青山森人の東チモールだより…大統領は違法行為をしていないか
- 2023年 4月 8日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
復活祭の休暇に入った東チモール
復活祭4月9日(日)の季節を迎えていますが、宗教的なその雰囲気は2日(日)の「枝の主日」(棕櫚の主日、Domingo de Ramos=聖枝祭)を迎えるその前日である1日(土)から始まりました。
先月3月の大半はこの時期にしては湿気がさほど高くはなく降水量も少なかったのですが、3月の最終週になってから雨が強く降り、湿気もジリジリと高くなりました。そしていま、雨季独特のジメジメとした日々を強いられ体調管理にも注意を強いられています。
土砂降りによって行動の自由が奪われているとき、首都デリ(ディリ、Dili)が2021年のように4月の頭に大洪水に見舞われるのではないかと心配をしてしまいます。いまのところ都市部は大洪水の被害を受けていませんが、TVニュースの映像を見れば西部山岳部は土砂崩れなどで交通障害がでています。報道されないだけであって実際はかなりの被害がでている可能性があります。
東チモールは復活祭の休暇(4月6日~10日)に入りました。大雨の被害が出ませんように。
ハイブリットな皆既日食が東チモールで
東チモールの国会議員を決める国政選挙の選挙運動は今月4月19日から始まりますが、その翌日の20日、こちら東チモールは皆既日食という天体ショーが観られることになっています。この日に起こる日蝕は、経路に沿って金環日蝕から皆既日食へ、または皆既日食から金環日蝕へ変化するまれな金環皆既日食(hybrid eclipse)とのことです。
4月20日、皆既日食の経路が陸地にかかるのは、オーストラリア広しといえどもほんの少しだけ、西部のエクスマウス半島のみ、その次に東チモールの東部、最後に西パプアとなっています。エクスマウス半島では、現地時間で11時29分に60秒だけ、東チモールではビケケ地方南岸部に位置するベアソに現地時間(日本時間と同じ)13時19分に74秒、ラウテン地方の北岸に位置する美しき沿岸の村・コムに同13時21分に74秒、そして最後に西パプアで現地時間13時40分に71秒、それぞれ観ることができるようです(『ガイドポスト』、2023年3月196号)。
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チモール島全体図。
2023年4月20日の皆既日食の経路(『ガイドポスト』[2023年3月196号]やGreat American Eclipseなどを参考)。
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皆既日食といえば、東チモールと同じくポルトガル植民地であったアフリカのサントメ イ プリンシペでの観測によってアインシュタインの一般相対性理論が実証された1919年5月29日のそれが有名です。東チモールで観測される皆既日食も歴史上重要な足跡を遺してくれれば、東チモールの若者が少しは科学へ関心を寄せてくれるかもしれないのになあと淡い期待を抱くとともに、選挙戦が始まって政治的に興奮した者が皆既日食を体験して妙な高揚感に達して変な行動をとらないように祈るしだいです。
どうなる、選挙法改正案
さて、3月14日にジョゼ=ラモス=オルタ大統領によって拒否された選挙法改正案が、3月20日に国会で再可決されたものの、三分の二の賛成票に達していないので無効であるとラモス=オルタ大統領や野党CNRT(東チモール再建国民会議)が主張している件ですが、どうなったのでしょうか。
まず3月27日にラモス=オルタ大統領は国会で再可決されたことを伝える手紙を国会から受け取ったと報道されました(前号の東チモールだより)。このとき大統領は受け取ったのは手紙であって選挙法改正案の再可決の確認でもなく、三分の二の賛成票に達していないので再可決は無効であると従来の主張を繰り返しました。
ところが、3月30日、国営放送局RTTL(東チモールラジオTV局)などは、国会はすでに3月23日にラモス=オルタ大統領へ再可決された選挙法改正案を送ったのだと報道したのです。もしそうだとすると3月27日のラモス=オルタ大統領の発言はいったい何なのでしょうか。もし3月23日に本当に国会が大統領へ再可決案に送ったならば、そして遅くても24日に大統領がそれを受け取ったと仮定すれば、憲法により8日以内にこれを公布しなければなりません。この「8日」という解釈を、土日を除いた平日のみが含まれるという寛大な解釈をしても4月4日~5日が公布の〝〆切日〟となります。
4月5日の時点でこの件について報道されないままだったので、何がどうなっているか、わたしはさっぱりわかりませんでした。まさか復活祭の休日モードに包まれて一時休戦となったとか…?
言葉を弄する大統領
4月6日になって上記の件が報道されました。選挙法改正案を大統領は公布しない、なぜだろう、いつ公布するのか、野党・民主党の議員が自分にはいえない・わからない、とインタビューに応える報道があり、そしてGMN(国民メディアグループ)はラモス=オルタ大統領に直接マイクを向けました。大統領は基本的に3月27日と同様の対応を示しました。つまり絶対多数に達していないのだから再可決は無効で公布できない、再採決の結果を伝える手紙は受け取った、というのです。さらに大統領は、選挙法改定案がなくても5月21日の投票に影響はない、ともいいました。この日大統領は、三分の二の賛成票に達していないとはいわず、絶対多数に達していないといい、「三分の二」という数字を口にしませんでした。そして「国会議長から再可決された選挙法改定案を受け取りましたか」という質問にたいして、「再採決の結果を伝える手紙は受け取った」と答え、再可決された選挙法改定案を受け取っていないとは答えないのです。
つまりここで憲法解釈だけではなく、《国会で再可決された選挙法改定案を国会議長から大統領に送られた》、いや、《大統領が受け取ったのは手紙だけ》、という解釈で齟齬をきたしているわけです。
《再可決されたとされる選挙法改定案が国会から届いたが、わたしは憲法に即してこれを公布しない》と大統領がいえば話はまだ分かりやすいのですが、そもそもこの「手紙」とはいったい何でしょうか。再可決された選挙法改定案を「手紙」と大統領が勝手に呼んでいるのでしょうか。
国会から再提出された法案を憲法に則して大統領は8日以内に公布しなければなりません。その再可決が無効であると大統領が主張するならば、控訴裁判所に違憲性を諮るなど何らかの形で法的手続きをしなければならないのではないでしょうか。それをせずジャーナリストにマイクを向けられたときに「三分の二の賛成票に達していないから」「絶対多数に達していないから」公布しない、とただ口を開くだけでは国会から再提出された法案を大統領は放置していることになり、違法行為をしていることになるのではないでしょうか。ラモス=オルタ大統領は言葉を弄し政治を弄んでいるようにしかわたしには見えません。
青山森人の東チモールだより 第485号(2023年4月7日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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