青山森人の東チモールだより…技能実習制度で東チモール人を採用か
- 2023年 1月 14日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
年末年始の自然災害
雨季の真っただ中にある現在ですが、今季の雨季は「雨季」というより「風季」といってもよいくらい強風が目立ちます。チモール島の東部から西部へ吹く強い風がチモール海のうえに浮ぶ雨雲を吹き飛ばしているかのように雨は僅かばかりで、その代わりに強風の被害が続出しました。年末年始、大雨の被害が大きく報道されたのは飛び地・オイクシでした。
政府の発表によると2022年12月20日から2023年1月3日までの年末年始の二週間において、強風によって全国で36棟が損壊の被害にあったとのことです。雨による被害も無いわけではなく、33棟が被害をうけました。強風への注意喚起は1月9日まで続きました。
就寝中の揺れ
強風から解放されたと思ったら、1月10日、誰もが寝静まっている午前2時50分ごろ、地震で目が覚めました。揺れ自体はさほど大きくなかったので「気にしない、気にしない…」と思いましたが、揺れがけっこう長く続いたので目がすっかり覚めてしまいました。近所では外に出る者もいて、特異な自然現象にたいして示す東チモール人独特の行動をとった者もいました。つまり石を金物に打ちつけてカーンカーンと鳴らす者もいたのです。おかげでこの日は寝不足に見舞われました。震源地はチモール島最東部から北北東約370kmの海底で、マグニチュード7.6と大きな地震でした。
10日朝、夜が明けてオーストラリアのニュースを見るとダーウィンがかなり揺れたことが大きなニュースになっていました。ダーウィンで暮らす東チモール人にきくと、「怖かった」と返事がきました。少なくとも首都ディリ(Dili、デリ)ではわたしの周りの者たちにとってこの地震は話題になるほどではありませんでした。しかしインドネシアでは建物や人的被害も出たようです。
5人の東チモール人が日本へ
各新聞またはTVニュースによれば、1月10日、在東チモールの木村徹也・日本大使はSEFOPE(職業訓練雇用庁)とジョゼ=ラモス=オルタ大統領と協議・会談をしました。内容は東チモール人労働者の日本派遣についてです。TVニュースでは、大使館員ではなさそうな数人の日本人を伴った木村大使がラモス=オルタ大統領と挨拶し会談する様子が流れました。
木村大使は、日本政府は技能実習制度を通して雇用で東チモール人を支援する用意があると述べ、「この制度は、若者たちに仕事を与え、給料を与えるだけではなく、知識と能力、とくに技術を高めてもらうことを目的としている」と大統領府で語ったとのことです。また高知県(の会社か?)がまずは少人数からこの制度を適用することをSEFOPEと協議するために東チモールを訪問したとも述べ、近日中に両者は最終的な合意に達して、5人の東チモール人が日本で仕事をするものと期待する、と木村大使は述べました(『東チモールの声』、2023年1月11日)。したがって木村大使と一緒にいた日本人はおそらく高知県関係者ではないかと思われます。
また各報道によれば、5人の東チモール人が従事するのは農業部門とのことです。先ずは試験的に少人数から始め、将来的に人数を増やしていく方針とのことです。そして近く日本側と東チモール職業訓練雇用庁のあいだで契約書が交わされるであろうと報道されました。
日本は東チモールにしっかり伝えてほしい
気になるのは、現在この技能実習制度は見直しがかけられている最中であることです。日本の木村大使が技能実習制度について語った「若者たちに仕事を与え、給料を与えるだけではなく、知識と能力、とくに技術を高めてもらうことを目的としている」というのは制度の趣旨です。実態ではありません。趣旨と実態がかけ離れている状況にたいして、去年7月、古川禎久前法務相が技能実習制度にたいして「長年の課題を歴史的決着に導きたい」と本格的な見直しを表明しました(『東京新聞』、2022年11月10日)。日本政府は制度の見直しを検討する有識者会議を設置、去年12月14日に制度の存廃や再編を含めて検討する初会合が開かれました。
この有識者会議の座長を務めるのはJICA(国際協力機構)の田中明彦理事長です。JICAといえば東チモールにとって重要な国際支援組織です。初会合ではこの制度が国際貢献に寄与しているという意見が出た一方で、この制度を人権侵害と結び付く構造的な原因だと捉える意見が出たと報じられ、田中理事長は初会合後の記者会見で制度の存続と廃止の両方の立場から意見が出たと述べたと報じられました(NKHや共同通信のインターネット・ニュースを参照)。
この有識者会議は今年の春に中間報告をまとめ秋ごろに最終報告書を提出する予定です。日本へ派遣される東チモール人労働者は、最初は5人に限り試験的に派遣されるとしたのは、おそらくこの有識者会議による最終報告を待つという意味合いがあるのでしょう。
技能実習制度にかかわる以上のような現在進行中の出来事を日本大使館は東チモール側に伝えたでしょうか。伝えたのなら良いのですが、もし伝えていないのならそれは誠意にかける行為です。
日本は国際貢献の名のもとに人権侵害をするな
去年の11月半ば東チモールで、SEFOPEは日本に派遣する20人の東チモール人を募集し、近く6人を派遣し農業分野の仕事に就くことだろうと報道されました(『タトリ』、2022年11月18日)。この時点の報道では「技能実習制度」という制度名は出てきませんでした。そして今年になって1月10日の報道でTechnical Intern Training (技能実習)というこの制度名が報道のなかで登場したのです。
見直しが検討されている技能実習制度をめぐる日本の報道をちょっと眺めるだけでも、「安価な労働力」「長時間労働」「賃金の不払い」「悪質な仲介業者」「搾取」「人権侵害」……こうした表現が目に飛び込んできます。このような劣悪な世界にアジアの友人を飛び込ませてはなりません。
技能実習制度見直しのために政府が有識者会議を設置し議論が開始される直前、『東京新聞』(2022年11月10日)は、「技能実習適正化法5年」「やまぬ搾取に厳しい視線」「『歴史的課題』解決へ」「政府、年内にも有識者会議」と、大小中さまざまなタイトルをつけ、技能実習制度の問題点を端的に指摘する記事を載せました。このなかで同記事は、「日弁連は今年(2022年)四月、実習制度の廃止を求める意見書を公表。米国務省は各国の人身売買についてまとめた報告書で、人権侵害の温床であるとの見方を示した」と報じています。アメリカ政府に「人権侵害の温床」と見られているのが技能実習制度であることを東チモールは認識する必要があります。東チモールがこうした評価を充分に認識したうえで、同制度が現在見直し検討中であることをふまえ、試験的に少人数を採用してみましょう…というのなら今後の成り行き(とくに日本側とSEFOPEの交わす契約書は重要)を注視するということになります。
外国人労働者の問題は日本人の問題
少子化・労働力不足が深刻化している日本にとって海外からの若い労働力は日本を支える貴重な存在です。海外からの働き手を大切な仲間として歓迎し、日本で働けて良かったと喜んでもらえる社会にまず日本が変っていかないと日本は衰退の一途をたどることは容易に想像がつくことです。例えば健康保険の適用や家族と同居できるなど、日本社会の一員として生活できるような仕組みを整えて外国人労働者を受け入れるのが本筋です。人権侵害は論外!差別・偏見などはもってのほか!日本は防衛費を倍増し軍拡をしている場合ではありません。
このように考えていくと、海外からやって来て日本で働く人たちの抱える問題を考えることは、自分自身の足元を見つめることであると気づかされます。
青山森人の東チモールだより 第480号(2023年1月13日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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