安倍氏の国葬を中止せよ! 国葬は安倍氏を二度殺すことになる
- 2022年 9月 2日
- 評論・紹介・意見
- アベ国葬小川 洋
付き合い方に困る葬式
その人の死因について話題にすることが憚られる葬式というものがある。落語にでも出てきそうな例を上げれば、堅物と思われていた商家の旦那が妾宅で頓死するという話が思い浮かぶ。残された家族は葬式を出さないわけにはいかない。しかし会葬者は礼儀として、死亡の経緯について話題にすることは避けなければならない。
弔問客は喪主に対し、「義理堅い商いをする惜しい人を亡くしました」というような、表面的な悔みの言葉を口にするしかない。葬儀はどこかギクシャクした後味の悪いものになる。しかし世間体は些か悪いものの、商売仲間の旦那衆の間では、「奴もなかなか隅に置けない男だった」といった程度の評価を得ることもできただろう。
さて安倍元首相である。選挙応援演説中の襲撃という衝撃的な死だった。政治的動機によるテロの犠牲と思われたこともあり、岸田政権は事件後一週間もしないうちに、法的根拠も怪しい「国葬」という最大級の葬送を決定した。
ところが間もなく、元首相自身が種を蒔いた私怨に基づく事件であったことが明らかになり、盛大な葬儀を執行するには「不都合な事情」が次々と明らかになってきた。多くの世論調査で国葬に反対する回答が過半を占めている理由である。
不都合な事情
「不都合な事情」を簡単に整理しておこう。支持者たちにとって、元首相は日本の国際的地位を高めた優れた政治指導者だったはずである。それだけでも彼らにとって、国葬に相応しいと考えるだろう。
とくに元首相は隣国に対して毅然とした態度で臨み、支持者が共有する嫌韓感情を満足させてくれていた。徴用工や従軍慰安婦問題などの個人賠償要求に対し、元首相は国交樹立時に解決済みとして、請求を認めた韓国司法当局の動きを批判し、一部工業製品の輸出制限などの報復措置さえとった。安倍政権下、日韓関係は国交樹立後、最悪の状態と言われるまでになっていた。
しかしその裏側で安倍氏は、日本は韓国(朝鮮)に対して植民地支配の償いをすべきであるとする教義を掲げる韓国人の開いた旧統一教会というカルト的教団と密接な関係を結んでいたのだ。しかもその「償い」とは、信者として取り込んだ日本人から「霊感商法」や「献金」という手段で、信者を自己破産に追い込むほどの収奪をするという犯罪的なものであった。その被害によって崩壊した信者の家庭の子によって元首相は命を奪われたのである。
また安倍政権は、教育基本法に愛国心条項を盛り込むなど、愛国心を強調して右派勢力の支持を得てきた。しかし、旧統一教会は日本を韓国(朝鮮)より下位の国と位置づけ、儀式のなかで天皇役の人物が教祖の前で拝礼することさえしていたといわれる。
元首相が率先してその教団と深い関係を続け、その間、主として自民党の多くの議員が何らかの関係をもつようになっていた。元首相の支持者たちにとって、これほどの背信行為もないはずだ。支持者たちの作り上げた「優れた政治指導者」という像も崩れ、多くの国民としては闇が深すぎて理解困難なのである。
清算に必要なもの
犯罪組織と政治家の関係として思い浮かぶのは、イタリアのマフィアであろう。イタリア南部とくにシチリア島では、マフィアの集票能力に頼らないと政治家は選挙で当選できないという状況があったたといわれる。しかし80年代末以降、マフィアの犯罪を追及しようとした検察官などが相次いで暗殺される事件が起き、マフィアを取り締まる法律が制定された。近年ではマフィア組織の弱体化が進んでいるという。
旧統一教会による日本の政治・社会への浸透の闇の解明にも、相当な覚悟と時間が必要となるだろう。しかし、彼らはイタリアのマフィアほど複雑に日本社会に根を張っているわけではない。本拠地である韓国でも、旧統一教会はキリスト教の宗派というよりも、企業集団と見なされているという。その運営資金は日本人信者から収奪したものが中心だといわれる。教義も正統なキリスト教の教えとはかけ離れた内容である。経済活動と宗教活動の両面から規制していけば、彼らの日本での活動は衰退していくはずである。
岸田首相の唯一の選択
安倍氏の国葬が予定どおり執行されれば、歯の浮くような弔辞が述べられるであろう。しかし、それがまやかしで、実際には褒め殺しに近いものであることは、だれにも分かる。葬儀の帰り道どころか、準備の過程で、「こんな葬儀に値するような人物じゃなかった」という声があちこちから聞こえてきそうである。安倍氏は二度殺されることになる。
岸田首相にしてみれば、「行くも地獄、退くも地獄」の心境だろうが、唯一残された賢い選択肢がある。日本は現在、世界で最も多くの新型コロナ感染が広がっている国である。そのような国に外国の賓客を招く訳にはいかないし、皇族のお出ましを願う訳にもいかないことを理由として、国葬を中止するという決断である。
党内の一部勢力や安倍元首相をいまだに評価する一部の勢力からは猛反発を受けるだろうが、国葬中止を決断すれば内閣支持率も回復し、長い目で見ればプラス効果が期待できるはずである。中止の決断をせず、このまま国葬を執行してしまえば、内閣の支持率はさらに低下するだろう。喜ぶのは、裏切られたことを未だに認めたくない一部の元首相支持者と、葬儀を仕切る電通などの企業だけだろう。中止こそが唯一の正しい選択である。
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