2024年、この年に願う
- 2024年 5月 23日
- 評論・紹介・意見
- ウクライナ戦争パレスチナ問題松井和子
2022年ロシア侵攻で始まったウクライナ戦争、そして「殲滅する」と公言し、天上のない牢獄と言われるガザ地区の人たちを無差別に攻撃するイスラエルの戦争は、私たちが生きてきた時代の歴史、とくに第二次世界大戦後に端を発する戦争である。遠い国で起きていることであり、日本ではほとんど報道もされてこなかった事情もあるが、人ごとではない。日本の戦後とも通底していることに気づかされ、多くのことを考えさせられている。
ウクライナ戦争が始まってから、アメリカ、日本などの首脳が繰り返す「民主主義」「平和」「自由」「人権」の言葉がたいへん気になった。それらの言葉を私は、自国だけでなく世界中の人が安心して暮らすための大事な社会の有り様を示す言葉だと認識していた。障害者の権利、子どもの人権を守る基礎だと学んできた。しかし、西側諸国の首脳たちの言動から、人種や民族を分け隔てする何かがあると気づかされた。
為政者たちが何度も言う「民主主義」「平和」「自由」「人権」は、西側諸国のものであって、それ以外の国には適用されない?! 同じことが起きた時、それを良しと認めるのは同盟国のみ、「二重基準」になっているのだ。
また私たち世代の多くが認識する第二次世界大戦後植民地支配から独立しても第三世界と言われてきた国ぐには、貨幣価値も低く後進国とされてきた。東西の冷戦構造からは距離を置いていたともいえる国々だ。しかし、冷戦が終結した後も相変わらずそう呼ばれ、そう扱われている。
それら第三世界の国と同じように、ソビエト支配下にあって冷戦終結後に独立した国々もまた、第三世界と同じように扱われた。実際には自国の産業があって、成長の道を歩んでいたと思われるのだが、新自由主義が台頭しグローバル化した今、それらの国の産業は「西側先進国」の資本に抑えられた。貨幣価値は低いまま、先進国の安い工場となり、資本は握られ、その結果「先進国」と言われる国へ出稼ぎをせざるを得ない人びと・難民となる人びとが世界中に溢れてきた。
本当にそれでよいのだろうか。
人種、民族には何故格差があるのか? 人権とは何か。誰がそれを決めるのか。
今起きているガザ地区の人びとへの攻撃を、イスラエルの首相は「テロとの戦争」と呼び、軍事部門高官はガザの人たちを「動物が人間の顔をしている」「殲滅する」と公言する。
またウクライナでは、ロシアが侵攻する8年前から既に内戦が起きていた。2014年アメリカの後押しで親ロシアと言われる大統領がクーデターで倒された。新しいウクライナ大統領ペトロ・ポロシェンコは2014年10月23日オデッサでこう演説した。
「年金生活者と子どもたちに給付金を与えるが、あの者たちには与えない!
我々の子どもたちは学校にも幼稚園にも行くが、あの者たちの子どもは地下室に留める!
あの者たちは何もできないからだ。
そうすることによってこの戦争に勝つのだ。」
ポロシェンコ大統領が「あの者たち」と指していたのは、ロシア系の人びとが多い、ウクライナ東部のドンバス地方の人びとのことである注)。
この混とんとした世界は、「第三世界」と言われた国ぐにの変化を見せてくれた。
「第三世界」でなく「第三勢力」と言い表した方がよいかもしれない。自分たち自身の意見を世界に示している。ウクライナ戦争でもイスラエル戦争でも、その動きが見えている。
私は、世界が21世紀に移る頃、岐阜にある朝鮮学校と出会った。障害児教育現場で教員として勤めてきたその仕事を終えた直後だった。戦直後小学生だった私の身近にいた朝鮮の人たちを思い出した。
朝鮮学校授業参観を通して知った在日の子どもたちの実態は、教えてきた障害を抱えた子どもたちの実態と重なって、私には避けて通ることができない問題となった。友人たちと交流を始め、「ポラムの会」をつくり、出来ることに取り組んできた。
在日の方たち、子どもたちとの交流は私に多くのことを教えてくれた。敗戦によって新しく出直した日本であったが、戦前から続く蔑視の思想、在日朝鮮人への差別政策は、交流を始めて20年以上過ぎた今もそのままになっている。
そんな差別があるにもかかわらず、たくましく明るく生きる子どもたちの成長、子どもたちを支える先生たち・お父さんお母さんはじめ同胞の方たちの姿は、偏見を乗り越え前に進む人間としての価値の素晴らしさを教えてくれた。私が得た大事な宝ものである。
世界はどこへ向かうのか。
分断と差別を生み出す戦争、世界には反対である。誰もが安心して人権を行使できる日本社会を強く望み、この2024年がそうあることを願う。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13721:240523〕
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