇族ニ非サル者国葬ノ場合ニ於テハ 喪儀ヲ行フ当日廃朝シ 国民喪ヲ服ス
第五条 皇族ニ非サル者 国葬ノ場合ニ於テハ 喪儀ノ式ハ 内閣總理大臣勅裁を経テ之ヲ定ム
これを分かり易く意訳してみればこんなところだろうか。
第1条 天皇や皇后・皇太后の葬儀は国葬として行う。
第2条 皇太子や一定の皇族の葬儀も同様とする。
第3条 国家に特別の貢献あった者が死んだときには、天皇の特別のはからいで国葬にすることがある。
第4条 皇族でない者の国葬の日には、天皇は執務を控え国民は喪に服する。
第5条 皇族でない者の国葬の儀式のあり方は、天皇の決裁を得て内閣總理大臣が決める。
この勅令(法律と同様の効力を持つ)の眼目は、第4条の「国民喪ヲ服ス」である。「いやしくも国葬である、国民一同国家に貢献あった被葬者を悼み服喪せよ」という、上から目線の弔意の強制なのだ。「皇族ニ非サル者国葬ノ場合ニ於テハ」と限定されているようだが、実は、天皇や皇族の葬儀については、「皇室服喪令」(1909年)が先行してあり、「臣民も喪に服する」とされている。つまり、国葬は国を挙げての一大行事であって、天皇も臣民も、その死者の生前における国家への貢献に敬意を表し哀悼の意を示さなければならない。国葬の日には服喪が要求される。歌舞音曲なんぞとんでもない、のだ。
以下は宮間純一教授(近代史・中央大学)の教えるところ(要約・抜粋)である。とても分かりやすく、肯ける。
「戦前の国葬は岩倉具視にはじまり、以降、1945年まで21名の国葬が、天皇の「特旨」によって執り行われた。
国葬は、回数を重ねる中で形式を整えてゆく。「功臣」の死を悼むために天皇は政務に就かない(これを「廃朝」という)、国民は歌舞音曲を停止して静粛にする、死刑執行は停止するといったことも定型化する。
葬儀の現場東京から離れた町村・神社・学校などでも追悼のための儀式が実施された。また、メディアが発達したことを背景に、新聞などを通じてその人の死が「功臣」たるにふさわしい業績・美談とともに広められてゆく。全国各地の人びとは、追悼行事に参加することで、「功臣」が支えたとされる天皇や国家を鮮明に意識することになる。
天皇は国家統合の象徴として演出され、万世一系の元首として振る舞った。天皇から「功臣」に賜る国葬は、そうした国民国家の建設のさなかに、国家統合のための文化装置として機能することが期待されて成立した。
国葬という制度が本来的にもっている性質を理解していれば、国葬を実施することにより、「民主主義を断固として守り抜く」という発想が出てくるはずがない。国葬は、むしろ民主主義の精神と相反する制度である。国家が特定の人間の人生を特別視し、批判意見を抑圧しうる制度など、民主主義のもとで成立しようはずがない」
さて、「民主主義のもとで成立しようはずがない」という国葬が安倍晋三について強行されようとしている。国民に対しては、歌舞音曲を停止して静粛にし、安倍晋三に対する哀悼の意を表明することが事実上強制されることになる。東京から離れた町村・神社・学校などでも追悼のための儀式が実施されるに違いない。また、メディアが発達したことを背景に、新聞やテレビ、ネットなどを通じて、安倍晋三の死が「国葬」にふさわしい業績・美談とともに広められてゆく。全国各地の人びとは、追悼行事に参加することで、安倍晋三が支えたとされる、国家や自民党や右翼勢力を鮮明に意識することになる。そして、安倍の負の遺産を批判することが封じられる雰囲気がつくられていく。
やっぱりごめんだ。安倍晋三の国葬。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.7.19より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=19543
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12201:220720〕
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