今こそ「核兵器廃絶」へ -北朝鮮の核実験に思う-
- 2013年 2月 16日
- 時代をみる
- 北朝鮮岩垂 弘核
北朝鮮が2月12日、3回目の核実験を行った。爆発規模は過去最大で、原子爆弾の小型化に成功したとされている。それだけに、北朝鮮による「核の脅威」はさらに増したとみられ、今後、米日韓と北朝鮮との対立、ひいては北東アジアの軍事的緊張が一層高まることが予想される。まことに憂慮すべき事態だが、私たち被爆国の市民がこれまで求め続けてきたのは「核なき平和な世界」だ。今こそ、核兵器そのものを廃絶させるための努力が改めて私たちに求められているのではないか。
朝日新聞によれば、北朝鮮の朝鮮中央通信は、今回の核実験について「これまでより爆発力が大きく、小型化、軽量化した原子爆弾を使った」とし、実験の目的については「我が国の平和的な衛星打ち上げを、乱暴にも侵害した米国の敵対行為に対する対応措置の一環」と発表した。
これに対し、2月13日付の朝日新聞社説は「地域の平和と安定を乱す暴挙で、強く非難する。国連安全保障理事会は、北朝鮮が核実験をすれば『重大な行動を取る』と警告していた。追加制裁などの対応を速やかにまとめ、核実験を許さない強い意志を示すべきだ」と論じた。
同日付の読売新聞社説は「北朝鮮が安保理決議を無視してミサイル発射と核実験を繰り返したのは、従来の制裁措置が実効性を欠いていたためだ。この悪循環を断ち切るため、安保理は今度こそ包括的で実効性ある制裁を決定し、その実施を徹底すべきである」と主張した。
同日付の毎日新聞社説は「北朝鮮の『核の脅威』がさらに深刻化したのは間違いない。北朝鮮はミサイル発射の際、何らかの物体を軌道に投入するなど技術進歩を見せつけた。大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)開発の可能性も軽視できなくなった。……その完成に必要な核弾頭の小型化技術は当然、射程の短い中距離ミサイルにも使える。大量に実戦配備済みのミサイル『ノドン』は、日本のほぼ全域を射程に収めている。これに小型化された核弾頭を搭載すれば、日本にとって最悪の大量破壊兵器になる。この厳然たる事実を軽視してはならない。……ともあれ深刻に警戒し、これ以上の脅威拡大を食い止めねばならない」と述べていた。
いずれも、北朝鮮の今回の行為を世界の平和と安全を脅かす暴挙であると糾弾する点では一致しており、日本国民の大方の心情なり気持ちなりを代弁するものと言っていいだろう。しかし、こうした一連の報道を読みながら、私は何とも物足りないものを感じざるをえなかった。核の問題を論ずる上で不可欠と思われる重要な視点が抜け落ちてはいないか、と思えたのである。なぜなら、そこには、核不拡散条約体制(NPT体制)への言及がなかったからである。
今、国際政治を支配しているのはNPT体制である。これは核不拡散条約(NPT)を根幹とする政治だ。世界で最初に核兵器を持ったのは米国で、これに旧ソ連(現ロシア)、英国、フランス、中国が続いた。核兵器の拡散に危機感を深めた各国は「これ以上核保有国を増やしてはならない」という狙いから、1970年、NPTを発効させた。現在、190カ国が加盟している。
NPTは核兵器の拡散を防止するためにつくられた条約だか、核兵器を持ってよい国を米国、ロシア、英国、フランス、中国の五カ国に限り、その他の諸国には核兵器の保有を認めていない。いうなれば、不平等条約である。
このことに不満をもつインド、パキスタン、イスラエルは当初からこの条約に加盟していない。北朝鮮はかつては加盟国だったが、2003年に脱退。そればかりか、インド、パキスタンはすでに核爆弾をもつ国となり、北朝鮮は度重なる核実験で世界を揺るがし続けている。イスラエルも核爆弾を所持しているのではと推測されている。さらに、イランが濃縮ウランの製造を進めているところから、核武装の疑惑が持たれている。
条約の狙いとは裏腹に現実は世界で依然として核拡散が進行しているわけで、NPT体制はもはや破綻しているとみていいのではなか。
条約の不平等性を意識してのことだろうか、条約には「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」(第6条)との規定がある。条約には、核保有国には核軍縮を行う義務がある、とうたわれているのだ。
そして、こうした規定がちゃんと運用されているかどうかを検証するためのNPT再検討会議が1995年から5年ごとに条約締結国によって開催されている。2000年の会議は「核保有国による核兵器廃絶への明確な約束」を盛り込んだ最終文書を採択し前進を見せたが、2005年の会議は核保有国と非保有国で意見が対立し、成果が得られなかった。が、2010年の会議では「核保有国による核兵器廃絶への明確な約束」が再確認されたものの、その後、核保有国による核軍縮交渉は進んでいない。
昨年10月には、国連総会第1委員会(軍縮)で、核兵器の使用を国際法上非合法にする努力を強めるよう各国に求める声明をスイス、ノルウェー、タイなど30カ国以上が合同で発表したが、核保有国やそれに同調する国々は参加しなかった。
ともあれ、こんな不平等条約が続いている限り、北朝鮮などに核放棄を迫っても説得力を欠くというものだ。私たちは隣国が核兵器を持つことを断じて容認できないが、世界の核保有国が自分たち以外の国々に核兵器の放棄、核兵器開発の中止を迫るためには、自らも核兵器放棄の決意と行動を示す必要があるのではないか。それに、核保有国が核兵器に依存する政策を続ける限り、核兵器を保有したいという誤った幻想を持つ国が次々と出てくることは確実なのだから。
被爆国日本の市民による反核平和運動は、かつて世界をリードした。が、1980年代半ばから勢いを失い、世界への影響力も後退した。核兵器をめぐる緊張が再び到来した今、日本の反核平和運動は再び「核兵器廃絶」を世界に発信する時期を迎えているように思われる。具体的には、市民が連帯して世界各国に「核兵器禁止条約」の締結を呼びかける。そうした努力が早急に求められているように思う。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2183:130216〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。