西洋はもはや世界の嫌われ者?
- 2024年 4月 3日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
先日、知人から三行の短いメールをもらった。そこには「発売予定の本の宣伝なので……」という前置きではじまって「別の視点を提供……」と続いて、AERAの記事のurlが書かれていた。
自分から見にいくことはないが、せっかく紹介していただいたのだしと、urlからAREAの記事へ入って、あまりの表題と前振りに驚いた。
世界屈指の知識人エマニュエル・トッドが断言!「西洋はもはや世界の嫌われ者である」
https://dot.asahi.com/articles/-/213751?page=1
AREAがトッド先生にインタビューして編集した記事の気になる個所を書きうつしておく。
まずは、前振りから、
「家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、『ソ連崩壊』から『米国の金融危機』などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。彼は、終わりの見えないウクライナ戦争が、世界のリーダーとしてふるまっていた西洋諸国が『世界の嫌われ者』であるという事実を明らかにしたと語ります。その真意を、2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します」
「ウクライナ戦争が明らかにした『西側の失敗』」
「著書の中で多くの国が中立的な立場にとどまることさえせずに、ロシア寄りに傾いていると述べています」
「あなたは世界的な対立を『西側対東側』ではなく、『西洋対世界』であると表現しています。国際秩序に反するロシアの侵略に、怒りを感じている日本人にとっては、非常に驚くべきことでしょう」
「戦争はロシアの侵攻によって始まりましたので、人々は『ロシアは悪者』『ウクライナ人は善人』と考える傾向を持っています」
「しかし、私が基本的に関心を持っているのは、経済的な観点から見た『現実への落とし込み』です」
「ロシアのGDPとベラルーシのGDPを合わせると、世界の西側のGDPの4.9%くらいだったと思います」
「しかし今、私たちが目の当たりにしているのは、戦争がしばらく続いているということ、そして、西側諸国は信じられないほどの生産力不足に陥っており、アメリカは同盟国とともに、ウクライナ軍に必要な155ミリ砲弾を供給できていないという事実です。ミサイルなども同様です」
「私たちが直面しているのは、もはや存在しないも同然と考えていたロシア経済や、ロシアの産業システムの力です。実際、ロシアの産業は西側諸国全体よりも生産性が高いようです。しかも、ロシアがより多くの武器を必要となった場合には、中国には提供できる力があります」
「西洋はもはや、『世界の嫌われ者』である」
「あなたは『西洋対世界』と、私がこの1年以上、言い続けてきたことをまとめてくださいました。ただまずはっきり言いますが、私は自分自身を西洋人だと思っています。私はフランス人で、イギリスともつながりがあります。だから、私が西洋人の視点から話していることは、念頭に置いて下さい」
「ここ数年、『世界中の人々はアメリカを嫌っており、ロシアの勝利を心から望んでいる』ということが、少しずつ見えてきました」
「インドは現在、世界で最も人口の多い国ですが、これも良い例ではありません。旧ソ連時代のロシアとインドの間には、古くからのとくに軍事的なつながりがありますから」
「そうではなくて、私にとって最も驚きだったのは、イスラム諸国が、ロシアを好んでいるように見えることです。最近では、イランだけではなく、サウジアラビアのようなアメリカの長年の同盟国もロシアとの取引を好んでいるようです。実際、石油価格も、イスラム諸国やロシアが求めるものになっており、アメリカの石油はあまり考慮に入っていないかのようです」
あまりにも表層すぎやしないか?ショッキングな話題になりそうなところをつまみ食いしたガクシャさんのご高説。炎上商法と五十歩百歩といったら失礼になるのか?書き写しているだけでも胸糞悪くなる。何を言う気にもなれないが、最低限言っておかなければならないこともある。
トッド先生の言がどれほど忠実に日本語で示されているのかわからない。もしかしたらAERAの商業主義が交じった脚色かもしれないないが、まずもってタイトル「西洋はもはや世界の嫌われ者である」はどう考えても事実に反する。
ここでいう世界が何を示しているのか?地球上のどこまでを世界と呼んでいるのか分かないが、西ヨーロッパの国々の植民地とされ、富を収奪され住民を虐殺され文化を根こそぎ破壊された国々の人たちは、とうの昔から西洋(旧宗主国)を嫌ってきたはずじゃないのか?もしそうでなかったなら、大きな犠牲を払ってまで独立したのはなぜなのか?説明がつかない。
トッドがもし「もはや」と言っているのであれば、AERAの編集部は、その真意をたださなければならない。それはマスメディアがマスメディアであらんとするなら避けては通れない責任のはずだ。聞いたことをそのまま巷に流すのではなく、聞いたことの真意と歴史的、そして現在の在り様まで含めて事実を確認しなければならない。
いやいや今でも旧宗主国と手を握っている人たちがいるじゃないかという反論が聞こえてきそうだが、その人たちは旧宗主国との関係を保つことでおいしい立場にいられる一握りの利権屋にすぎないだろう。
アフリカの紛争国のニュースでロシアの国旗を振り回している写真をみたが、直近のロシアからの援助から生まれる衝動に近いものもあるだろうから、ロシアと同盟関係と結論を出すのは早急にすぎやしないか。国旗を振り回しているから、その国が――その国の国民が事実を知ってロシアを支持しているのかどうか確認するのもマスメディアの責任のはずだ。利権屋の使いっ走りか、プロパガンダに乗せられた衆愚のしたことに過ぎない可能性すらある。
日本やヨーロッパの国々(とくにドイツ)と伝統的な製造業、たとえば製鉄や自動車や家電製品で競争するのは得策じゃないと考え、アメリカは八十年代に大量生産型の製造業を基盤とした経済構造から開発を基盤とした経済構造に転換するために驚くほど多くの血を流してきた。それをみて頭の近視の日本の政治屋やマスコミは、アメリカ人は日本人のように真面目に働かないからだといい、Japan as number oneと悦いっていた。
バイオとコンピュータの応用技術と金融そして軍備……でアメリカは世界の最先端を走りつづけている。世界のどこにそのアメリカと互角に渡り合っている国があるのか?ロシアの先端科学と産業がアメリカを凌駕しているとでも言うのか?どこにそのようなデータあるのか?
「私が基本的に関心を持っているのは、経済的な観点から見た『現実への落とし込み』です」はいいが、軍事予算の規模と軍需産業をみて、経済的な観点?仮にも経済学をかじった人間ならそんな馬鹿なことを言い出すとは思えない。
アメリカには二十年、三十年とやっても成果があがらないかもしれない先端領域に莫大な資金を投入し、そこで一生をかけた研究をし続ける研究者が後を絶たない。日本も中国もアメリカが開発した――実用化されたか、実用化間際のものを取り込んで、ささっと結果を出し続けてきた。ささっと成果を上げるのが当たり前になってしまった社会では、二十年、あるいは三十年後に成果があがるかもしれないものに資金が投下されることはない。そんなことをしていたら、ときには考えているだけでもマイナスの評価を下される危険がある。そのような社会背景のもとでは次の世界を背負って立つような新しい発見も発明も技術も生まれない。
ましてやヨーロッパ経由か日本や中国経由、あるいは諜報活動で得た知見から作り上げた二次的三次的科学技術でどうのこのなどパーフォーマンス以外のなにものでもないじゃないか。
世界屈指の知識人と持ち上げて、話題を提供すれば金になるマスコミに踊らされてきた人たちの話を聞くことがあるが、ああそういう人たちのいるんだなと驚き、呆れることがある。巷を賑わしている学者や知識人のなかには大勢と違うことを口にしてパーフォーマンスでしか生きようのない人たちもいる。
p.s.
<フランス人なんだったら他国についてああだのこうだの言う前に自国の新植民地主義をなんとかしろ>
エコノミストOnlineに興味深い記事がある。
「『おしゃれで知的でリベラルな国』フランスがアフリカでやらかしている『ゲスの極み植民地経営』の恐るべき実体(立沢賢一)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201012/se1/00m/020/003000d
2020年10月17日
箇条書きされた問題点を書きうつしておく。
1) 欧州連合(EU)の共通通貨ユーロが1999年から流通を開始したことで、CFAフランの交換レートはユーロの固定相場制で1ユーロ = 655.957CFAフランと定められており、フランスが決定し管理しています。
ここで問題なのはCFAフランの交換レートが非常にCFAフラン高の水準で固定されてしまっていることです。
CFAフランを使用している多くのアフリカの国々はその豊富な天然資源を輸出していますが、CFAフランが高く設定されていると価格競争力が弱まってしまいます。
日本で円高になると輸出企業がダメージを受けるのと同じ理屈です。
CFAフランの通貨価値は本来ならアフリカ側の経済状況を考慮もしくは反映して決まるべきです。
ところが、CFAフランはユーロと固定されていますから、ユーロ高になればCFAフランも高くなるため、CFAフランを使用する国々は輸出が低迷し、産業化も進捗せず、経済成長の妨げになってしまうのです。
2) 中央銀行が保有する資産の50%をフランス国庫に預けなければならないという現制度は、本来、アフリカの経済振興に使うべき資産をフランスに召し上げられてしまっていることを意味します。
アフリカの経済活動で得られる、年間約5000億ドル(約54兆円) 以上もの資金がフランス国庫に献上されているということです。
これに関して、フランスはアフリカを失うと経済力が第三世界レベルにまで下落すると以前シラク大統領が言及したことからも窺えます。
因みに、残りの50%は2つのフラン圏の中央銀行(BCEAOとBCEAC)で管理されます。
3) 西アフリカ中央銀行(BCEAO)の役員会には2名のフランス人役員が常駐していて、しかも満場一致でなければ意思決定ができないルールになっていますから、フランスが加盟国の金融を実質的に支配していることを示唆しています。
CFAフランの問題については、分かりやすいYouTubeもある。ご参考までに。
1) 99%の人が知らない「フランス最大の闇」
https://www.youtube.com/watch?v=KIWq8XgeM2k&t=147s
2) フランスの闇を暴露します【CFAフランをわかりやすく解説】
https://www.youtube.com/watch?v=KIWq8XgeM2k
2024/2/18 初稿
2024/4/3 改版
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13641:240403〕
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