「統一教会スラップ・有田事件」の訴訟進行は、統一教会の反社会性立証の舞台とならざるを得ない。
- 2022年 12月 21日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎統一教会
(2022年12月20日)
逆風に晒されている統一教会が、その組織防衛策として提起した5件のスラップ訴訟。いずれも、同教団に対する批判の言論を嫌って、コメンテーターとメディアの萎縮効果を狙ったもの。そのうちの1件として、ジャーナリスト有田芳生を被告として訴えた「統一教会スラップ・有田事件」がある。私も、その常任弁護団の一人となった。
この事件の訴訟記録はいずれWeb上で閲覧できるように整備する予定だが、訴状のできは、はなはだよくない。何とも迫力に欠ける請求原因の記載だが、それでもスラップとしての萎縮効果は十分に発揮している現実がある。
有田さんは、8月19日放送の日本テレビ番組「スッキリ」で、統一教会問題の解説をしているが、10月27日に至って、統一教会は有田と日本テレビを被告として、東京地裁に名誉毀損訴訟を提起した。「スッキリ」での有田発言の一部が、教団に対する名誉毀損となるという主張。請求金額は2200万円、典型的なスラップ訴訟である。
この訴状において主張されている有田さんの統一教会に対する名誉毀損文言をそのまま転記すれば、以下のとおりである。
「一時期距離を置いていた国会議員達も、もう一度あの今のような関係を造ってしまったっていうその二つの問題があるということを思うんですが、どうすればいいかっていうのは、やはりあの、もう霊感商法をやってきた反社会的集団だって言うのは警察庁ももう認めているわけですから、そういう団体とは今回の問題をきっかけに、一切関係をもたないと、そういうことをあのスッキリ言わなきゃだめだと思うんですけどね」(アンダーラインも訴状のとおり)
原告(統一教会)主張の名誉毀損文言を要約すれば、「(統一教会が)霊感商法をやってきた反社会的集団だっていうのは警察庁ももう認めている」というもの。果たして、これが違法な言論として損害賠償請求の根拠となり得るだろうか。そんなバカなことはない。この程度のことが言えなくては民主主義社会は成り立たない。
原告のいう名誉毀損文言は、意味の上で二つの命題から成る。
A 「(統一教会は)霊感商法をやってきた反社会的集団である」
B 「そのこと(A)は、警察庁ももう認めている」
命題Aの「反社会的集団」という表現は《事実の摘示》ではなく、《意見(ないし論評・評価)》の範疇。すると、統一教会を「反社会的」とする「意見」の根拠となる前提事実の真実性が、Aの命題の違法性を阻却する立証の対象となる。
これは興味深い。統一教会の「反社会性」の根拠となる前提事実は、「霊感商法」を筆頭に山ほどにもなろう。その中から、必要にして十分なものを抜き出して立証を重ねることになる。ということは、この有田訴訟が、統一教会の反社会性立証の舞台となることを意味する。被告有田側での攻勢的な訴訟進行が可能というだけでなく必然となる。
そして、命題Bである。現実には、起訴に至っていない捜査の秘密が公的に暴露されることはない。しかし、複数のジャーナリストが、下記の有田さんと同様の体験を語っている。
「1995年秋に警察庁と警視庁の幹部の依頼で、対象者を聞かずに20~30人を相手にレクチャーを行い、その際に、「統一教会の摘発」を視野に入れていると聞いたと明かした。
そのうえで、その10年後のこととして「幹部2人と話をした時に、10年たって、今だから言えることを教えてくれって聞いたんですよ。なんでダメだったんですか。一言ですよ。『政治の力』だったって。圧力」
この点でも、攻勢的な立証活動が可能である。
その他には、被告の側の抗弁として、公共性・公益性を挙証しなければならないが、名誉毀損訴訟の実務において、公共性と公益性の立証のハードルはさして高いものではない。
スラップは、やられた被害者には面倒この上なく、社会的にも実害が大きい。しかし、この統一教会スラップには、反撃の貴重舞台設定が用意されている。攻勢的に闘って、統一教会の反社会性を徹底して立証する場となることが約束されている。
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初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.12.20より許可を得て転載
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