「核の脅威に対する唯一の解決策は核兵器を一切持たないこと」ー グテーレス
- 2022年 8月 7日
- 評論・紹介・意見
- 核廃絶澤藤統一郎
(2022年8月6日)
8月6日。「広島原爆の日」である。77年前の今日、広島市民の頭上で原子爆弾が炸裂した。人類史上最大規模の残虐な殺戮行為である。広島が軍都であったにせよ、明らかに過剰な民間人に対する虐殺と破壊。余りにも大きな「人間の悲劇」が今になお続いている。
季語では「原爆忌」。怒り・悲しみ・祈りの句が詠まれる。本日の東京新聞「平和の俳句」欄に、黒田杏子選の次の一句。
ノーモア ヒロシマ ナガサキ ウクライナ (冨田清継・名古屋市)
これまでは、「ノーモア ヒロシマ ナガサキ ビキニの悲劇」であったが、今や「ウクライナ」なのだ。「ウクライナ」(実は、プーチンのロシア)が、差し迫った核の脅威の象徴となっている。ウクライナに限らず、世界は核をめぐる緊張の中にある。日本の国内にさえ、「核共有」論者が現れている現状。
その緊張の中で、恒例の「広島・平和祈念式典」が開かれた。注目は、岸田文雄首相とグテーレス国連事務総長の「挨拶」。端的に言えば、この2人の核廃絶に対する熱意の落差だ。世界の良識が核廃絶を求める本気度に比較して、日本の政権の核廃絶に対する熱意のなさがいかに浮き彫りになるのかという関心である。
原爆投下時刻の午前8時15分に参列者が黙禱を捧げたあと、松井一実市長が平和宣言で「一刻も早く、すべての核のボタンを無用のものにしなくてはならない」と訴えた。ほかならぬロシアの文豪トルストイが残したとされる「他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない」という言葉を引用して、核保有国の傲慢を批判した。注目されたのは、核兵器禁止条約に否定的な日本政府に対する批判に言及したこと。岸田首相を目の前にして、来年の第2回締約国会議への参加や、条約への署名・批准を求めた。
岸田文雄のあいさつ要旨は以下の通り。
「あの日の惨禍を決して繰り返してはならない。これは唯一の戦争被爆国であるわが国の責務であり、被爆地広島出身の首相としての誓いです。
核兵器による威嚇が行われ、核兵器の使用すらも現実の問題として顕在化し、「核兵器のない世界」への機運が後退していると言われている今こそ、広島の地から「核兵器使用の惨禍を繰り返してはならない」と世界の人々に訴えます。
いかに難しかろうとも、核兵器のない世界への道のりを歩みます。非核三原則を堅持しつつ、厳しい安全保障環境という「現実」を核兵器のない世界という「理想」に結びつける努力をします。
私は先日、核拡散防止条約(NPT)再検討会議に日本の首相として初めて参加し、世界の平和を支えたNPTを国際社会が結束して維持・強化すべきだと訴えました。
来年は広島で主要7カ国首脳会議(G7サミット)を開催します。G7首脳と共に、平和のモニュメントの前で、自由、民主主義といった普遍的な価値観を守るために結束していくことを確認したいと考えています。
核兵器のない世界の実現に向けた歩みを支えるのは世代や国境を越えて惨禍を語り伝え、記憶を継承する取り組みです。」
聞いていて、訴えるところがない。まことに平板で熱意の感じられないあいさつであった。核禁条約には頑なにまで触れない。何かしら、特別の裏事情でもあるのだろうか。
さて、注目のグテーレスである。
立派な演説だった。核禁条約を「希望の光」として、今年6月の第1回核兵器禁止条約の締約国会議の意義を強調した。そして、「広島の恐怖を常に心に留め、核の脅威に対する唯一の解決策は核兵器を一切持たないことだ」と、核抑止力を明確に否定した。これが、世界の良識なのだ。以下、抜粋して要約する。
「新たな軍拡競争が加速しています。世界の指導者たちは毎年数千億ドルもの資金を費やして、兵器の備蓄を強化しています。世界では約13,000発の核兵器が保有されています。そして深刻な核の脅威が、中東から、朝鮮半島へ、そしてロシアによるウクライナ侵攻へと、世界各地で急速に広がっています。
核兵器保有国が、核戦争の可能性を認めることは、断じて許容できません。人類は、実弾が込められた銃で遊んでいるのです。
希望の光はあります。
6月には核兵器禁止条約の締約国が初めて集い、終末兵器のない世界に向けたロードマップを策定しました。そしてまさに今、ニューヨークでは、核兵器不拡散条約の第10回運用検討会議が開催されています。本日、私は、この神聖な場所から、この条約の締約国に対し、私たちの未来を脅かす兵器の備蓄を廃絶するために緊急に努力するよう呼びかけます。
核兵器保有国は、核兵器の「先制不使用」を約束しなければなりません。また、非核兵器保有国に対しては核兵器を使用しないこと、あるいは使用すると脅迫しないことを保証するべきです。さらに、核兵器保有国はあらゆる面において透明性を確保しなければなりません。私たちは、広島の恐怖を常に心に留め、核の脅威に対する唯一の解決策は核兵器を一切持たないことだと認識しなければなりません。」
「もう二度と、広島の悲劇を引き起こさないでください。
もう二度と、長崎の惨禍を繰り返さないでください。」
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.8.6より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=19672
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12254:220807〕
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