Global Head Lines: ガザの飢饉は、パレスチナの食糧システムに対するイスラエルの長期戦争の究極的結末である。 ―戦争の結果、ガザの全農地の少なくとも18%が被害を受けた。
- 2024年 2月 2日
- 評論・紹介・意見
- ガザの飢饉パレスチナの食糧システム川畑 泰
<はじめに>
イスラエルによるガザ侵攻によって少なくとも2万6,000人ものパレスチナ人の命が奪われ、多くのパレスチナ人が傷つき、住居、インフラが甚大な被害を受けていますが、それに加え、ガザの農業もイスラエルの攻撃のため被害をこうむっていることをニュースウェブサイト truthout がリポートしています。以下要約して報告します。カッコ内は記者 リーナ・ファースト=アライ Leanna First-Arai が記事作成にあたって用いた情報源。文章は器械翻訳を短縮、修正したものです。
原題:Famine in Gaza Is a Culmination of Israel’s Long War on Palestine’s Food System
At least 18 percent of all agricultural land in Gaza has been damaged as a result of the war.
source: Famine in Gaza Is a Culmination of Israel’s Long War on Palestine’s Food System | Truthout/January 10, 2024
国連緊急救援担当トップ、マーティン・グリフィスは、ガザはほとんど「居住不可能」であり、220万人の住民は「過去最高レベルの食糧不足」に直面していると判断している。専門家たちは、イスラエルがガザ地区への食糧援助を禁止していることを指摘し、イスラエルの人権団体B’Tselemの声明によれば、「食料は僅かしかないが、この食料を配給することが非常に困難である。それは次のような理由のためである。絶え間ない爆撃、破壊された道路、頻繁な通信の遮断、数十万人の国内避難民が狭い地域に押し寄せ避難所が溢れかえっていること」。少なくとも32.6平方キロメートルの耕地が、10月以降のイスラエルによる、破壊、車両移動、爆撃、砲撃などの戦時活動の結果、被害を受けた。この被害は、ガザの全農地の少なくとも18%に相当するが、過小評価である可能性がある。(国連衛星センター( UN Satellite Centre 、UNOSAT)Sentinel-2衛星が撮影した画像から作成されたデータによる。2017年から2022年までの6つの栽培シーズンと比較して評価されたもの。世界的な農民運動「ラ・ヴィア・カンペシーナ」の地域コーディネーター、モアヤド・ブシャラット Moayyad Bsharat, regional coordinator for the global peasant movement La Via Campesina.へのインタビュー)
最初の2カ月間(うち7日間は停戦状態)だけで、研究者らは28万1315トンの二酸化炭素が排出されたと推定している。排出量の大部分は、米軍の補給飛行やF-16やF-35による航空機ミッション、そしてイスラエル軍の大砲、装甲車、ハマスのロケット弾によるもの。この排出量は、1年間に稼働する石炭火力発電所75基分にほぼ相当し、20カ国の年間排出量を上回る。(1月9日にSocial Science Research Networkで発表された新しい研究と上記のデータから)この研究には、広範囲に及び大きな影響となっている土壌や農業システムへのダメージに起因する排出量は含まれていない。
ガザ地区中部のデイル・アル・バラ東部 eastern Deir al-Balah in the central Gaza のあるオリーブ農家は1956年以来、1.5エーカーの土地でオリーブの木立を手入れしてきたが、20年以上にわたってイスラエルの攻撃の標的になってきており、2000年にイスラエル占領軍がオリーブの木250本すべてをブルドーザーで破壊した。ヨルダンとパレスチナを拠点とする民衆組織「自然保護のためのアラブ・グループ」 the Arab Group for the Protection of Nature の助けにより、その後、果樹園を回復したが、現在「無差別爆撃」を受けているため、自分の土地にアクセスすることができないという。
タイムズ・オブ・イスラエル The Times of Israel 紙によると、戦争はイスラエルの農地にも被害を与えており、イスラエルの多くの農家は、農業被害はハマスのロケット攻撃によるものだとしているが、イスラエルのネティボト Netivotにある野菜農家の農園はハマスによる被害よりもイスラエル国防軍(IDF)による被害のほうが大きいと言う。イスラエル軍による大砲による砲撃の反動で土壌が粉砕され、防護ネットに堆積した砂塵が日光を遮り、今シーズンのトマト、ルッコラ、コリアンダーなどの作物を枯らしているという。イスラエルの農家は一般市民の助けを受けているが、パレスチナ人農家は作物の大きな損失に直面している。
イスラエル国防軍によるパレスチナの食糧システムへの攻撃は、水域にまで及んでいる。あるガザの漁師は15年来の封鎖によって、彼の家族や他の漁師たちのパレスチナ水域へのアクセスが制限されていると語った。この漁師は2021年に標的にされ、漁網のほとんどを失ったという。「現在の状況は悲惨です。港も船も大きな被害を受け、戦争が終わった後、どのようにして仕事に戻れるのか、(私たちは)不安を抱えたままです」と言う。「包囲と食糧不足の中で、私たちは食糧とタンパク質の供給源として狙われていると感じています」
1993年のオスロ合意で、イスラエルはパレスチナの漁業範囲を20海里とすることに合意したが、2012年の停戦では6カイリに減少し、2013年にはイスラエル南部へのミサイル発射に対応して3カイリに減少した。イスラエルの人権団体B’Tselemによれば、これは「集団懲罰であり、ガザ漁民の生活に深刻なダメージを与える」行為だという。
パレスチナ人権センター the Palestinian Centre for Human Rights の報告書によれば、イスラエルによるガザの漁民への攻撃はほぼ日常化しており、2016年の10カ月間だけでも、パレスチナ水域内で地元の漁民に対する攻撃が133件発生している。さらに、2023年8月にイスラエル海軍がガザ地区北部の海岸沿いの漁船に向けて発砲し、催涙ガスを発射したこともあり、200人の漁師が平和的な抗議を行った。
パレスチナの食糧システムの現在の荒廃に関してマギル大学の生態経済学者であるレア・テンパーLeah Temper, an ecological economist at McGill University が語ったように、現在の危機的状況は、「極めて不安定なインフラをイスラエルが何十年にもわたって組織的に標的にしてきたこと 」の結果である。テンパーは「環境正義のグローバル・アトラス」the Global Atlas of Environmental Justice と呼ばれるウェブサイトの共同設立者であり、その記録によると1967年以来、イスラエルはガザの海岸沿いの海洋空間の85%をアクセス不能にしてきたと指摘している。
「これは、土地の剥奪から始まり、環境の汚染と破壊に至るまで、パレスチナで進行中のエコサイドの一部であり、生命と生活の存続をさらに脅かしている」とテンパーは言う。「イスラエルは、ガザでの戦争犯罪が引き起こしている健康や環境への影響、伝染病のリスクから逃れることはできない。」
米国はイスラエルの国防予算全体の16%と武器の80%を供給しているが、世界的な農民運動「ラ・ヴィア・カンペシーナ」の地域コーディネーターであるモアヤド・ブシャラット氏 Moayyad Bsharat, regional coordinator for the global peasant movement La Via Campesina は、パレスチナ農民が健全な農業経営を回復するためには、長期にわたる、国際社会からの「数百万ドル」の援助と支援が必要になるだろうと語った。
最近の一連の攻撃で何百もの井戸が破壊された。1995年以来イスラエルは、ガザ地区の地下にある帯水層へのアクセスを除いて、地中海とヨルダン川の間の水資源を独占的に管理してきた。ブシャラット氏によれば、攻撃が収まれば、作物の生育に必要な微生物を含む土壌の上部30~50センチを修復するには、およそ5年かかると予想され、白リン弾の影響を受けた場所ではさらに長くかかる。その後、柑橘類は、実がなり始めるまでに植え付けから3年から5年、オリーブでは5年から7年かかる。イスラエル環境保護省は、取材時までにコメントを求めても回答しなかった。学者たちは、入植者による植民地支配の暴力においてエコサイドが歴史的に果たしてきた役割や、イスラエルのケースにおけるグリーンウォッシングへの米国の加担の影響に改めて注目している。(グリーンウォッシング greenwashing : 人々や組織、国家が、実際には環境破壊的な行動をしているにもかかわらず、自分たちを環境に配慮した進歩的な存在として表現すること)
米国務省は、この地域に気候変動に配慮した農業を導入するための7000万ドルの計画を2023年7月に発表した。ヨルダンで太陽エネルギーを発電し、イスラエルの海水淡水化プラントに電力を供給するプロジェクト・プロスペリティのようなグリーンウォッシュ・プロジェクトによって、イスラエルは自らを環境管理者であり、地域の他者を助けることを目的とする慈悲深い勢力であるかのように見せかけることができる。しかし、このプロジェクトは、ヨルダンのイスラエルからの水購入への依存を強めるものである。イスラエルはヨルダン川から水を迂回させることで、ヨルダンの水不足を部分的にひきおこしているのである。
パレスチナの気候活動家で、クイーン・マーガレット大学 Queen Margaret University の博士課程に在籍するマナル・シュカイールは、「このような(グリーンウォッシングは)、バイデン政権が全面的にバックアップしているガザでの大量虐殺を頂点とする長年の犯罪から注意をそらすものです」と語った。ブシャラット氏は、エコサイド、ひいてはジェノサイドの隠れ蓑として、米国とイスラエルのグリーンウォッシングに批判的な注意を喚起することが不可欠だと言う。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13522:240202〕
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