ロシアに似てきた中国の口調、それでいいのですか? ―日米比を「北大西洋条約」になぞらえるとは
- 2024年 4月 19日
- 評論・紹介・意見
- 中国田畑光永
先ごろの岸田首相のアメリカ訪問が歴代首相のワシントン詣でといささか趣を異にした点をさがせば、11日にフィリピンのマルコス大統領を交えて三国首脳会談が開かれたことだろう。
それもたまたま訪米時期が重なったからというのではなく、南シナ海の南沙諸島の海域における情勢が、中国のフィリピンに対する態度がますます横暴となってきたのを受けてのいわば対策会議であった点が、従来の日米首脳会談の枠組みから大きく足を踏み出した点が注目された。
それについて米バイデン大統領は、日米に韓国とかオーストラリア、ニュージーランド、あるいはインドなどを加えたさまざまの国家グループがこれまでに形成されているのを、ここでいわば「格子」状に重ね合わせて、中国を抑止しようとしているのだという解説がおこなわれていて、それはそれで説得力をもつ話ではある。
同時に日米安保条約はあくまで日本を守るためのものであるという従来の説明からはどう考えても、一歩足を踏み出すものであることは確かである。もっとも日本の防衛力を増強することについての議論はすでに数年前に終わって、防衛予算の大幅増額が現にスタートしている以上、その線上の話といえばそれまでである。
とつおいつ、こんなことを考えていると、「戦力はこれを一切保持しない」という憲法9条は何処へ行ってしまったのだろうとも思うし、一方では戦争だか内戦だか、何と言っていいのかわからない中でミサイルや爆撃機がとびかい、ガザのあんなせまいところで3万人以上も無辜の民が殺されたと聞くと、人間社会にはもはや道義もなにもなくなって、なんでもありの原始状態にもどってしまったのだろうか、などとも考えてみる。
すると16日、中國の新聞に「共同防衛じつは徒党の強盗」という論説が載った(新華時評)。強盗呼ばわりされたのはほかならぬ11日の日米比三国首脳会談である。
その論旨はー
「3国会談では、南海(南シナ海)においてフィリピンの航空機、船舶あるいは武装部隊に対するいかなる攻撃も米比共同防衛条約に抵触する可能性がある、とされた。米が言う『共同防衛』とは『友を守る』と聞こえるが、米国およびその同盟国には侵害される正当な権益などが本当にあるだろうか? 答えは『ない』である」、「北大西洋条約のような軍事集団であろうと、米日、米韓、米比などの双務軍事同盟は、いずれも『共同防衛』あるいは『集団防衛』の看板を掲げているが、行っていることは他国の合法的利益を侵害する悪事である。」
「もっとも典型的なのは、自ら『地域的、防衛的』組織と称する北大西洋条約である。冷戦時代、ソ連に対抗するために、米は『共同防衛』の触れ込みで一部の欧州国家を取り込んで『北大西洋条約』を成立させた。・・・目下、欧州大陸でまたも戦火が広がっているのは、米主導の北大西洋条約をたえず東へ拡張しようとする災厄である。」
われわれが最近、ちょくちょくテレビで目にするのは、中國大陸からははるかに離れた南沙諸島海域で、中國の大型巡視船が太い大砲のような筒先から海水の放射をフィリピン船に浴びせる場面である。以前は大型の船舶を数珠つなぎに並べてフィリピン船の行く手をさえぎっている光景であったが、最近はもっぱら水鉄砲ならぬ水大砲である。
地図を見ればすぐ分かるように、現場は中国大陸からはるか遠くに離れた海域であり、そこを中国領と主張する根拠は前世紀の前半に国民党政権が勝手に地図上に9個の点を並べた「九段線」(その後、共産党政権は北方に点を1個追加して、現在は「10段線」と称している)であるが、これはハーグの国際仲裁裁判所で確か2016年に「根拠なし」としりぞけられた。しかし、中國はその判決を「紙屑」と称して従わず、海域の「実効支配」をつづけているのである。
私が驚いたのは、日米比三国首脳会談を非難するにしても、中國が持ち出したのが北大西洋条約のいわゆる「東方拡大論」だからである。これはプーチンがしきりに東・中欧諸国が北大西洋条約に加入するのを非難する際に使う言葉だが、ロシアに隣接ないし近接する国家が北大西洋条約にぞくぞく加入したのは、ロシアが怖いからであって、北大西洋条約が原因ではない。同条約の「東方拡大論」はプーチンがウクライナ侵攻の理由ともとれる言い方をしたのは事実だが、それを中國が援用することは、みずからを悪役として認めることにほかならない。
どうも習近平の総書記三選以来の中国はどうも様子がおかしい。やがて何が起こっているのか、分かる日がくるだろうが、それまではこれも大きくはないが、愚説奇論の一つとして記憶しておこう。
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