ロシア航空業界の崩壊が始まった
- 2023年 3月 6日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
ロシアの御用メディアは目を通す時間がもったいないからとご無沙汰していたが、偶然Moscow Timesの事故リストのような記事をみつけた。
「Sanctioned Russian Aviation Sector Hit By Slew of Incidents in New Year」と題する一月十日付けの記事で、機械翻訳すれば、「制裁を受けたロシアの航空業界、新年に相次いで事故が発生」になる。urlは下記の通り。
https://www.themoscowtimes.com/2023/01/10/sanctioned-russian-aviation-sector-hit-by-slew-of-incidents-in-new-year-a79903
経済制裁が始まった当初からロシアの航空業界は崩壊すると予言されていたのに、いつまで経ってもその予兆がみえなかった。やっと最近になってその予兆らしきものがYouTubeにでてきたかと思っているところに、Moscow Timesの記事がでてきた。記事によると年が明けたらまるで堰を切ったかのように事故が頻発し始めた。都合の悪いことを隠蔽するのが当たり前のところで、ここまで立て続けとなると、本当にこれだけなのかと疑いだしてしまう。事故リストのような記事の要点を機械翻訳すると下記になる。
ロシアの航空部門は、2023年の最初の数日間、多くの事故に見舞われた。
専門家や業界関係者からは、28件の飛行機事故を含む130件以上の事故が発生した2022年のフライトの安全性について懸念の声が上がっていた。
<1月5日>
ユタカ航空の旅客機がエアコンの故障により西シベリアに着陸を余儀なくされた。
検査結果を発表した地方検察庁は、ボーイング737型機が最近同じルートを飛行していたと発表したが、機体の製造元は明らかにしなかった。
<1月6日>
263人を乗せたタイ行きのアズール航空国際線は、フロントガラスの破損により離陸後6時間でノボシビルスクに戻りました。
エカテリンブルク行きのレッドウィングス国内線は着陸装置の引き上げに失敗し、離陸後カザンに戻りました。
<1月8日>
ポベダの旅客機がペルミの滑走路から雪の中に滑り落ち、パイロットはモスクワへのフライトを中止させることになりました。ペルミ空港によると、乗客は無傷で脱出し、機体に損傷はなかった。
<1月9日>
ブラツク発モスクワ行きのS7航空エアバスA320neoは、化粧室の故障により、4時間の飛行後にカザンに着陸させられました。
ソビエト時代のAn-2旅客機が氷点下のロシア極東で墜落し、2名が死亡、4名が負傷した。
別のソ連製輸送機IrAero An-26は、ロシア極東で飛行中に貨物室のドアが一部開いていた。
乗客が撮影したドラマチックな映像には、高高度で減圧された機内に座り、大きな風が吹き、開いたドアが背景に見える様子が映っていた。
乗客によると、パイロットがマガダン行きの飛行機をヤクーツクに戻したとき、荷物や帽子の一部が吸い出された。乗客31人に怪我はなかった。
(筆者追記:機体名のAnはアントノフ社製を示す。アントノフ社はウクライナの航空機メーカで、ソ連時代なら国産機と言えたが、今は外国製)
<1月10日>
ノルドスター社のボーイング737型機が北極圏北部の凍結した滑走路から滑落し、乗客116名と乗員6名のモスクワへのフライトが遅延しました。点検の結果、同機はその日のうちにフライトを実施できるほど安全であると判断されました。
大手飛行機メーカーのボーイングとエアバスは、外国製の新型ジェット機やスペアパーツの納入を停止し、ロシアの航空会社は接地した航空機を「共食い」させることを余儀なくされた。
「共食い」とは、ある機体から別の機体が必要とする部品を外して使うことをいう。「共食い」は始まりだせば加速する。
航空機メーカが規定している飛行時間に達した時点で、メーカが指定してした部品を新品と交換しなければならない。事故が起きてからの修理とは違う。自動車の車検を想像すれば分かりやすい。
障害が発見された機体は最寄りのメンテナンス体制が整った飛行場まで自力で飛んでいかなければならない。自動車と違ってレッカー車で牽引でというわけにはいかない。世界には機体メーカと協力して、多くはハブとよばれる飛行場にメンテナンス体制が敷かれている。
Moscow Timesは昨年八月九日付けで「共食い」メンテナンスについてロイター電を配信している。
「Sanctions-Hit Russia Starts Stripping Aircraft for Parts ? Reuters」、機械翻訳すれば、「制裁を受けたロシア、航空機の部品取り開始 – ロイター」になる。urlは下記のとおり。
https://www.themoscowtimes.com/2022/08/09/sanctions-hit-russia-starts-stripping-aircraft-for-parts-reuters-a78535
記事の主要部を機械翻訳した。
ロシアの2030年の航空産業戦略は、2025年まで同国の航空機の3分の2を耐空性に保つために、外国製航空機の一部を「部分的に解体する」ことを想定している。
ロイターは、少なくともほぼ新品のエアバスA350とロシア製のスホーイ・スーパージェット100が接地され、解体されている、とある情報筋の話を引用している。
アエロフロートのボーイング737型機とエアバスA320型機の一部も、他の航空機の耐空性を維持するために、機材が持ち去られている。
フライトデータに基づくロイターの計算によると、アエロフロートの旅客機360機のうち、少なくとも50機が7月以降離陸していない。
アエロフロートは、今年の4月から6月にかけて、昨年同時期と比較して22%の輸送量の減少を記録している。
二次的制裁のリスクは、ロシアに制裁を課していないアジアや中東諸国の企業が、必要な航空機の装備を供給することを思いとどまらせると予想される。
ロイターはある関係者の話を引用し、「部品1つ1つに独自の(固有)番号があり、もし書類にロシアの航空会社が最終的な買い手になるとしたら、中国もドバイも誰も供給には応じないだろう」と述べている。
では「共食い」しなければならない機体がどれほどあるのかが気になるが、これに関してはIBA社が分かりやすいデータを昨年の四月二五日つけで公表している。
「How many leased aircraft have returned from Russia?」機械翻訳すれば、「ロシアから戻ってきたリース機は何機?」になる。url は下記のとおり。機種ごとに台数をグラフで表しているから分かりやすい。
https://www.iba.aero/jp/insight/how-many-leased-aircraft-have-returned-from-russia/
記事の主要部は下記のとおり。
紛争が始まってからEUのリース終了期限である3月28日までに、ロシアの航空会社が運航する外国製航空機の数は513機から484機に減少していることが明らかになった。このうち400機以上が現在ロシアに駐機しており、貸主がさらに多くのリース機を回収することはますます困難になっている。
リース契約の終了にもかかわらず、2022年4月第3週には約300機の航空機が有効であると確認され、そのほとんどがロシア国内の路線で運航しています。これは、ロシアが運航する外資系航空機の約60%に相当します。このような高いレベルの運航は、2022年4月にクレムリンによって可決された、航空機をロシアの登録簿に載せることを認める新法によって支援されています。これにより、バミューダやアイルランドなどの地域が、国際法に反してこれらの航空機の耐空証明を停止する措置を取ることを回避することができます。
記事では、ロシア以外の企業からロシア航空会社にリースされた機体がざっと四百機だが、本当にそれだけなのか気になってGoogleで調べてみた。Googleに「How many leased aircraft have returned from Russia」と入力したら、昨年三月二九日付けのCNBCの記事がでてきた。
Aircraft leasing giant casts doubt on renting to Russian airlines again after Putin seizes planes
昨年三月二九日時点でロシアでは970機の飛行機が運用されてきたが、うち500機は海外からのリース。 https://www.cnbc.com/2022/03/29/aircraft-leasing-giant-casts-doubt-on-renting-to-russian-airlines-again.html
キーとなるのは次の一文。
「Rented planes are key for Russia’s fleet of more than 970 planes with about 500 managed by a foreign owner, according to aviation data and consulting firm Cirium」
機械翻訳すると、
航空データおよびコンサルティング会社Ciriumによると、ロシアの970機以上の航空機のうち、約500機が外国人オーナーによって管理されているため、レンタル機が鍵を握っている。
ボーイングとエアバスの協力なしには、ロシアの航空業界はなりたたないことがわかる。このなりたちようのない状況は航空業界だけでも西側の半導体を必要とする業界だけでもない。製造業で使用する機械や設備や施設用の制御装置をロシアは国産化できていない。多くの機械や設備を主にドイツ、フランス、スイス、スウェーデンなどからの輸入に頼っている。輸入機の多くにはそれらの国々の制御装置が搭載されている。
機械部品の加工工場で使われている工作機械にはCNC(Computerized Numerical Controller)やPLC(Programmable Logic Controller)が搭載されている。CNCは、Siemensとファナックが世界市場を席捲している。
石油化学プラントや製鉄や製紙、上下水道や発電施設などではDCS(Distributed Control System)が使用されている。DCSはSiemensやHoneywellなどの数社が市場を支配している。日本勢では横河電機がよくしられている。ヨーロッパ勢ではSiemensに加えてABBやGroup Schneiderあたりになる。
いずれにしても、制御装置単品を交換品として入手しても、機械やプラントのメーカしか稼働条件を設定する知識がない。ということは、製造業の基盤である製造設備のメンテナンスができないということで、ロシアでは毎日何台もの機械や設備が稼働できない状態に陥っている。ウクライナ戦争の兵站の根幹となる製造業の弱体化が加速している。
p.s.
<Moscow Timesの記事の信頼性>
新聞社や報道機関の信頼性を評価するサイトの一つとしてMedia Bias/Fact Checkがある。Media Bias/Fact CheckはMoscow Timesを中道からちょっと左によった新聞社と評価している。urlと評価は下記のとおり。
https://mediabiasfactcheck.com/moscow-times/
Overall, we rate the Moscow Times Left-Center Biased based on an editorial bias that generally favors the left and rejects the authoritarian right. We also rate them High for factual reporting due to proper sourcing and a clean fact check record.
2023/1/16
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12872:230306〕
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