井戸川裁判第30回口頭弁論
- 2024年 10月 1日
- 時代をみる
- 「福島被ばく裁判」井戸川裁判経産省前テントひろば
国と東電を相手に原発事故の責任を問うてきた「福島被ばく裁判」。30回目の口頭弁論が9月18日東京地裁103号法廷で行なわれた。双葉町長だった原告の名前をとって「井戸川裁判」とも呼ばれるこの裁判は、9年にして最大の山場を迎えた。
午前中には原告側の証人尋問、午後は原告への本人尋問が行なわれた。原告側代理人は解任されているため、井戸川さん自身が裁判の流れを作らなければならない。そんな大変な法廷劇を見守りたいと、多くの支援者が傍聴に駆け付けた。
証言台に立ったのは、事故当時、双葉町の社会福祉協議会の責任者で、その後副町長を担った井上一芳さん(77歳)だった。宣誓文を読み上げた後、原告の井戸川克隆さん、国と東電の代理人、裁判官からの質問に答えた。
3月11日、井上さんは介護施設「ヘルスケア」にいた。50名の高齢者と、地震で避難してきた200名の町民の避難誘導をした。しかし役場職員による無線放送を聞いただけで、国や東電からの情報はまったく来ない。重度障がい者のための救助ヘリが来るというので、双葉高校のグラウンドへ連れて行った。その時、一号機が爆発した。
川俣町で最初のスクリーニングを受けた。「何度も手と顔を洗わされましたが、ダメだったのです」と井上さん。「何がダメだったのですか?」と裁判長が聞き返す。井上さんは、検査官が希望する放射線量まで下がらなかったという意味だと答えた。
検査官に「着替えて下さい」と言われたが、着替えなど持っていない。上着を脱ぐことしかできない。10日間、放射能で汚染された服を着たままだった。
「猛烈な被ばくをしたそうですが、どうしてわかるのですか?」と原告(井戸川さん)が質問した。
「6月の町議会で、髪が薄くなったことを指摘されました。体毛がすべてなくなったのです。全身のだるさと疲れが酷く、色々な病院に行きました。耳下腺に腫瘍ができ、字も読めなくなりました」。そして「今も通院は欠かせず、一番心配なのは晩発性障害です。それなのに、被ばくに関する謝罪を受けたことが一度もない」と語気を強めた。
また、原発事故によってどんな不利益を受けたかと尋ねられた井上さんは「すべてを失くしました。友をなくし、故郷をなくした。自分の家に入るのに、許可をもらわなくては入ることができないのです」と声を震わせた。
井上さんへの原告からの質問に対して、東電側の代理人は幾度か「誘導尋問です」と口を挟んだ。そこに、詫びる姿勢はまったくなかった。そして、井上さんに向けて「JR常磐線がすべて開通したのを知っていますか?」「双葉町に公営住宅や新庁舎が出来たのを知っていますか?」などの質問を続けた。「不利益ばかりでなく、利益もあったでしょう」と言いたいのは見え見えだった。
「まもなく国際会議が開催できるホールが完成することを知っていますか?」と聞かれたとき、井上さんは言った。「もちろん知っています。私なら作らせない。現地を知っているから」。
賠償について聞かれ、井上さんは「今の賠償は20分の一でしかない」と答えた。「20mシーベルトで住民を住むことが出来るということが賠償額の前提になっているが、納得いかない。私が住みたいのは一ミリシーベルト以下の双葉町なのです」と、きっぱり言い切った。
*証人尋問と本人尋問を担った原告
午後は原告への本人尋問が行われた。事故当時、双葉町長であり災害対策本部長でもあった井戸川さんは、国と東電に嘘をつかれたために、町民の命や財産を守ることができなかったと主張してきた。情報はすべて隠され、防災訓練マニュアルは絵に描いた餅だった。その後も国の基準の20倍以上で避難指示解除され、住民が無用な被ばくを強いられていることの違法性を訴えてきた。
裁判官から3月11日の行動を聞かれ、被害状況を確認するために奔走していたが、十条通報、十五条通報をファックスで受け取ったのみ。一号機のベントも10キロ圏内の避難指示も、国から伝えられたことはなかったと明言した。
しかし、国と東電の代理人は、本筋に関わる質問を避けた。その代わりに、井戸川さんが興した水道会社「マルイ」や家族のこと、家賃が無料であることなどを言わせて、避難後の生活も不足がないような印象操作をしていた。そして、井戸川さんが不信任決議を受け、町長を辞めるに至った原因を問うた。井戸川さんは「自分の名誉にかかわること。簡単には答えられない」と返した。
住民からすべてを奪った加害者が、居丈高に被害者を追及している。被害者はこうやって加害者にさせられてきたのだと思う。
しかし、井戸川さんは堂々としていた。裁判長が「座って話していいですよ」と言っても、傍聴席に声が届くようにと終始立ち上がって陳述した。記憶にとどめてもらえるようにと願っていたに違いない。
井戸川さんはよく「反面教師にして」と言う。それは、国も東電も真実を隠す、嘘をつくのを見抜けなかったことだろう。すべての双葉郡の首長が共有化すべき悔しさを、井戸川さんはたった1人、背負ってきたのだと思う。
原発事故の責任を問う十年に及ぶ裁判。原発事故の歴史に何が刻まれるのか見届けたい。
結審は来年2月5日。判決は7月30日に言い渡される。
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