窒素を自分で固定する植物の開発
- 2024年 6月 25日
- 評論・紹介・意見
- ビジネス傭兵藤澤豊
食物連鎖(Food Chain)を大雑把に説明すれば、「自然界における生物が、食うか食われるかの関係で鎖状につながっていて、植物は草食動物に、草食動物は肉食動物に食われる」になる。私たち人間は雑食で植物も食べるが肉も食べる。ただその食べる肉は植物が作り出す栄養に負っている。栄養だけではなく、植物は動物をはじめとする多くの生命体が必要とする酸素も作り出している。
私たちの食の始まりともいえる植物とは何なのか?とググってみたら、下記がでてきた。
「ふつう植物とは、水と二酸化炭素、光エネルギーから酸素と糖を合成する光合成、つまり酸素発生型光合成 (oxygenic photosynthesis) を行う生物と定義される」
光合成については中学校で学んだはずだと思っているが、具体的にどのような作用なのか、ざっと確認しておく。
光合成とは光を使って水と二酸化炭素から酸素と糖を作り出す反応。現在光合成を行っている植物や藻類などは、少なくとも二十五億年前には存在したといわれるシアノバクテリアからその機能を受け継いだと考えられている。シアノバクテリアは、太陽光エネルギーを利用して水を分解して、電子とプロトン(水素イオン)を取り出すが、この時の副産物として酸素を発生する。獲得した電子とプロトンを利用してその後の反応が進行して、糖のような有機物が合成される。
シアノバクテリアから光合成の機能を受け継いでをググっていくと下記の説明がでてくる。
「原始真核細胞にシアノバクテリアが共生したものが葉緑体ですか?」
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3676&key=&target=
日本植物生理学会のホームページ「みんなの広場から」
「原始的な真核細胞の内部に呼吸を行う細菌が共生してミトコンドリアの起源となり、その後、さらに光合成をおこなうシアノバクテリアが共生して葉緑体の起源となった」
植物が光エネルギーを利用して水と二酸化炭素から作りだす糖が食物連鎖の始まりなら簡単明瞭、なんで肥料などというものが必要なのか?化学肥料とはなんなのかググってみた。
<化学肥料の主元素>
「窒素N、リンP、カリウムKの3元素は肥料として特に大量に必要とされるため肥料三要素と呼ばれます。Nは葉、茎の伸長に、Pは開花や結実の促進に、Kは根や茎の強化に不可欠です。次いでカルシウムCa、マグネシウムMg、硫黄Sも比較的大量に必要となる元素です」
リンやカリウムは鉱石として採取されるが、チッソは大気中のからとりだしている。チッソと聞くと水俣病を連想する人も多いだろう。そう、あのチッソで、ウィキペディアには沿革が書かれている。
1908年 – 曾木電気株式会社と日本カーバイド商会が合併し、商号を日本窒素肥料株式会社に変更。
新卒で入社した会社で上司に水戸の農家が実家だった人がいた。水俣病の引き起こしたとしてチッソが糾弾されていたとき、「あのチッソのおかげで、農家がどれほどたすけられたか。日本の食料生産にどれほど寄与したのか知らないだろうな、東京生まれのお前にゃ想像できないだろう」と言われた。
大気の八割は窒素でDNAとタンパク質の重要な要素にもかかわらず、私たち人間は空気中から窒素を直接摂取できない。植物や動物を食べて窒素を摂取している。空気中から窒素を取り込めないということでは植物も同じで、土壌中の窒素を根から吸い上げるかたちで摂取している。
大気中にいくらでもある気体の窒素をなんとか固定して肥料にできないかと研究が続けられ、一九〇九年ドイツの化学者フリッツ・ハーバーが窒素をアンモニアに変える方法を生みだした。そして化学染料会社BASFのカール・ボッシュがハーバーの方法を工業化した。今日ハーバー・ボッシュ・プロセスで年間およそ二億トンのアンモニアが生産され、そこから肥料の窒素が作りだされている。
ただ植物のなかには優れものもいて、マメ科植物は空気中の窒素を取り込んでいる。
「空気中の窒素を栄養にできるマメ科植物」
https://biome.co.jp/biome_blog_169/#:~:text=%E9%A9%9A%E3%81%8F%E3%81%B9%E3%81%8D%E6%A0%B9%E7%B2%92%E8%8F%8C%E3%81%AE%E8%83%BD%E5%8A%9B,-%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%8E%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A6&text=%E3%83%9E%E3%83%A1%E7%A7%91%E3%81%AE%E6%A4%8D%E7%89%A9%E3%81%AE,%E3%81%AF%E3%83%9E%E3%83%A1%E7%A7%91%E6%A4%8D%E7%89%A9%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
マメ科植物は根粒菌との共生関係を使って空気中から窒素を摂取できるから、窒素含有量の少ない土壌でも育成できる。 そしてマメ科植物が葉を落としたり枯死すれば、取り込んだ窒素が土壌に蓄積されていく。
遺伝子編集がさまざまな領域で活用されていることから、マメ科植物のように植物にも窒素を固定する能力をと考える科学者がでてこないはずがない。Natureの記事がそれを伝えている。
「Scientists discover first algae that can fix nitrogen ? thanks to a tiny cell structure」
表題を機械翻訳すれば、「窒素固定が可能な藻類を初めて発見 – 小さな細胞構造のおかげ」になる。
https://www.nature.com/articles/d41586-024-01046-z?utm_source=Live+Audience&utm_campaign=5d05e7add1-briefing-dy-20240412&utm_medium=email&utm_term=0_b27a691814-5d05e7add1-50777512
「研究者らは、窒素ガスを細胞増殖に役立つ形に変えることができるオルガネラ(細胞の基本構造)の一種を発見した」
「藻類からニトロプラストと呼ばれるこの構造が発見されたことで、植物が自ら窒素を変換する、つまり『固定』するための遺伝子組み換え技術が強化される可能性がある」
植物が空気中の窒素を固定できるようになれば、化学肥料の使用を減らして環境への負荷も減らせる。いいことばかりにみえるが、その実現には遺伝子編集技術の応用が欠かせない。空気中の窒素を自分で固定する植物が誕生したら、遺伝子を人為的に操作した食物を危険視している人々はどうするんだろう。
p.s.
<ゴールデンライス>
四月二五日付けのBarron’sが遺伝子組み換えから生まれたゴールデンライスのAFP電を伝えている。
「Philippine Court Blocks GMO ‘Golden Rice’ Production Over Safety Fears」
機械翻訳すると、「フィリピンの裁判所、安全性への懸念から遺伝子組み換え『ゴールデンライス』の生産を差し止め」になる。
https://www.barrons.com/news/philippine-court-blocks-gmo-golden-rice-production-over-safety-fears-0e487e8c
要点は下記の通り。
「フィリピンは、小児失明対策として、ビタミンAの前駆物質であるβ-カロチンを豊富に含み、鮮やかな黄色をしたゴールデンライスを世界で初めて承認した国である」
「しかし、マニラの控訴裁判所は、14人の反対派が異議を申し立てた後、2021年に政府の規制当局が許可したゴールデンライスの商業生産のためのバイオセーフティ許可を取り消した」
「専門家は、この米が小児失明症対策に役立ち、開発途上国の命を救うことを期待している」
「世界保健機関(WHO)のデータによると、ビタミンA欠乏症は、主に発展途上国で毎年50万人もの小児失明を引き起こし、その半数は失明後12ヶ月以内に死亡するという」
「ゴールデンライスはフィリピンの国際稲研究所(IRRI)とフィリピン農務省稲研究所(PhilRice)によって20年以上かけて開発された」
「IRRIは『米の研究を通じて安全で効果的な栄養学的介入を開発する』ためにPhilRiceと協力し続けると述べた」
「IRRIはまた、ゴールデンライスはオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカの規制当局から『肯定的な食品安全評価』を受けていると述べた」
「しかし、ゴールデンライスは遺伝子組み換え食品に反対する環境保護団体からの強い抵抗に遭い、フィリピンの少なくともひとつの試験圃場は活動家に攻撃された」
「グリーンピースを含む反対派はこの判決を歓迎した」
2024/5/10 初稿
2024/6/25 改版
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13772:240625〕
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