破綻する維新の教育行政 大阪公立高校の定員割れ問題
- 2024年 9月 25日
- 時代をみる
- 「リベラル21」小川 洋維新の教育行政
大阪の政治は、この10年あまり地域政党である大阪維新の会に圧倒されてきた。しかしいま、その足元が大きく揺れている。大阪経済の起爆剤になると喧伝してきた大阪・関西万博は、その開催が近づくにつれて多数の懸念材料が噴出し、まともに開催できるのかさえ不安視されている。また党員や関係者による相次ぐ不祥事などもあり、府内の市長選や市議会選挙では不戦敗や候補者の落選が続いている。急成長した分、矛盾が一気に噴き出し、その勢いは明らかに失速しつつある。高校教育をめぐっても自らの罠に嵌るかのような状況に直面している。
公立高校が半減?
2011年、橋下府政のもとで成立した大阪府教育条例では「3年連続して定員割れした高校は、原則として廃止する」としている。この条例に基づいて、すでに17校(予定も含む)の廃校が進められてきた。今春の大阪府の公立高校では、全日制145校のうち、じつに半数近くの70校が定員割れした。誰も近い将来に無くなりそうな高校に進学したくはない。多少の例外はあっても少子化が進行する中、いったん定員割れした学校が復活する可能性は低い。
条例の規定どおりにことが進めば今後10年足らずの間に大阪の公立高校の半数ほどが消えていくことになる。維新府政は公立病院や保健所の統廃合など、保健衛生分野でも大幅な削減を実施してきた。それがコロナ禍で死亡率が全国最悪となった理由の一つと指摘されている。高校教育の提供は地方公共団体の大きな役割の一つであるが、公立高校の大規模な撤退は、不利な条件に置かれる子どもたちから教育機会を奪うことになりかねない。
各地で進む高校の整理・統廃合
高校の統廃合の動きは大阪府に限った話ではない。大都市圏の府県を中心に2000年前後から整理・統廃合が進められてきた。以下は1990年度と2024年度の公立高校数(全日制)の変化である。東京都211校→172校、埼玉県162校→137校、神奈川県181校→145校、千葉151校→125校、大阪府でも181校→149校(募集停止を含む)である。いずれも減少率は18%~20%となっており、ほぼ同じテンポで整理を進めてきたことがわかる。なおその間、私立は変化なしか微増している。
この背景には、突出して大きなボリュームをもつ第二次ベビーブーム世代の人口問題がある。ピークの1978年の出生数は207万人に達した。昨年の出生者数が約73万人だったことを考えれば、これがいかに大きな数字か分かるだろう。しかも彼らの親である第一次ベビーブーム世代が高度経済成長期に大都市圏に大挙して移動したこともあり、出生者数は大都市圏に集中した。大都市圏の各府県では、彼らの高校進学時に合わせて大規模に新設校が開設された。例えば革新県政であった神奈川県では、知事が「100校計画」を掲げ、実現している。大都市圏の府県は現在、その整理に追われているのである。
ただし大阪府以外の自治体では、全県的な学校配置や校舎の状況(築年数など)あるいは生徒の通学の便などを勘案しながら調整した計画案を発表し、市民の意見も聴取しながら実施を進めている。しかし、維新府政の方法は、事前に設定された数値に達したら廃止というビジネスライクな手法をとっているのである。
受験生の底辺校忌避と私立シフトの構図
今回大阪府で定員割れした高校に共通する特徴は以下のとおりである。
第一に、70年代~80年代に開設された学校が多いこと。つまり第二次ベビーブーム世代の高校進学に応じて開設されたものであり、その他の府県にも共通する。第二に、地理的には都市周縁部(郊外)に位置するものが多いこと。第三に、その多くが業者テストの示す偏差値が30台後半から40台前半であり、低学力層を受け入れていることである。これらの高校は、教育関係者の間で底辺校と呼ばれる。
大都市圏に共通する点であるが、新設校が多く開設されることにより、通学可能な高校数が増える。10校を超えることも珍しくない。しかも多くの府県で学区制は廃止され全県一区が一般的になっているから、さらに通学可能な高校数は増えている。それらの高校は大学進学実績のある「伝統校」などをトップとして学力レベル別に生徒を受け入れ、ピラミッド状の階層を形成する。学力低位の生徒といえども底辺校は避けたい。しかし「高望み」すれば不合格となって行き場を失う。
経済的に許すならば、私立という選択もある。私立高校では中3秋の段階で、本人や保護者を交えた事前相談において、業者テストの結果(偏差値)などを利用して、事前に合格を「確約」する。高校進学に失敗は許されないという事情から生まれた慣行で、大都市圏では半ば公然と行われている。そこに維新府政は、私立高校の「完全無償化」を実現したと主張をした。実際には所得制限が残っていて、その主張は虚偽だったのだが。いずれにしても学費の低減は、私立への敷居を下げたことに間違いはない。
大阪府では94校の私立高校があり、学校数では公私は約3:2、生徒数では約10:9である。私立校が都市部に集中して大規模傾向であるのに対して、公立高校は周辺部(郊外)にも分布し、小規模校も少なくないことを示している。維新府政以前には、生徒数の比率は公私協定によって10:7で維持されていたが、この十数年間で生徒は私立に大きく流れ、それが公立高校の定員割れの原因の一つとなっている。
誰が不利益を被るのか?
廃校となりそうな公立高校が大都市周縁部の郊外に多いことから、条例にしたがって廃校が進めば、郊外の生徒たちは都市中心部の高校に遠距離通学を強いられることになる。所得水準の低い家庭の場合、通学費の負担と、私立に進んだ場合には私立特有の経費負担も大きくのしかかることになる。
実際に阪南市にある府立泉鳥取高校は基本条例にしたがって25年に廃校となることが決定されている。76年に開設され、最大では学年500人を超える入学者を迎えていた。最近では学年200名程度の規模で推移し、偏差値は30台後半である。大阪府最南部に位置する阪南市は人口約5万を抱え、中学校は4校ある。市内に公立高校がなくなったため、多くの生徒は泉佐野市などの高校に電車通学を強いられる。
教育基本条例を制定した時の府知事は維新設立の中心人物であった橋下徹氏であり、氏は民間人校長の採用にも熱心であった。校長に求められる能力は「一にも二にも三にもマネイジメント能力」と橋下氏は強調していた。「マネイジメント」は、経営学の基本的な用語であり、リスク管理をしながら資源を活用し、目標実現することである。彼のイメージでは、「顧客」である生徒を集められなかった高校はその経営に失敗したのだから廃止して当然というものだったのだろう。あたかもスーパーマーケットやファミリーレストランの出店・閉店の計画を思わせる。
実は大阪府は東京都と並んで、今後の若年人口の急減がどこよりも激しく起きることが確実である。高校の整理・統廃合計画はよほど慎重かつ丁寧に進めるべきものであり、すべての中学生が安心して高校教育を受けられるようにすることが求められている。
初出:「リベラル21」2024.09.25より許可を得て転載
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