青山森人の東チモールだより…PCR検査とワクチン接種を体験する
- 2022年 9月 12日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
新型コロナウィルスの感染状況
東チモールの新型コロナウィルス感染状況をざっと見てみましょう。
7月は一日の新規感染者がゼロ人だった日が八日もあり、その他の日はすべて1~5人であるという低い感染状況にありました。
8月は少し感染状況が悪化しました。一日の新規感染者がゼロ人だったのは一日だけ、1~4人であった日が十二日あり、5~9人が十四日、10~14人が三日、それぞれありました。そして8月5日に一人の死者が6月7日以来でました。そのあと8月10日と25日・26日そして29日にそれぞれ一人ずつ亡くなり、8月31日時点での累計死者は138名となっています(「在東ティモール日本大使館」のホームページを参照)。
この9月4日から10月5日にかけて東チモールでは国勢調査が実施されることになっており正確な人口数が直に判明することでしょう。推定として130万という数字がよくわれるので、人口約120万といわれる青森県と比べてみます。青森県は、盆休みの人の移動が影響してか、8月に一日の新規感染者がかなり悪化し、現在は一日の新規感染者が千人前後で、一日の死者数が東チモールの一日の新規感染者数に相当するという状況です。比較にならないくらい東チモールの感染状況は低く抑え込まれているといえます。
新型コロナウィルスの世界的流行が現実味を帯び始めた2020年初め、「新型コロナウィルスとの闘い」という言葉遣いがよくされましたが、この闘いにかんして現在の感染状況を見ると、日本は敗戦国、東チモールは勝戦国といえるのではないでしょうか。
独立を決めた住民投票の実施(1999年8月30日)
から23年目のこの日、
大勢の人びとがシャビエル=ド=アマラルの銅像前に集う。
これから記念行事の一環として行進をおこなう。
メルカードラマの環状交差点にて。
2022年8月30日、ⒸAoyama Morito.
バンザーイ!住民投票の日から23周年記念日だ。
8時10分ごろ、鼓笛隊を先頭にして行進が始まる。
2022年8月30日、ⒸAoyama Morito.
PCR検査 体験記
8月24日(水)、わたしはPCR検査を受けました。その二日前、喫茶店でわたしが一時間ほど向き合ってお喋りしていた相手がその後体調が悪いのでPCR検査を受けたところ陰性が出たことを24日の午後に知らされました。もし仮にわたしがこの人から感染したとしても今日・明日に陽性が出るわけではないかもしれませんが、24日の昼食をわたしは二人の友人と食べたので、この人たちにたいする不安を払拭するため、なるべく早くPCR検査を受けて身の〝白黒〟をはっきりさせた方がよいと判断したわけです。幸い帰り道の途中にPCR検査所があることから、24日、わたしはふらりと立ち寄って、検査を受けたいと申し出たら、すぐにやってくれたのです。
PCR検査は「国立保健研究所」というところでやってくれます。そこは国立病院のすぐ隣にありますが、病院の敷地外にあります。わたしは事前に連絡もせず、必要書類などがあったとしても何も用意するでもなし、とりあえずPCR検査を受けるにはどうすればいいのかを確かめるつもりでPCR検査所に寄ってみたら、あっさりとできてしまったのです。
まず「国立保健研究所」に敷地に入り、外にテントで設置されている受付で、こうこうこういう理由でPCR検査を受けたいのですが……というと、滞在先の家の人たちの関係や日常的な接触状況などをきかれ、もしわたしが陽性だったらその家の人たちもPCR検査を受けなければなりませんよ、と説明をけました。そして身分証明書であるパスポートを提示すると、過去のワクチン接種証明書の提示も求められました。わたしは日本で二回接種したワクチン接種証明書を持っていますが、今この場には持ち合わせていませんでした。しかしスマホに入っていませんかときかれたので、あるはずだといいながら自分のスマホにあるはずのワクチン接種証明書の画像を苦労して探しあてると、PCR検査ができることになったのです。
そして建物に入りました。女性二名と男性一名が雑談している机が待ち構えていました。パスポートを見ながらわたしの名前などを紙に書いていた男性がサッと立ち上がり別室へ入ると、すぐに防護服姿で出てきました。かれはわたしの口の中と鼻に中にそれぞれ綿棒を入れ、検体採取が終わりました。あした午前10時過ぎに結果がわかります、この建物の別の入り口から入ってください、といわれ終了です。
かくのようにあっさりとそして簡単に終わりました。受付から検体採取まで20分もかかりませんでした。一番手間がかかったのはわたしが自分のスマホのなかから自分のワクチン接種証明書を探しあてる〝作業〟でした。もしわたしがワクチン接種証明書をすぐに提示できたら10分程度ですんだことでしょう。
PCR検査の結果を教えてもらうため翌朝10時過ぎに「国立保健研究所」に着くと、30分ぐらい待ったでしょうか、名前を呼ばれて受付の人からぶっきらぼうに検査結果が記載された用紙を手渡されました。何も言われないので問題なしということなのでしょうが、どこを見ればよいのかと係員にきくと、「検知されず」という項目があるでしょうといわれ、PCR検査のいわゆる「陰性」という結果を晴れて得ることができました。
この体験から、手軽にPCR検査ができることは安心感につながるものだとわたしは実感しました。たとえ陽性という検査結果が出たとしても、その結果をうけて適切な対処をとれば感染拡大を最小限に抑えることができるので、精神的負担はそれほどでもないはずです。今回のPCR検査を除けばわたしのPCR検査体験は去年の12月、東チモールに戻るときに成田空港で3万円を払ってやってもらったときです。当時、飛行機に乗る直前でないとPCR検査が難しい環境にあり、不安が大きかったのを覚えています。すぐにそして気軽にPCR検査ができる仕組みが地域社会にあれば、精神面でも経済面でもさまざまな面で個人的な負担を軽減することができ、社会全体が適切な新型コロナウィルス対策を講じることができたはずです。新型コロナウィルスとの闘いにおいて日本政府は自らの過ちを認めることも、責任を取ることもでせず、医療分野でも経済分野でも安心感を国民(とくに弱い人たち)に与えることを怠ってしまい、日本はコロナ敗戦国になってしまったのではないでしょうか。
思い思いの想いを胸に
大勢の人びとが平和の行進に参加する。
終着点は政府庁舎前を経由して「5月5日広場」。
2022年8月30日、ⒸAoyama Morito.
8時35分ごろ、平和の行進隊は政府庁舎前を通過する。
出発時点よりかなり人数が膨らんできた。
2022年8月30日、ⒸAoyama Morito.
ワクチン接種 体験
さてわたしは上記のPCR検査所の受付で、外国人でもワクチン接種ができますか、とついでに尋ねたところ、ええ、できますよ、と係員はわたしの住所をみながら、ベコラの診療所でもできますよと教えてくれたのでした。わたしの滞在先は、ベコラ大通りに面しているベコラ診療所から小さな路地に入った所にあります。ベコラ診療所はすぐ近くです。
9月1日午前の昼前、そこへ行ってみました。今度は、PCR検査所の係員からあらかじめ用意すべき物を確認したので準備万端です。といっても必要なのはパスポートとワクチン接種証明書だけですが。
ベコラ診療所に正面から入り、どこへどう行けばよいのかまったくわからないので医療従事者とおぼしき制服姿の若い男性が目に入り、女性二人と笑顔で談笑していたのをお邪魔して、すみません、ワクチン接種したいのですがどこへ行けばいいですかとたずねると、この男性は笑顔から真剣な顔にかえて、こっちです、と案内してくれました。
そこは建物のなかではなく、駐車場のような屋根だけの空間でした。その空間の中央部に置かれている机の前にわたしは案内され座りました。わたしはこの近所に住んでいる外国人ですがワクチン接種できますかと切り出すと、ええ、もちろんですよ、と係員にいわれました。係員にパスポートとワクチン接種証明書を見せると、一人は手書きで帳面にわたしの個人情報を書き、もう一人はスマホにデータを入力していました。机にはパソコンはありません。おそらくデータ入力業務の機器としてスマホがパソコンにとって代わっているのでしょう。
次にこの場所の隅にある机の前に案内されそこへ座ると、注射が準備されていたので、接種会場に着いてから随分と時間がかかった日本での記憶があるので、おぉ、もうやるのかとちょっと驚くと、わたしの顔が少しこわばったのでしょう、わたしの目の前にいる係員が、怖いの?ときくので、ちょっとだけ、と応えると、怖いことはありませんよ、といわれました。この係員とは別の女性看護師が注射器をもってわたしの横に立つと、ハイ、終わりです、といわれ接種が終わりました。ここまではすべて女性でしたが、男性が現れ、その人から注射痕に脱脂綿をずっとあててくださいといわれました。
その次に最初に案内された机に前にまた案内され座りました。スマホでデータを入力していた女性係員が、必要事項を記入した書類を送りますからね、といいわたしのデータ送信先をきいてきました。わたしは自分のスマホを取り出し、自分のデータ受信先はなんだったっけえぇとまごついていると、ちょっと失礼……とその係員はわたしのスマホが日本語バージョンになっているのにもかかわらず、すぐにデータ送信先をみつけてくれました。そして三回目の接種をした証明書を発行してくれたのです。すると注射した所にいた男性がきて、わたしの注射痕を見て、もう脱脂綿でおさえなくてもいいといい、二錠の錠剤をくれました。それはパラセタモル(paracetamol、解熱鎮痛剤)といって身体の熱を抑える薬で、昼食後と夕食後に一錠ずつ呑んでください、普段通りの仕事・生活をしてもいいですよ、と女性係員は説明し、もう家に帰ってもいいですよ、といわれました。
わたしが診療所に正面から入ったのが10時50分、帰ってもいいですよといわれ裏口から出たのは11時でした。正確にいうとまだ11時にはなっていなかったかもしれません。わずか10分間でわたしは三回目のワクチン接種をすませたのです。PCR検査よりも実にあっさりとそして簡単にすみました。一週間前のPCR検査のときは安心感を覚えましたが、今回のワクチン接種では感動さえ覚えました。
日本はなぜ普くPCR検査を実施する態勢をとることができなかったのか、そしてなぜこの夏に世界最悪の感染状況といわれるほどの状況に陥ったのか?東南アジア最貧国といわれる東チモールで出来ることがなぜできないのか?われわれは徹底分析して自らを省みなければなりません。
9月の新型コロナウィルスの感染状況
東チモールの9月の感染状況を見てみます。一日の新規感染者数は以下の通りです。
【2020年9月】
1日=6, 2日=3, 3日=5, 4日=1, 5日=4, 6日=6.
この時点で累計感染者数は2万3195人、累計死者数は138人です(「在東ティモール日本大使館」のホームページから)。
8時50分ごろ、平和の行進は
終着点の「5月5日広場」に到着。
ここで住民投票23周年記念行事が行われた。
2022年8月30日、ⒸAoyama Morito.
9時25分ごろ、「5月5日広場」に
ジョセ=ラモス=オルタ大統領が到着。
閣僚など政府要人も普段着での参加であった。
国防軍のファルル=ラテ=ラエク司令官は
国防軍の文字が入ったジャージ姿であった。
2022年8月30日、ⒸAoyama Morito.
住民投票23周年は、
音楽の生演奏、スポーツ大会の表彰式、
くじ引きの懸賞の授与、綱引き大会など、
娯楽満載の楽しい行事で祝った。
「5月5日広場」にて。
2022年8月30日、ⒸAoyama Morito.
青山森人の東チモールだより 第471号(2022年09月11日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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