書評:松下政経塾憂論―野田佳彦という不完全政治家を生み出す不完全システム
- 2012年 1月 5日
- 評論・紹介・意見
- 中田安彦書評東海由紀子松下政経塾憂論
ツイッターで超毒舌が何かと話題の著者(東海由紀子)の本ということで軽い気持ちで購入したのだが、なかなか面白かった。松下政経塾の内部に入って、途中で中退した東海氏だから書けるという内容である。仮に卒業していたら、何かとしがらみもあって書けないだろう。アメリカ留学をキャリアの中心にした東海氏だから逆に良くも悪くもこういう突き放した本が書けたのかもしれない。(前半は東海由紀子が政経塾に入塾して中退するまでの体験記、後半は江口克彦の話す松下幸之助論を東海がまとめたもの)
松下政経塾というと野田佳彦や前原誠司、玄葉光一郎、原口一博といった民主党の主要な政治家を輩出(排出)したことで知られる。政経塾上がりといえば、この本を読むまでもなく「インテリ、世間知らず、タカ派、口先だけは立派」などというイメージを私は持っていたが、なぜそのような政治家が出来上がるのかということが、東海、江口克彦の両氏によって解き明かされている。
一部を紹介したい。
<そろそろ選挙という時期になると、塾員の立候補者リストが塾側から塾生に配られます。本来、公益法人は選挙活動をしてはいけないのではないかと思うのですが、そこはあえて誰も触れなかったように思います。>(85頁)
<当時は、夜はほとんど毎晩のように、塾生同士でお酒を飲んでいました。(略)カラオケにもよく行きましたが、他の塾生が歌っている時に街頭演説の練習をしている人がいたりして、最初はびっくりしました。酒盛りしているか議論して喧嘩しているかなんて、幕末の志士みたいだなと思っていました。そのせいかどうか、政経塾は明治維新や幕末の志士が大好きです。>(79ページ)
<また、政経塾では、先輩が必ず後輩におごるルールがあります。ただしOBになると必ずしもそのルールは適用されていない事が多いのは面白い事です>(79ページ)
このように、松下政経塾の塾生の生活が事細かに書かれている。松下政経塾は全寮制で新寮生は「志(こころざし)だけ持参」と本当か冗談か分からないが言われているという。
しかし、松下政経塾は発足当初から、そして創設者の松下幸之助が死去してからは尚更のこと、松下幸之助の描いていた「新しい人間観」を育成し、体得させるという路線を離れ、サークル活動のような体育会系の団体になってしまった。このことは松下とも縁が深い江口克彦氏(みんなの党参議院議員)によって語られている。
松下政経塾は別名パナソニック政経塾とも言われるそうで、塾出身者は選挙に出る場合には、パナソニックに挨拶に出かけることは恒例になっている。だが、これでは松下労組の票と運動員が目当てと言われても仕方がないではないか。
そんな中途半端な団体だけを経て、県議会議員になって衆議院議員、総理大臣になっているのが野田総理なわけで、この国の政治が混迷をするのも当たり前だという気になってくる。
政経塾は完全に失敗だったのではないか。その結果は、不況下で更に追い打ちをかける復興増税や消費増税という最悪の政策を打ち出す野田佳彦という作品が証明している。
政治家を育成するというのは難しいことである。しかし、政経塾は松下幸之助がそのシステムを完成させる前に亡くなったこともあり、極めて不完全な存在である。輩出される政治家も不完全なのはそのためだ。松下翁の人材育成の「志」は良いとしても、もはや政経塾というスタイルではなく、「松下奨学金」などの形に変えていくべきだと思う。
現在の政党システムのもとでは、国会議員になるためには社会人経験5年以上や、地方政治経験5年以上といったハードルをある程度設けていくことも必要のような気がした。
この本はもちろん、東海由紀子という「ちょっとアレ」なキャラクターのゴーイングマイウェイの著者によるものということで色物、キワモノあつかいされそうであるが、政治に関心がある人は時間があれば一読をすすめる。この国の表向きの最高権力者がこんな育成のされ方をしていたと衝撃が走るはずであろうから。
http://amesei.exblog.jp/ より転載。
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