延期の中国共産党中央委総会、予告通り開会 ―経済・外交政策に注目集まる
- 2024年 7月 17日
- 時代をみる
- 「リベラル21」中国共産党中央総会田畑光永
5年に一度開かれる中国共産党大会のほぼ1年後に開かれるのが慣例となっているその中央委員会総会(第20期3中全会)が、予告通りに15日から18日まで4日間の日程で始まった。
この会議は次の大会までの4年間の国政の方針をきめる場として、毎回、注目をあつめる。ところが今回は順当なら昨年秋の開会予定が例によって理由説明なしに延期となり、その間に2閣僚の解任とか、不動産業の危機などが重なったために、いつ開かれるのか、余計に注目を集め、政権としてもだんまりを決め込むわけにいかなくなって、4月末に今月15日の開会を予告し、それがとにかく予告通りに開かれたというわけである。
事情をもうすこし説明しておくと、5年に1度、秋に開かれることが多い中国共産党の定期党大会では中央委員とその候補、総計350人ほどの幹部が選出され、直後の第1回中央委員会総会でその中から政治局員以上の最高幹部が決まる。
そして年を越して春、全国人民代表大会(日本ではよく「国会にあたる」と注釈がつく国民代表による国政の議決機関)で決まる内閣の閣僚などに共産党から推薦する(実際はそれが最終決定となる)人選をする第2回中央委員会総会が開かれる。
ここまでで党大会後の党と政府の新体制づくりが終わり、そのまた半年後の秋に、第3回の中央委総会が開かれて、経済方針など重要な政策が打ち出されるのが恒例となっている。1970年代末、波乱の文化大革命時代から改革開放路線へと歴史的な転換が打ち出されたのは1978年秋の11期3中全会であったし、習近平が政権を担当して1年後の2013年11月の18期3中全会の「改革を全面的に深化させる若干の重大問題に関する決議」は336もの項目を打ち出して、改革が新段階に進むことを印象づけた。
今回の場合、習近平は前任の胡錦涛前総書記が2期10年で交代した前例を破って総書記3期目に居座り、国家主席の任期撤廃という憲法改正までおこなって国家主席にも3期目まで留任した以上、3中全会でさてなにを打ち出すのかと例年以上に注目されてきた。
ところが、昨年秋には、当時、本欄にも書いたように、外務、国防という重要閣僚が突然、理由もあきらかにされないまま解任されたり、毎年恒例となっていた経済に関する年末の大型会議が開かれなかったりと、習政権の足元がおぼつかない状態が続き、政権として最初の本格的な政策討議の場である3中全会も開けないままに終わった。
そこで、いつまでも黙っているわけにはいかない、と判断したのであろうか、中国共産党は4月30日、延期している20期3中全会を7月に開会すると予告し、さらに追っかけて総会は15日から4日間とまで予告した。言わないですむことは、極力言わないですます体質の習近平政権としては珍しいことであった。そしてそれが予告通り開かれたわけで、まずは国政「正常化」への一歩が踏み出されたというところである。
現在、会議でなにが行われているか、については、15日に習近平主席が「より一歩全面的に改革を深めて、中国式現代化を推進するについての討論稿」を説明した、という報道があるので、それについての討論が進行しているものと推察される。
とにかく新方針が打ち出されるお膳立てはできたわけで、あとは会議でいかなる方針が打ち出されるか、今年はとくにその中身が注目される。
一つは、中国ではここ数年、不動産業の不振が経済に暗い影を落としてきたが、これまでのような弥縫策―たとえば住宅ローンの金利をさげるとか、銀行へのつなぎ融資をふやすとかーでは、いよいよ事態はにっちもさっちもいかなくなりつつある。どこに血路を開くか、政権として決断が求められる段階が来た。これについてどういう施策がうち出されるのか。あるいは例によって、だんまりをきめこんで、成り行きにまかせるのか。
二つ目はごく最近の事態として、中国の外交環境が大きく変化したことをどう受け止めるか、である。中身はほかでもない、今月9日から米・ワシントンで開かれたNATO(北大西洋条約機構)の拡大総会が、10日の首脳宣言で中国をロシアのウクライナ侵攻の「決定的な支援者」と位置付けたことである。
一昨年2月、ロシアのプーチン大統領が中国を訪問し、習近平主席と両国の固い友好を誓い合った直後に、ウクライナ侵攻に踏み切ったこと、中國はその後、国連の安保理や総会の決議に際して、一貫してロシアを支える側に立ったことなど、中國がロシアの味方であることは明らかではあったが、こうしてNATOに日本、韓国などが加わって、欧、米、アジアの主要国がそろって、中國を「侵略者の決定的な支援者」と言い切ったことの意味は大きい。
これまで中国はウクライナ戦争を「対等な立場の国同士の戦争」という仮説に立って、停戦、交渉の開始を国際社会に呼びかけてきたが、その虚構が世界の主要国によって、強い言葉で否定されてしまったわけで、論理的には当然の帰結であるが、大国らしく振舞って、できれば和平仲介役をつとめたい習近平としては、頭から冷水を浴びせられたような心地であろう。
中国の報道機関は口を極めてNATO批判を展開しているが、中国外交にとっては、ロシアと同列に置かれて非難の矢面に立たされるという状況は自ら招いたこととはいえ、なんとも心外であろう。
中国外交にとってこれまでヨーロッパ諸国は基本的に地政学的に敵対する争点がないため、比較的波風の立たない外交相手であった。東西対立が激しかった建国初期でも真っ先に中國と外交関係を結んだのは香港を統治していた英であったし、その後の東西対立の中でも中国は仏の独自外交の相手役をつとめた。改革開放時代にはヨーロッパの経済大国、独は面倒な政治問題のない恰好の取引相手であった。
その欧州諸国がこれまでさまざまなしがらみのあったアジアの日、韓を含めて米の傘下にある諸国とともに中国と対立する関係を公式に明らかにしたわけであるから、ウクライナでロシアを支持したつけが思わぬ形で大きく跳ね返ってきたわけで、これをどう処理するのか、あくまで突っぱねるのか、それともロシアとの関係を再考する方向に進むのか、大変な情況変化に見舞われた形である。
この情勢変化について、今度の3中全会で政権として何らかの意思表示をするのか、しないのか、その出方によって世界情勢が変わるかもしれず、大きな注目点である。会議終了後の公式発表に注目しよう。(2024・7・16)
初出:「リベラル21」2024.7,17より許可を得て転載
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