八方ふさがりプーチンの「ボクは少しも悪くない。ぜ~ぶヒトのせい」
- 2022年 9月 23日
- 評論・紹介・意見
- ロシア戦争と平和
(2022年9月21日)
ボクが、ウラディーミル。シンゾーの親友さ。お互い、ファーストネームで呼び合って、「一緒に駆けて駆けて駆け抜けよう」なんて臭いセリフを言い合う仲。似た者どうし、うんと気が合ったんだよ。驚いたなあ、そのシンゾーが死んじゃったんだ。
だから、葬儀には駆けつけなければならないんだけど、招待もしてくれない。ボクが悪いんじゃない。日本が悪い、岸田のせいだ。
葬儀と言えば、英国女王の国葬もそうだ。どうしてボクには招待状が来ないんだ。面白くない。イギリスが悪い。エリザベスのせいだ。
日本にもイギリスにも、いや世界中に、ウクライナへの特別軍事作戦を始めたボクが、何かすごく悪いことをしているように言う人が多い。でも、悪いのはボクじゃない。みんなウクライナが悪い、ゼレンスキーのせいだ。だって、ウクライナはNATOに加盟しようとしていたんだよ。NATOの東方拡大なんて許せるはずがない。
「実はウクライナはNATOには加盟しないことになった。だからウクライナ軍事侵攻の必要はない」という側近からの進言を、ことさらにボクが無視したなんて報道もある。でも、ボクに都合の悪い報道は全部デマだよ。悪いのはボクじゃない。メディアが悪い、でなければ側近のせいだ。
「反転攻勢」って言葉は不愉快だ。耳に痛いんだよ。いま、ウクライナの戦況は最悪だけど、ボクが悪いんじゃない。アメリカの軍事支援のせいだ。バイデンが悪い。ウクライナがNATOに加盟していたら、どんなことになっていたかよく分かるだろう。ウクライナ侵攻の正当性が証明されたように思うんだけど、違うかな。
もちろん、ハルキウでの敗北は痛い。特別軍事作戦の開始自体に対する疑問は国内からも噴き出している。だけど、これは参謀本部の責任さ。だって、作戦の進め方は総て参謀本部が決めているんだ。だから、ボクが悪いんじゃない。ボクのせいじゃない。
こんな事態だから、サマルカンドまで足を運んで上海協力機構(SCO)首脳会議に出席した。習近平には軍事援助を期待したんだけれど、あいつニベもない態度。困ったときの友が真の友というだろう。あいつは真の友じゃないことがよく分かった。悪いのはボクじゃない。中国が悪い、習のせいだ。あ~あ、お世辞上手が取り柄だったシンゾーが懐かしい。
サマルカンドでは、モディとも話しをしたが、あいつも実に不愉快だ。無神経に、このボクに「今は戦争のときではない」と、ウクライナとの早期停戦を要求する発言。いったいあれが、友好国首脳が公の場でいうことかね。ボクに恥をかかせようというのだろうか。しょうがないから、こう言っておいた。
「私たちは全てをできるだけ早く終わらせたいと思っているが、ウクライナ側が交渉を拒否している」。そう、常に一方的に悪いのがウクライナ。戦争が長引いているのもウクライナのせい。ボクは、いつも、ちっとも悪くないんだ。
頭の痛いのは、ロシア国内で公然と、ボクに向けた批判の動きが芽生えて、拡がり始めていること。サンクトペテルブルクとモスクワの区議会では今月中旬以降、ボクの辞任を求める請願運動が展開され始めた。賛同する区議が90人近いとも言うんだ。メディアでも、ボクを批判する論調が拡がりつつある。
ボクのせいじゃないけど、このままだと戦況の好転は難しい。武器も兵員も不足なんだ。しょうがないから、予備役30万人を召集することにした。国内世論が反戦に傾くんじゃないかと心配だけど、背に腹は代えられない。こんなことになったのも、ぼくが悪いんじゃない。みんな参謀本部のせいだ。アメリカとゼレンスキーのせいだ。
とうとう、ロシア全土で抗議デモだ。38都市で1400人を超える市民を逮捕したが、これでおさまるはずはない。特にモスクワとサンクトペテルブルクではそれぞれ500人を超える市民を分散留置している。たいへんなことになった。みんなみんな、無能な部下のせいだ。
このままでは、ジリ貧のスパイラル。奥の手を考えなければならない。最近は奥の手って言っても、みんな恐がらないし、恐れ入りもしなくなったけど。奥の手はたくさんあるぞ。まずは、ウクライナ4州の実効支配地域をロシアに編入する住民投票は前倒しでやる。政敵を消すための毒殺だつてあるぞ。全面戦争だってやるぞ、原発攻撃だって遠慮しない。そして、戦術核兵器の使用だって本気になればやるんだ。ハッタリじゃないぞ。敵国を撹乱して偽情報や裏資金を注ぎ込む「裏工作」もある。ボクKGBの出身なんだもの。得意技は使わなくちゃあ。
どう? 恐いでしょう。えっ? たいして恐くない? もう戦争を始めちゃった以上、恐いなんて言ってられないって? それは困った。それって、いったいだれのせい? だれが悪いんだろう?
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.9.22より許可を得て転載
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