戦争へひた走る
- 2022年 10月 14日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘戦争朝鮮半島
「ミサイルが落ちてきたらどうする」
一人暮らしの叔母の声が電話口から聞こえた。
「脅しだから心配しないで」
95才の叔母は少し安心したようだった。
ニュース速報「ミサイル発射」「日本上空を通過」と聞いたら不安になるのは当然だ。4日には5年ぶりにJアラートが発令された。戦争体験者は空襲を思い出し、ウクライナ戦争の悲惨な情景を思い浮かべた人も多い。私の「心配しないで」の説明。皆さんならどう説明するだろうか。
政府が抗議をしたのは当然だが、あらためて北朝鮮と国交がないことに気づく。「平壌宣言」(2002)で国交が正常化していれば今頃ミサイルの心配などしなくてすんだ。脅しが脅しでなければ戦争になる。
平壌宣言を棚晒しにしたのは誰か。拉致問題を理由に安倍元首相が反対したことはよく知られるが、決定的なのはアメリカが日朝の国交正常化に反対したこと。日朝関係の正常化に続き南北朝鮮が和解へ向かうと予想された。アメリカは半島の緊張緩和を歓迎しなかった。日本は拉致問題の解決を逃した。
<危険な関係>
1年くらいの間に日米韓トップの顔ぶれがすっかり変わった。
トランプ米前大統領の北朝鮮をめぐる言動は謎めいていた。「目立ちたがり」、「思い付き」と勝手に解釈している。途中降板で元の木阿弥になったが、朝鮮半島の分断と対立の主たる原因はアメリカとわかっただけでも意義があったのではないか。
発足後間もない尹政権の支持率は30%たらず。岸田政権の支持率も30%前後に並んだ。奇しくもバイデン大統領も30%と11月に中間選挙を控え苦戦中である。
支持率3割は国民から不信任を突き付けられたのも同然だが、三人とも内心はともかく、あまり意に介していないように見える。並の神経でないのが心配である。
<写真/日韓両首脳/先月22日ニューヨークで。ハンギョレ新聞>
三者ともミサイル発射を異口同音に「挑発行為」と非難するが、北朝鮮も日米韓の「挑発行為」は許せないと主張する。私たちは両者の主張を公平に聞くべきではないか。どちらも正しいなら取っ組み合いになる。まるで子どもの喧嘩だ。戦争になれば犠牲も大きい。ロシアとウクライナの戦争がそのいい例だ。
ミサイル発射は到底許されるものではないが、北朝鮮と日米韓がともに「正義」を振りかざして戦争に突き進むのが心配だ。
国葬と統一教会問題で揺れるわが国でミサイルの不安に乗じて「敵基地攻撃」容認の声が起っている。抑止に名を借りた先制攻撃にくわえ、「核には核を」という人類最終の核抑止論が平然と語られ始めている。岸田政権は国葬を強行することによって憲法違反、私物化政治、嘘で固めた安倍政権の後継者になった。まるで死者の「傀儡政権」ではないか。岸田政権の迷走ぶりが不安だ。
韓国からは尹大統領の日米韓の軍事同盟強化がしきりに伝えられる。
北朝鮮・米・中・日本と対等な関係をめざした文在寅前政権を「アカ」「反米」「反日」「親中」政権とこき下ろしてやまない。自民党政権と相性がいい政権のはずだが、岸田首相の(懸案は)「すべて解決済み」に拒まれ、面子を失い国民からの信頼を失った。支持率挽回に妙手のない新大統領がアジアの新たな不安材料になりそうだ。
衝撃的なニュースが韓国から伝わってきた。
4日夜、北朝鮮のミサイルに対抗して発射した韓国軍の弾道ミサイルが爆発炎上した。
<写真下/ハンギョレ新聞>
韓米日共同訓練中に起きた事故だが幸い人命と住宅に被害はなかった。事故直後さらに4発を発射。事故現場は江原道江陵(カンヌン)の空軍射爆場である。江陵は北との境界線に近い。北に着弾したらと想像するだけで恐ろしい。
参謀本部は住民に説明をする気もなかったようで住民から指摘されて住民に謝罪した。
韓国は既に戦争状態になったと窺える事件だ。北朝鮮と台湾有事を想定した訓練が事実上始まっている。日本の米軍基地と自衛隊も慌ただしさを増している。
<共有する価値観? 疑問だらけの民主主義>
アメリカにとって日韓は自由と民主主義という共通の価値観を共有する同盟国だという。だが日米韓に「正義の戦争」を云う資格はあるのか。新自由主義によって生れた多くの国民が貧困に喘ぐ社会。弱者切り捨て、一握りの富豪が謳歌する国では民主主義の名が泣く。先進国という名の環境破壊国家。不公平のあふれる国。戦争で軍需産業ばかりが肥大し続け、庶民は物価高に苦しむ。おかしくはないか。
30%ダンゴ三兄弟からは未来は見えてこない。耳をすませば世界中から戦争と貧困に立ち向かう民衆の声が聞こえる。「末世」を憂える声もあるが絶望してはいられない。希望はまだある。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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