ウクライナ紛争:元スイス陸軍大佐/戦略アナリスト・ジャック・ボー氏に訊く 『内政上、ゼレンスキーが置かれた状況はきわめて不安定 』
- 2023年 6月 16日
- 評論・紹介・意見
- グローガー理恵
はじめに
マスメディアでは決して取り上げられることのないジャック・ボー氏のインタビューを和訳してご紹介させていただく。
戦略アナリストである、見識豊かなジャック・ボー氏が語る、洞察に満ちたウクライナ戦況の分析は、この戦争で実際に何が起こっているのか、その事実を探る上で非常に役立つ情報だと思う。
原文(独文)へのリンク:
https://zeitgeschehen-im-fokus.ch/de/newspaper-ausgabe/nr-8-vom-24-mai-2023.html#article_1516
ジャック・ボー氏について
ジャック・ボー(Jacques Baud): スイス人。ジュネーブの国際関係大学院で計量経済学の修士号と国際安全保障の修士号を取得し、スイス陸軍の大佐を務めた。スイス戦略情報局に勤務し、ルワンダ戦争時の東ザイールの難民キャンプの安全確保に関するアドバイザーを務める(UNHCR – ザイール/コンゴ、1995-1996年)。ニューヨークの国連平和維持活動局(DPKO)に勤務し(1997-99年)、ジュネーブの国際人道的地雷除去センター(CIGHD)および地雷対策情報管理システム(IMSMA)を設立した。国連平和活動におけるインテリジェンスの概念導入に貢献し、スーダンで初の統合型国連合同ミッション分析センター(JMAC)を率いた(2005~06年)。ニューヨークの国連平和維持活動局平和政策・教義部(2009~11年)、安全保障セクター改革・法の支配に関する国連専門家グループの責任者を務め、NATOに勤務した。
* * * * * * *
– スイスのメディア “Zeitgeschehen im Fokus (注目の時事問題)”から –
内政上、ゼレンスキーが置かれた状況はきわめて不安定
《ウクライナは2022年6月以来、11回の兵力動員をした状況にある》
〈2023年5月24日〉
インタビュアー:Zeitgeschehen im Fokus のトーマス・カイザー(Thomas Kaiser)氏
インタビューされる人:ジャック・ボー(Jacques Baud)氏 写真:ジャック・ボー氏
[Source: Zeitgeschehen im Fokus]
トーマス・カイザー: 我々のメディアには、プーチンの目標はウクライナを破壊して、そこで権力を握ることであったということが何度も述べられています。
ジャック・ボー: それは間違っています。 プーチンはそんなこと一度も言っていませんし、作戦方法が、それが目標でなかったということをはっきりと示していますし、今日においても、同じことが言えます。
このような主張は、陰謀論的なメディアに何度も出てきますが、これは誤りです。これは、2022年2月24日のウラジーミル・プーチンの演説に由来するものです。
彼はウクライナ軍に向かって、「ウクライナ軍はウクライナ政府にではなく、ウクライナの国民に誓いを立てたということを思い出して、命令を拒否して武器を捨てるように要求する」と呼びかけました。 彼の言葉はこうでした:『私はあなた方に、彼らの犯罪的な命令を遂行することを拒否するように求めます。直ちに武器を捨てて家に帰るようにと要求します。これは、ウクライナ軍に属する人でそのように行動する人は、敵対地帯から自由に離れて自分たちの家族のもとに戻ることができるということを意味します。」¹
ロシアがウクライナに介入した理由は、2014年以降のキエフ当局によるロシア系少数民族への虐待です。それには、一般市民への扇動的攻撃(これによって、この期間に1万人の市民が殺された)、ウクライナ保安庁(SBU)による拷問、² 差別法律(我々のメディアによって支持された)、その他の暴行が含まれます。2022年2月、ロシアの意図は、2021年3月のゼレンスキーによるクリミアと南部の奪還決定後に、攻撃に晒されたという住民を護ることでした。³
さらに、観察されることは、2022年6月にウクライナ軍のすべての装備が破壊された後、ゼレンスキーが欧米の兵器を要求し始め、ウクライナが軍事力を西側諸国に依存し始めたということです。4 夏の終わりには、最初の大きな粛清の波が起きました。2022年7月17日、ゼレンスキーは、”裏切りと敵との協力” という理由で、交渉を主張した官僚や治安庁のメンバーに対する、651件の捜査をするように指示しました。5 2022年の末には、人的損失が膨大になり、ウクライナが強制徴用を始めなければならない時でしたが、ゼレンスキーは2023年のはじめに、再び大規模な粛清を遂行しました。
また、我々のメディアは、ウラジーミル・プーチンによって表明された”非ナチス化”という目標について触れ、それはヴォロディミール ・ゼレンスキーの打倒を求めることに関するものであると主張し、その際、ヴォロディミール ・ゼレンスキーはユダヤ人であるからナチスではないと指摘しています。
しかし、ここでも我々のメディアは虚言しています。 もちろん、ゼレンスキーはナチスではありません。しかし、ウラジーミル・プーチンは、現在のウクライナ当局を呼ぶのに、決して “ナチス”という言葉を述べません。その代わりに、彼は”ネオナチ”という言葉を使っています。 私は、”ナチス”はドクトリンであり政治的イデオロギーであり、”ネオナチ”はドクトリンではなく、むしろ社会的行動であるということに注意しています。 その他の点で気づくことは、我々のジャーナリストの多くが、ウクライナのネオナチの思想に対して一度も疑問を呈することなく、それを伝えているということです。
しかも私は、モスクワがゼレンスキーを打倒する意思をもっているとは思いません。現在、確かにゼレンスキーは、ロシア人よりも彼の周囲環境を恐れています。
今日のウクライナにおいては、同様な緊張状態が観察されます。言い換えれば:国内においてゼレンスキーには安定した支持がないのです。 対外的にも、ゼレンスキーへの支持に疲れが出てきているのが見られます。彼が約束した ⁶ 、2022年の夏の大規模な反攻作戦は秋に延ばされ、それから冬に延ばされ、今度は2023年の春へと延期され、これも恐らく2023年の夏へと延期されることになるのでしょう。 ゼレンスキーは、ますます多くの兵器と弾薬を要求していますが、欧米にとって、これらを供与することは、尚いっそう困難になっているのです。ゼレンスキーはますます信用できなくなるし、これはモスクワにとってかなり有利な状況です。
トーマス・カイザー:最近、ウクライナの抵抗が強いためロシアの作戦が進まないと言われていますが、これは実際にそうなのでしょうか?
ジャック・ボー:いいえ、それは間違っています。 2022年の夏以来、ロシア軍は戦域に入ってくるウクライナの潜在能力を排除してきました。 ウクライナ人はロシア軍から奪われた領土を奪還しようとしているので、ロシア軍は事実、前進する必要はなく、敵を破壊するために、ただ敵を待つだけでよいのです。これは、まさに、2022年の10月にウクライナにおける特別軍事作戦地域の総合軍グループの総司令官に任命された7 [ロシアの] セルゲイ・スロヴィキン将軍が言った言葉なのです。 『我々には別の戦略がある。…….我々は前進速度の速さを争うのではなく、我々の各兵士を護って、前進してくる敵を計画的に粉砕するのだ。』
我々の ”専門家” が軍事的成功を作戦地域での前進キロメートルで測ろうとしているのに対して、ロシア人は打撃を与えた敵の数で測るのです。
ですから、目標は領土の征服ではなく、軍事的潜在力の破壊なのです。バフムート【*訳注1】については、ロシア情報部の分析は、この都市はゼレンスキーにとって重要であり、彼は、バフムートがロシアの手に落ちるのを防ぐために、そこに軍隊を派遣する用意があるということです。 それに基づいて、スロヴィキン将軍は “ミートグラインダー” 作戦を開始して、その遂行をワグネル・グループ【*訳注2】に委ねました。 それは、都市を占領するのではなく、ウクライナ人に、そこへ来させて彼らを計画的に破壊するというものでした。
スロヴィキンは、この作戦を6ヶ月間続けるべきだと決定しています。その目標は、都市を占領することではなく、ウクライナ軍を破壊することです。ウクライナに領土を奪還するようにと⁹ 、しきりに促す8 西側諸国のおかげで、ロシアの戦略はうまくいったのです。ウクライナ軍がやって来て、ロシアの大砲に粉砕させられるのです。バフムートで何人のウクライナ兵が死んだのかということを言うのは難しいですが、恐らく、その数は非常に多いでしょう。2023年4月末、作戦は正式に終了し、ロシア参謀本部はワグネル・グループを正規部隊に置き換える準備を進めています。
ウクライナ軍の塹壕 ーバフムートの戦いー 2022 年 11 月
(Mil.gov.ua, CC BY 4.0, Wikimedia Commons)
問題は、ワグネルがバフムートの守備隊を壊滅させる奮闘で、バフムートの都市を徐々に自分たちの支配下に置くようになり、4月末にはバフムートのほんの一部だけがウクライナ軍に占領されているということです。 恐らく、威信にかかわることが理由になっているのかもしれませんが、大部分の仕事を終わらせるために懸命に戦ってきたワグネルの戦闘員をガッカリさせないためにも、プリゴジン【*訳注3】は仕事を”最後までやり通して” バフムートを占領したいのです。
問題は、ロシア軍参謀本部が、2022年10月に計画されていたように、ワグネルのための砲撃支援を止めたことです。 このロシア軍参謀本部の計画を超えて仕事を続行したいプリゴジンは、バフムートの都市が彼のワグネル・グループによって完全に占領されるまで支援を受けたいと、激怒しているのです。これが、5月のはじめに観察された危機であり、我々のメディアは、この危機について理解することなく報道しました:このような緊張感はなかったのです。なぜなら、ロシアの作戦が機能していないのではなく、計画されたよりもうまく機能しているからです。
2022年11月に ”ニューヨーク・タイムズ” が「バフムートはキエフの軍隊にとって “ブラックホール” であり、彼らの軍隊をバフムート市に配置することで、ウクライナが他の優先事項を遂行することを妨げている」と10 、とてもよく説明していました。”ニューヨーク・タイムズ” は、スロヴィキンの戦略を非常によく理解していたのです。私はいまだに、NZZ (ノイエ・チュルヒャー新聞)や Blick (ブリック)、RTS (Radio Télévision Suisse)などが、なぜ、そこまでウクライナを憎んで、このような悲劇的な過ちを犯すようにウクライナを駆り立てるのか、理解できません!
トーマス・カイザー:なぜバフムートはウクライナにとって重要なのでしょうか?
ジャック・ボー:バフムートは防衛線の要所であり、これが陥落すれば、ロシア軍はクラマトルスク、その後はドニエプル川の広大な平原に達することができるようになるかもしれないのです。そうであるから、バフムートはウクライナ側にとって重要性があるのです。
ロシア軍は作戦術を習得しています。すなわち、彼らは自分たちの兵士の命を救うためには、ある地域を放棄して、後にその地域を、もっと有利な条件で奪還するという用意があるのです。問題は、ウクライナ軍にはこの能力がないことです:もし彼らが土地を失うとすれば、それを奪還できるようなことはないでしょう。このことが、ロシア軍がハリコフ領域(2022年9月)とケルソン領域(2022年10月)を放棄した理由なのです:彼らにはほとんど死傷者がいませんでしたが、ウクライナ軍には何千人もの死傷者が出たのです。このことも、ウクライナ側が領土にしがみつくことを好む理由となっているのです。最近発表された、バフムートでのウクライナ軍による反撃はすべて失敗に終わっています。
バフムート郊外の無人地帯、2022 年 11 月
(Mil.gov.ua, CC BY 4.0, Wikimedia )
ロシア側にとっては状況が異なってきます。彼らが本当に、ウクライナの領土内にさらに進出するつもりなのかどうか、はっきりしません。さらに、彼らの目標はバフムート市を占領するということではなく、単にバフムートの守備隊を壊滅させることであったことが知られています。結局は、ゼレンスキーが、そのことをロシア側にとって容易にしてくれ、ウクライナの兵士は無用な死を遂げたのです。 この理由から、内政上、ゼレンスキーの立場はきわめて危なっかしいものになっています。彼は、もはや彼の部下やウクライナの人々からの信頼を得ていません。2022年、ウクライナの大学は生徒数の82%増を記録し、中には、その学生数を12倍に増やした大学もあったのです。 11 ウクライナ人は、もう戦場に行きたくないのです。
トーマス・カイザー:ロシアは、自治を宣言した州においては前進していないことがわかります。 ということは、これらの州でも同じ戦略であるということなのでしょうか?
ジャック・ボー:ロシアがこれらの地域に関して、どのような戦略を遂行するのか、わかりません。ザポロージエとへルソンは完全にロシアの支配下にあるわけではありません。しかし2022年2月以後のロシア側の目標は、領土の征服またはウクライナを占領することではなく、”非武装化” および ”非ナチス化” によってドンバスの住民への脅威を終わらせることであったということを思い出してください。
彼らは2022年3月末に”非ナチス化”の目標を達成し、(事実上の)”非武装化” の目標は、2022年5月末に一回目(軍備の破壊によって)と2022年末に2回目(人的能力の破壊によって)の”非武装化”を達成しました。そのためウクライナは2022年6月以来、欧米の軍事支援に依存しており、11回の兵力動員を行いました。
すでにセルゲイ・ラブロフが述べたように、ロシアは長距離兵器の配備を防ぐために、前進して領土を征服する必要があり、彼らは、もちろん、そこを再び見捨てるような意図はない、ということです。ロシアは『ウクライナを征服したいのだ』とか『キエフを占領したいのだ』などと主張する報道は、単に愚かな憶測を広めているに過ぎません。これは、今までに一度もロシア人の話を聴いたことがない人たちから出てくる憶測なのです。プーチンの演説から陰謀論をでっち上げる代わりに、プーチンの言葉に耳を傾け、2022年の2月と3月にヴォロディミール・ゼレンスキーが望んだように交渉させていたのなら、これらの領土は恐らく、今日、ウクライナの領土として留まったことでしょう。
トーマス・カイザー: しかも興味深いのは、現実は明らかに違うのに、今日に至るまで、プーチンは西に行ってバルト三国 [訳注:エストニア、ラトビア、リトアニアの三国] やポーランドなどを征服したいのだと語られてきたことです。
ジャック・ボー:まったく愚かなことです。エストニアは国のすべての大砲をウクライナに提供しました。これは明らかに、エストニア人は自国が脅威に晒されていると本気で信じていないことを意味します。このようなつくり話を広める人は状況の分析を行っていません。それだから私は、例えば ”ブリック(Blick)“ や “NZZ“ のようなスイスのメディアは、ウクライナの墓穴を掘る存在だと言っているのです。当然、彼らだけではありませんが、ヨーロッパにおける我々のメディアは情報よりもプロパガンダを促進してきました。
孫子を読めば、もし戦いに勝ちたいのであれば、自分を実際よりも弱く見せなければならないということを理解するでしょう。 戦争における偽情報はそのためにあるのです。面白いのは、ロシアはこの仕事をやる必要がなかったということです。我々のメディアがその仕事をやってくれたのですから!我々のメディアによれば、2022年3月には、ロシアにはミサイルも大砲もなく12 、空軍もなく、将軍もいなく、戦車もなし、13 すべての兵員を失い、指揮力も兵站も劣っていたということだったのです。
こうして我々のメディアは、 敵を過小評価するという、戦争において犯しうる最悪の過ちを我々の指導者に、そして恐らくはウクライナの指導者にも犯させたのです。そうすることで、彼らは、ウクライナの破壊に寄与しており、この国が置かれている状況についての共同責任が大いにあるのです。
我々のメディアも政治家も “希望的観測” を促進し、自分たちの希望を事実として提示してきました。それとともに、我々の政治家もウクライナ自体も完全に誤った方向へと進みました。 私がウクライナ人であったのなら、メディアを罵倒するでしょう。なぜなら、彼らはウクライナ人を完全に間違った方向へと誘導し、自分たちはロシア人に勝てるのだ、だから戦争を続行しなければならないという、ウクライナ人の憶説を煽ったのです。
トーマス・カイザー:最近、メディアは、ウクライナの攻勢が差し迫っており、ロシアがそれを恐れているということを何度も報道しました。これは恐らく、彼らによって提示された報道の同じ章に属するものでしょう。それで、ウクライナの攻勢はどこにあるというのでしょうか?
ジャック・ボー:ゼレンスキーは最近、ウクライナの反攻のためにはもっと時間が必要だと発表しました。西側諸国は、もはやこの反攻を信じておらず、”投資収益”を求めています。バイデン大統領は、ウクライナを武装させるために、すでに米国の備蓄から200億ドル相当の物資を引き出しています。14 これはウクライナの年間防衛予算のおよそ4倍弱に相当するのです! 15 バイデンは来年、大統領候補として立候補したいと考えていますが、ウクライナにおける彼の政策のバランスが、彼を不利にさせるかもしれません。
ウクライナの反攻については、去年の夏から計画されたものと同じです。去年の夏、ゼレンスキーは百万人規模の攻勢を実施すると発表しました。さらに彼はこれまでは70万人であったと付け加えました。70万人という言明はウクライナ軍のサルーシュニ司令官によっても広められましたが、彼らは100万人規模の攻撃を遂行したいのです。
この攻勢は去年、秋に延期され、12月には冬に延期されました。我々は攻勢をクリスマスに期待し、それから1月、2月、そして3月となりました。今、最初の戦車がウクライナに到着しました。なぜなら西側諸国が兵器を送ったからです。今、ウクライナは攻勢を始めると言っています。 先週、ゼレンスキーはBBCに「もう少し時間が必要だ」と語りました。これは、ウクライナがこの攻勢を開始することができないのだということを意味しています。
2019年3月、ゼレンスキーの選挙直前、ゼレンスキーの顧問で側近のオレクセイ・アレストヴィッチは、ウクライナのテレビのインタビューで、「ウクライナがNATOに加盟するためにはロシアとの戦争が必要である」と言明しました。 16
もっと具体的に言いますと、彼は「ウクライナはロシアの敗北が必要なのだ。この敗北はロシアの崩壊につながるものではなくてならない。この脅威を排除しなければならないのだ」と述べたのです。
この条件が必要だったのは、 ウクライナがロシアと対立している状態ではNATOに加盟することができなかったからです:北大西洋条約 第5条【*訳注4】が適用されなければならないリスクが大きすぎたのです。しかし、それから、アレストヴィッチは、はっきりと、こう述べたのです:「このロシアの敗北は、兵器、兵力の提供やウクライナ上空に ”飛行禁止区域” を設定する上で、NATO諸国が支援することによって達成されなければならない」。
言い換えれば:ウクライナは、西側諸国が能動的に支援することを約束するのであれば、ロシアと戦争をする準備があったのです。ウクライナはその約束を守ってきましたが、実際には、西側諸国は介入しませんでした。それで、ゼレンスキーは兵器の追加を要求しているのです。
今日、これらの欧米の兵器は、ロシアに対して決定的な勝利を収めるには、もはや十分ではないのです。 期待は膨大ですが、現実はもっと控え目なものです。この理由から、現在、西側諸国は数ヶ月前には供給したくなかった兵器を供与しているのです。
レオパルド2戦車やチャレンジャー戦車は、ウクライナの地形に適していないようですし、M777155mm榴弾砲やカエサル 155mm自走榴弾砲は、この戦争には脆すぎますし、ハイマース[M142 高機動ロケット砲システム]やJDAM [統合直接攻撃弾]は、ロシアによる対抗措置のため効果がなくなっています。 ウクライナに供給されたパトリオット対空ミサイル(スイスも購入を計画)は ロシアの極超音速ミサイルに対して効果がないようです。ゼレンスキーは何度も、西側からの物資について苦情を訴えました。今、西側諸国は結果を見たいのです。これが、新しい兵器を調達するためのゼレンスキーの世界ツアーの理由です。
西側諸国の方は、面目を失わずに解決策を見つけ出すために、成功に見えるような何かを見ようと焦っています。 そしてウクライナ側の方は、高い代償を払わなければならないことを承知しているので、反攻を急いでいないのです。
トーマス・カイザー:最近、ウクライナが行ったドローンによる攻撃は、例えば、燃料庫を攻撃することなどをしましたが、我々のメディアは、これをウクライナの大成功として評価しました。軍事的観点から言って、これをどのように判断すべきでしょうか?
ジャック・ボー:これは、我々のメディアによって支持されているテロのような攻撃の一部です。 これらの攻撃は戦闘の経過に何の影響も与えず、単に市民の間に不安感をもたらすだけですから、テロなのです。 今回の場合は、燃料庫に関したものであり、その被害は非常に限られたものでした。 とても劇的でしたが、被害はごく僅かでした。 明らかに、それが兵站に悪影響を及ぼすようなことさえもなかったのです。テロリズムに良いも悪いもありません。単にテロリズムがあるだけです。
このことは、ウクライナ人によって主導されたテロは支持するが、アラブ諸国から出たテロは厳しく非難するという、我々のメディアの新たな展開ぶりを示しています。すでにスイスのメディアが、このような相反するスタンスをとっていることは引用しましたが、何人かのジャーナリストを知っていれば、これは、それほど驚くことではありません。
トーマス・カイザー:ロシアがウクライナの兵器庫を砲撃した後、大気中の放射線量が増加しました。 このことを説明していただくことは可能でしょうか?
ジャック・ボー:最近、ロシア軍はウクライナの兵器/弾薬庫、とくにパウロフラードとフメリニツキーを攻撃しましたが、そこには西側諸国によって供給された装備がありました。フメリニツキーの倉庫には、英国から供給された劣化ウラン弾が保管されていたようです。いくつかの情報源によりますと、この弾薬庫の破壊が、その地域におけるガンマ線量の増加につながったということです。17 現 在の時点では、弾薬庫への攻撃とガンマ線量の増加との間に明確な因果関係を確立させることは難しいです。
しかしながら、 劣化ウラン弾の使用は、住民にとって有毒な粉塵を発生させて永続的な環境の汚染を必然的に伴うことが知られています。 ただし、この種の徹甲弾は、住民にとってそれほど危険ではないタングステン弾と容易に置き換えることが可能なのです。このように、ウクライナ政府は明らかに、民間人にとって、そのように危険な弾薬をドンバス地方で使用することに何の良心の呵責もない、ということがわかります。
ところで、セルビアですでに論争を巻き起こしていた 18 【*訳注5】、この武器〔訳注:劣化ウラン弾]の供給を英国が決定したことに対して、 欧米の国もヨーロッパの環境政党も何の反応も示しませんでした。 しかし、誰が ”ウンターメンシュ〔劣等人種] ” の命を配慮すべきだと言うのでしょうか?【*訳注6】
トーマス・カイザー:ボーさん、インタビューに答えてくださって、ありがとうございます。
ー翻訳終わりー
以上
* * * * * * * * * * * * *
《 訳注》
【*訳注1】バフムートの戦い:バフムートはウクライナ・ドネツィク州にある都市。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻のうち、バフムートをめぐるロシア軍とウクライナ軍による一連の軍事衝突。ウクライナ東部におけるドンバスの戦いの一環。[Source:バフムートの戦い]
【*訳注2】ワグネル・グループ:ロシアの雇い兵組織。ロシアのサンクトペテルブルクに本部を置く、準軍事組織。雇兵ネットワーク。民間軍事会社。プーチンの事実上の私兵とも表現される。 [Source:ワグネル・グループ]
【*訳注3】エフゲニー・プリゴジン:ワグネル・グループの創設者。2014年にウクライナのドンバス戦争に戦闘員を派遣するために民間軍事請負業者ワグネル・グループを設立した。ロシアのオリガルヒのひとり。〔Source: エフゲニー・プリゴジン]
【*訳注4】北大西洋条約 第5条:集団防衛。 欧州又は北米における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす。締約国は,武力攻撃が行われたときは,国連憲章の認める個別的又は集団的自衛権を行使して,北大西洋地域の安全を回復し及び
維持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び共同し
て直ちにとることにより,攻撃を受けた締約国を援助する。〔Source: 日本外務省サイト]
【*訳注5】セルビアですでに論争を巻き起こしていた:スプートニクの2021年6月29日付の報道によると、1999年のNATOによる劣化ウラン弾の使用と、空爆による環境負荷の高い施設の破壊により、セルビアは現在、ヨーロッパ全体のがん死亡者数のトップになっていると、セルビア腫瘍学・放射線医学研究所(IORS)のダニカ・グルジッチ所長が語ったという。〔Source: Serbia Leads in Cancer Deaths in Europe ]
【*訳注6】しかし、誰が ”ウンターメンシュ〔劣等人種] ” の命を配慮すべきだと言うのでしょうか?:これはジャック・ボー氏の真意ではなく、皮肉を混えた批判の言葉であることにご注意ください。
《参考資料/記事(原文から)》
¹ http://en.kremlin.ru/events/president/transcripts/67843
²https://www.hrw.org/news/2016/07/12/human-rights-watch-letter-prime-minister-justin-trudeau
³ «Нардеп від ‹Слуги народу› Семінський заявив про «позбавлення конституційних прав росіян, які проживають в Україні»», AP News, 2 juillet 2021 (https://apnews.com.ua/ua/news/nardep-vid-slugi-narodu-seminskii-zayaviv-pro-pozbavlennya-konstitutciinikh-prav-rosiyan-yaki-prozhivaiut-v-ukraini/)
4 «Ukraine dependent on arms from allies after exhausting Soviet-era weaponry», RFI, 10 juin 2022 (https://www.rfi.fr/en/ukraine-dependent-on-arms-from-allies-after-exhausting-soviet-era-weaponry)
5 Max Hunder, «Ukraine’s President Fires Spy Chief and Top State Prosecutor», Reuters/US News, 17 juillet 2022 (https://www.usnews.com/news/world/articles/2022-07-17/ukraines-president-fires-security-service-chief-and-prosecutor-general)
⁶ «Ukraine attacks Russian-held Kherson, plans counterattack», aljazeerah, 12 July 2022 (https://www.aljazeera.com/news/2022/7/12/ukraine-strikes-russian-held-kherson-as-kyiv-plans-counterattack)
7 «Суровикин: российская группировка на Украине методично ‹перемалывает› войска противника», TASS, 18 octobre 2022 (https://tass.ru/armiya-i-opk/16090805)
8 «Darum wird die Rückeroberung der Krim ein Blutbad», Blick, 29.11.2022 (Aktualisiert: 30.11.2022) (“>https://www.blick.ch/ausland/experten-sehen-neue-eskalationsstufe-darum-wird-die-rueckeroberung-der-krim-ein-blutbad-id18098469.html“>https://www.blick.ch/ausland/experten-sehen-neue-eskalationsstufe-darum-wird-die-rueckeroberung-der-krim-ein-blutbad-id18098469.html</a)
9 «Après avoir repris plus de 50% du territoire perdu en février, le plus dur reste à faire pour l’Ukraine», RTS.ch. 23.11.2022 (https://www.rts.ch/info/monde/13565087-apres-avoir-repris-plus-de-50-du-territoire-perdu-en-fevrier-le-plus-dur-reste-a-faire-pour-lukraine.html)
10 Thomas Gibbons-Neff & Natalia Yermak, «In Ukraine, Bakhmut Becomes a Bloody Vortex for 2 Militaries», The New York Times, 27.11.2023 (https://www.nytimes.com/2022/11/27/world/europe/ukraine-war-bakhmut.html)
11 https://gordonua.com/ukr/news/society/v-ukrajini-za-rik-vijni-kilkist-cholovikiv-studentiv-platnoji-formi-navchannja-zrosla-na-82-u-dejakih-vishah-u-12-raziv-zmi-1661079.html
12 https://www.bbc.com/afrique/monde-63276927
13 https://www.dhnet.be/actu/monde/2022/08/24/la-russie-fait-face-a-une-penurie-de-munitions-de-vehicules-et-de-personnel-leur-moral-est-au-plus-bas-V7KDYW7UAJCH3MNO4BNJUXBS6E/
14 https://comptroller.defense.gov/Budget-Execution/pda_announcements/
15 https://tradingeconomics.com/ukraine/military-expenditure
16 «UKRAINE 24: Ukrainian Nostradamus who predicted war with russia in 2019 with stunning accuracy», YouTube, 3 avril 2022 (https://www.youtube.com/watch?v=RZ3GsYPRkv4)
17 Yevgeny Kuklychev, «Huge ‹Mushroom› Blast in Khmelnytskyi Reignites ‹Depleted Uranium› Claims», Newsweek, 15.05.2023 (https://www.newsweek.com/huge-mushroom-blast-khmelnytskyi-reignites-depleted-uranium-claims-1800443)
18 https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(21)00397-1/fulltext
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13079:230616〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。