「存在の耐えられない軽さ 」からカバーが変わっても、 「日米合意・沖縄」はずしの新政権メディア戦略に注意し、 50年前の争点「安保」を7月参院選の焦点に!
- 2010年 6月 13日
- 時代をみる
- 加藤哲郎日米同盟の在り方沖縄特集:安保50周年菅直人・枝野幸男体制
映画「沈まぬ太陽」を見ました。国策航空会社での企業内差別・労使紛争や520人の犠牲者を出したJAL123便御巣鷹山事故をめぐる人間の劇を描いた山崎豊子原作の第33回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品。
渡辺謙演じる主人公のモデルとされる日航労組指導者小倉寛太郎氏の生き様も面白いですが、事故当時JALの客室乗務員で多くの同僚を失い、映画にも出演した青山透子『天空の星たちへ』(マガジンランド)によれば、事故の現実は映画以上にすさまじいものだったようです。
そこに紹介されている、事故後10年の1995年8月27日、米軍人コミュニティ向けの新聞『スターズ・アンド・ストライプス』掲載のアントヌッチ中尉の証言が、当時の日本での米海兵隊の役割を述べていました。
「当日8月12日の午後6時30分ころ、我々は沖縄から横田に向け飛行中、大島上空にさしかかった。」「(横田司令部から)ちょうど7時過ぎに123便がレーダーから消えた、と伝えてきた。 そして123便を捜索できないかと聞いてきた。 われわれは、あと2時間は飛べる燃料を持っていたので機首を北に向け、捜索に向かった。 」「午後7時15分、航空機関士が1万フィート付近で雲の下に煙のようなものが見えるのを発見したので、ゆっくり左に旋回し、そちらへ方向を向けた。御巣鷹山の周辺はとても起伏が多かった。…山の斜面は大規模な森林火災となり、黒煙が上がり、空を覆っていた。時刻は7時20分だった。」「当機は8時30分まで旋回を続けた。そのとき、海兵隊のヘリコプターが救助に向かっているので方向を知りたがっている、といわれたので、墜落現場までの方位を教え、当機のレーダーで地上から空中までを探してみた。 8時50分までに救援ヘリのライトを視認できた。ヘリは偵察のため降下中だった。 午後9時5分に、煙と炎がひどくてとても着陸できないと海兵隊が連絡してきた。位置を少し移動して二人の乗員をホイスト(ウインチで吊り下げ)で地上に降ろすつもりでいた。 われわれに、司令部に連絡してくれと頼んできた。私が司令部に連絡を取った。 」(しかし司令部からは)「即刻、基地に帰還せよ。海兵隊も同様」と命令された。 私は「了解。基地に帰還する」と応答した。 」「われわれの到着から2時間経過した午後9時20分に、最初の日本の飛行機が現れた。 管制から日本の救難機だとの知らせを受けた。 日本側が現場に到着したことで、安心してその場を引き上げた。」「翌日のニュースや新聞を見て、われわれは愕然とした。 ニュースは、日本の捜索隊が墜落地点を発見するのが、いかに困難をきわめたかを伝える報道で溢れていた。事実、まだ事故機残骸に到着していなかった。」
――実際、日本の救援隊が現場に到着したのは、墜落から12時間後のことで、その間に多くの生命が失われました。米国の海兵隊って、何のために日本にいるんでしょうか?
鳩山首相を戴く「存在の耐えられない軽さ」内閣は終わりました。でも、民主党の党内事情で、鳩山・小沢体制から菅直人・枝野幸男体制に代わっただけで、米国海兵隊の役割や「抑止力」の議論、総じて普天間基地辺野古移転の日米合意への沖縄県民の怒りと本土への問題提起は、突如としてマス・メディアの紙面・画面から消えました。1週間前の政局の焦点は日米合意と「政治とカネ」であったのに、論点は一斉に「小沢対反小沢」に切り替えられ、菅直人が「反小沢」にシフトして民主党代表に選ばれると、「サラリーマン家庭・市民運動出身の政治家」、「財政再建を唱えて消費税引き上げも認める」新首相への期待が連日報じられました。ちょうど郵政民営化選挙の時の小泉首相のように、「小沢支配の排除」で民主党が再生するかのように。世論調査は、軒並みV字型で内閣支持率60%に回復(図の64%は読売新聞)、参院選での投票先=民主党も反転上昇を始めました(毎日新聞)。ご祝儀支持率です。「県外・海外移設」・連立離脱で先週ちょっと上がった福島社民党も、新自由主義を純化して第3党にのし上がった「みんなの党」も、あおりを受けました。何しろ菅内閣の布陣は、一方で普天間問題で鳩山前首相と共に責任を負うべき外相・防衛相は留任なのに、前原グループをはじめとした民主党内新自由主義派登用が目玉になっていますから、争点がチェンジしたかたち。菅新首相自身、日米合意は継承とオバマ大統領との電話会談でも明言してますから、池田香代子さんやきつこの日記さんが述べているように、自らの過去の言説からの「転向」です。無論、沖縄では大きな失望と厳しい評価が出ていますが、「本土」の世論は辺野古移設に「賛成」51%(毎日新聞)と反転しました。その勢いで、米国大使は18日にも沖縄訪問とのニュースも。
もっとも、世論のご祝儀に舞い上がった民主党は、新装カバーがはがれないうちにと、国会での郵政法案、労働者派遣法改正案、インターネット選挙解禁法案等も先送りにし、国会審議は早々と終えて7月11日参院選へ突っ走ろうとする勢い。国民新党との連立合意を舌の根も乾かないうちに変更して亀井金融相を切り捨て、「政治とカネ」の後始末もかなぐりすてて、強引な失地回復をはかっています。早速首相側近ほか新閣僚の事務所費問題などほころびが出ていますが、「透明性」とはほど遠い説明。本来首相交代は総選挙の洗礼を受けてなすべきと言ってきたのは、野党時代の民主党です。わずか2日の党内選挙で一国の運命を変えようとする不遜は、必ずどこかでしっぺ返しを喰うでしょう。誰が仕掛け人と特定できるのはまだ先ですが、どうも大がかりな情報戦の仕掛け、マスコミの世論誘導、アジェンダ(論題)の組み替えが感じられます。
ネチズンは、カバーの変化に動揺せず、5月末の自分に立ち返り、沖縄現地の『琉球新報』/『沖縄タイムス』を毎日読み、参院選での自分の立場を措定しましょう。この政局全体の基本的争点は、日米同盟のあり方、政治とカネの問題にあり、経済・財政政策の背後には、民主党の公約「国民生活が第一」の筋が通っているかどうか、雇用・福祉・医療・年金・税制はどうなるかが問題になります。情報戦の中では、私たちのメディア・リテラシーが試されます。5年前の「小泉劇場」から何を学ぶか、一人一人の「市民の質」が問われています。
図書館に、『週刊 読書人』5月28日号掲載、西川正雄『歴史学の醍醐味』(日本経済評論社)の書評をアップ。鳩山内閣から菅内閣に代わったのと、明日から東京を離れ来週定期更新日は北海道・網走で北海道立北方民族博物館「保苅実写真展」に行っていますので、追加書き込みのかたちで臨時更新。来週はまた、別な政局になっているんでしょうか。菅首相が模範と考えているらしい、イギリスの議院内閣制。当のイギリスで、大きく変わりつつあります。(1)5月総選挙で、小選挙区制にもとづく2大政党制は、民意を反映できなくなり、菅首相の言う「第3の道」の労働党政権から、第3党を含む保守・自由連立内閣に代わりました。(2)その13年ぶりの政権交代の大きな原因は、労働党閣僚を含む国会議員経費の使途への国民不審、プールの修理費や高級家具、ペットのえさ代を請求したスキャンダルでした。少女コミックや音楽CDの領収書で事務所経費をごまかそうとする側近に注意。(3)イギリス議会では、今ブレア元首相らを召還して、イラク戦争への参戦を歴史的に検証する超党派の調査委員会が開かれています。6月9日のNHKクローズアップ現代でも取り上げられていました。鳩山・菅首相は、将来の沖縄米軍基地移設日米合意決定の歴史的検証に耐えられるのでしょうか? 冷静に、じっくりと、新政権の中身に注目しましょう。世界は大きく動いています。6月4―5日釜山でのG20財務相会議、日本は不在のところでギリシャ・ハンガリー危機が話し合われました。25日からは、カナダで先進国首脳サミット。毎年首相が代わるこの国には、顔見せ以上の役柄はまわってこないでしょう。 それでも、オバマ大統領と顔を合わせるのですから、菅首相に何が言えるか、注目しましょう。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
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