今回の総選挙結果から 少数政党を中心に
- 2024年 11月 14日
- 時代をみる
- 「リベラル21」小川 洋総選挙結果
日本共産党の限界
筆者は以前マイナーな大学で教えていたが、ある時、授業の終わった教室で、一人の学生から授業内容とは何の脈絡もなく、「右翼と左翼って何ですか?」という質問をされて驚いたことがあった。一般的な知識として、フランス革命時の議席の位置から来ている、政治的急進派と保守派の区分であることを説明した。学生とっては、最近のニュースで聞いた言葉の意味を知りたかったのだろうが、簡単に説明できるものでもない。
学力優秀とされる有力大学の学生たちも、政治思想についての理解はおそらく似たり寄ったりだと思われる。彼らの多くは、社会主義などのイデオロギーや新自由主義といった新しい政治潮流の用語や思想には疎いと考えていいだろう。彼らの投票行動は、雇用や賃金あるいは税負担といった生活条件を直接・間接に左右する政治テーマによって動きやすくなっているのではないか。そのことを証明したのが、今回の若年層の投票行動だった。
今回も得票数を減らした日本共産党について、従来から支持してきた一部の人たちが、共産党の名前を捨てたらどうかと「助言」している。共産党は「資本主義を乗り越えて、……社会主義・共産主義社会の実現を目指す道を示している」のだとして否定的である。しかし、とくに若年層にとっては社会主義も共産主義も馴染みのない用語であり、共産党への支持を求めるのは、特定の宗教への入信を求めることに近い。共産党の指導者層が自らの思想・心情を保持し続けるのは自由だが、社会正義の実現のために政治活動を続けようとするのであれば、思い切って名称を変更し、ヨーロッパの社会民主主義の理念に近いものを掲げ、軸足をリベラル系野党勢力と緩やかに連帯する位置に移すべきではないか。
手を取り合って衰退の道へ-公明党と共産党
団塊の世代に属する者として、筆者は公明党と共産党の動きについて関心を持ち続けてきた。両党の支持者の多くは高度経済成長の恩恵に与ってきた世代であり、支持層は相当程度に重なっており、ある意味「似た者同士」だった。二つの勢力は「犬猿の仲」であるといわれるが、近親憎悪の関係に近いものがあるのだろう。
今回の選挙結果から、この十数年間の両党の衰退傾向が改めて確認されたといえる。公明党は公示前の32議席から24議席へと大きく取りこぼし、就任したばかりの代表が落選するという、党として衝撃の事態になった。共産党も同様に10議席から8議席へと、ついに一桁の議席数となった。下のグラフからも明らかなように、2009年以降の15年間に、公明党も共産党もそれぞれ、得票票を約30%減らしてきた。これは高度成長とともに歩み、停滞のこの30年間に現役から引き下がりつつある団塊の世代の退場による、支持人口の減少と歩調を合わせた動きである。
公明党の支持基盤である創価学会は教義も政治理念もほとんど空洞化し、「現世利益」追及の政治(選挙)活動団体と化し、自民党と同様に与党(政権党)でいること自体が自己目的化している。支持することにより受益を実感できる支持者は熱心に支持を続けるだろうが、先細りは避けられない。共産党よりも減少スピードが多少とも緩やかなのは、創価学会員たちが家族ぐるみで活動に参加する傾向が強かったからであろう。いわゆる宗教二世であるが、会員はすでに第三世代に移っており、今後の減少スピードは速まるであろう。
共産党も公明党とほぼ同様の道筋をたどるのは当然の流れであり、若年層にアプローチする糸口も掴めていない。そのため支持者の再生産には失敗し続けている。共産党はすでに今回の選挙で新興の少数野党3党に得票数でも負けている。共産党には政治思想的に明確な柱がある分、どこかで減少スピードは緩やかになるかもしれないが、政治的ポジションを変えないかぎり先細りは避けられず、抜本的な性格変更がない限り、10年から20年の間に消滅していくであろう。
新興の3野党
今回、国民民主党、日本維新の会とれいわ新選組の3党は、大きく得票数を増やしたり失ったりした。今回選挙では国民民主党が得票数を2.4倍、得票数で約360万を積み増して、議席数を4倍の28に増やし、「大躍進」した。またれいわ新選組も、得票数を前回よりも70%以上増やし、3議席から9議席へと勢力を拡大し共産党を上回る議席数となった。一方で、2021年選挙で11議席から一気に41人の当選者を得て「大躍進」した日本維新の会は、今回、300万票近くを吐き出し、議席数も38へと退潮傾向を示した。
これらの票の動きはどのように理解できるのか。支持政党なしのうちの300万票程度が、前回と今回、少数野党のいずれかに流れたということであろう。今回は、国民民主の「手取りを増やす」がキーワードになって若年層から働き盛りの中年層まで、幅広く票を集めることに繋がった。消費税の廃止を全面に打ち出したれいわ新選組もそれなりの票を集めた。
一方の日本維新の会は、大阪・関西万博のトラブル、兵庫県知事の失職、国会内での混乱した動き、さらには関係者の犯罪行為などの不祥事などが広く報道され、何かを変えてくれるかもしれないとの期待から投票した有権者を裏切る結果となったことが、大幅な得票減に繋がったのであろう。今回、国民民主党が掲げた「公約」は、その政策の具体性が曖昧であり実現可能性は低く、自公に取り込まれるだけで終わるのではないか。今回の維新と同様の軌跡をたどり、次回の選挙では大きく票を減らすであろう。
今後を展望する
今回の選挙での、れいわ新選組と国民民主党の得票数の増加分は合計520万票であり、既成政党を嫌って動く浮動票は最大で500万票程度と考えていいのではないか。総投票数の約1割である。この有権者は当面は棄権に回るのではなく、いずれかの党に期待して投票所に足を運び、どこかに投票するだろう。次の選挙では、この票を引き付けることができた政党は優位に立てることになる。
まず自公が獲得するのは無理だろう。1999年に成立した自公連立政権の寿命は尽きつつある。裏金問題に象徴される自民党の信頼性の喪失、地方組織の高齢化などによる運動量の低下、公明党の集票力のさらなる低下などから、来年の参議院選挙までに自公両党が党勢回復する見込みは薄い。
かといって、野田党首による「中道保守の支持層」の確保を掲げる立憲民主党も、政策も曖昧で、次回参議院選挙、あるいは次回総選挙で第一党となり、政権を担う党になるほどの力は持てそうもない。そもそも「中道保守」なる層があるのかも怪しいし、少なくとも若年層から30代の有権者に訴える力はないだろう。
前回は維新の会、今回は国民民主へと流れた数百万の浮動票を、立憲民主なり共産党が取り込むことができれば、議席数で自民党を上回る第一党に躍り出ることは可能だろう。名称と組織の性格を変更した共産党と立憲民主党、さらにはれいわ新選組が、国民生活を改善する具体的で総合的な政策・施策について、おおよその一致をみて緩やかに結びつくことによって政権を成立させることも夢ではない。立憲民主党には、野田党首に代わる、指導力と政策構想力のある党首を立てる必要があるが。
初出:「リベラル21」2024.11.14より許可を得て転載
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